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駆けぬく季節は何時も全力前進 4

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 少し真面目で少し真剣な話をしていれば
「アヤトだ。帰って来てたんだ」
「ただいま。その恰好はバイトか?」
「うん。カフェでバイトしてるんだ。
 料理の作り方も教えてもらったりしてすごく助かってる」
「まあね。やっぱり料理を学びたかったらまず知る所からだからな」
「それを言うなよ」
 顔を真っ赤にして色素の薄い髪越しに染まる様子がわかる彼はフェイ・ノールズ。
 俺が潜り込んでる文学部で教科書を見せてもらって以来本談義からの交流を重ねて仲良くさせてもらっている本の虫だ。
 フェイが帰って来た所でジェムがコーヒーを淹れてくれた。そして俺には紅茶。オレンジを飾るチーズケーキを持って来てくれた。
「アヤトはコーヒーよりも紅茶だろ?」
「コーヒー派はフェイだけか?」
「美味しいコーヒーを飲むためにもカフェでバイトしてるからね」
 言ってジェムが顔を赤くする。あまりコーヒーを飲んだ事がなくってものすごく濃いコーヒーを淹れて温厚なフェイに怒られた経歴がある。なんてもったいない淹れ方をするんだ!と。淹れてもらっておいて文句を言うのはと思ったが、その時のを飲んでみて納得。これはもったいないとお湯を足して薄めて飲んでちょうどいい分量は二人分だった。そこからジェムもコーヒーを淹れる事を覚え、フェイも美味しいコーヒーを淹れる為にジェムに教えると言う所からの交流。
 俺の大学のアパートでの一件以来学部が違えど交流を持つようになった。
 ノルウェー出身のフェイはやっぱり金銭的に余裕がないと言うか、留学をするに当たり四年ほど社会人経験をしてきた。ヨーロッパでは社会人になると同時に家を出て一人暮らしをするのが普通らしいが、近所から指を指されながらも親元でしっかりとお金を貯めて留学資金を貯めたと言う。財テクでもお金を貯めてきたが収入のおよそ40%税金で引かれる国。恵まれた労働環境、高い給与。手厚い保険制度の裏にはこう言った国民の助け合う姿があっての物だと尊敬に値する。

「俺の夢は小説家になる事なんだ。
 読むのは勿論、書く事も好きだ。投稿して賞もいくつか貰っている。だけど勉強不足から世界観が広がらない。色んな文化を学ぶためにももっとたくさんの色んなジャンルの本を読んで俺の解釈をどんどん語り合いたいんだ」

 俺達数学脳には未知の世界にへーと話を聞いていたが、フェイと知り合って文系の授業に紛れ込み、今更ながらフランス文学の面白さを知るのだった。
 フランスに城を持っているのにね。
 ドイツ文学も面白いがとりあえず手短な所でフランス文学の本を買いあさる。
 もちろんこんな時はエドガーが大活躍だ。

「悪いけどフランス文学に関する本買い漁って来てくれない?」
「俺の得意分野だな。お勧めの本は何所に送りつければいい?」
「とりあえず郊外の家に。今なら管理人が常駐しているからどんどん送っていいよ」

 そんな感じでエドガーを舐めていた俺はフランスの城を買わせた手腕を甘く見過ぎだろうと言う様に大量の本に埋もれるジェムの悲鳴を聞く羽目になった。
 いや、それはそれで面白かったがお任せしたにしては中々面白いチョイス。
 小・中学生の読書感想文推奨のレ・ミゼラブルなんて王道から海底二万里と言う冒険もの、星の王子様、十五少年漂流記、怪盗ルパンなど一度は手に取ってみた事がある本もある。
 個人的ないちゃもんをつけるとするならロマンティックなお国柄。男女間の濃厚でどろどろの愛憎劇も避ける事が出来ない。と言うか、簡単に恋におちすぎだろうと思う。華やかな歴史も面白いし、アングラの部分も赤裸々に書いてある物もあり、イギリス同様階級社会のもどかしさもまた魅力を放っていた。
 大量に送ってくれたので速読でガンガン読みまくる俺に周囲はもう何も言わずに放っておいてくれたけど、フェイが初めてここにやって来た時フランス文学を収めた本棚を見て素直に嘆いてくれた。
「何でフランス語の本なんて買うんだよ!読みたい本ばかりなのに読めないじゃないか!」
「フランスで買って来てもらった本だからフランス語なのは当然だ。むしろここでフランス語を覚えたいと言う努力で学びたまえ」
 即席フランス語教室が開催される事になった。
 ジェムとクリフを巻きこんで。
 二、三カ国はしゃべる事の出来るお国柄。うろ覚えでもイギリス圏からフランス語、ドイツ語は大体理解して日常会話ぐらいなら自然とマスターしている。
 だけど読み書きとなると話は別だ。文字は読めても書く事が出来ない。日本でもうろ覚えの漢字を書けと言われているのも同じ事。俺は書けるから問題ないけど宮下が苦戦しているのを見ていれば理解は出来た。その後に続く高校生達に漢字を覚えさせることの難しさも目の当たりにして理解したつもりだけど
「アヤトー、覚えるから発音よろしくー……」
 フェンが本とスマホを持って来てなきついて来て俺はどっぷりとフランス文学に嵌り罠に陥るのだった。
 誰の罠だって?
 そんなの本をチョイスして来たエドガーのだ。
 関係ないが単位には全く関係ないが感想文を書いてフェンのゼミの先生に見てもらったくらいには読み込んでいて感想はただ一言。
「何で文学部ではなく数学を専攻したんだね?」
「いえ、数学と言うか数字の方が好きなので」
「ああ、うん。なるほど。君自体は文系ではないんだね」
 俺の残念な返答に納得してもらえた。

 そんな交流からこの郊外の家でバイトと本を読みまくって夏季休暇は家にも帰らず本漬けの日々を過ごすフェンの懐事情もかなり厳しいらしい。なんせ社会人時代に稼いだ給与だけでは全然足りないので長期休暇の時は詰め詰めのバイトをこなし、さらに余裕ある子供達はのびのびと勉強に励む日々と比べ余裕なんて一切なく、俺なんかと友達になるくらい追いつめられた才能の塊に俺は手を差し伸べる事にして

「日本からの本を土産に持って来たんだ。
 英訳してある物から入ってみようか?」
「それは楽しみだ。いつか日本語もマスターしたいな。
 何でも三つの言語を組み合わせてるんだよな。パズルみたいで楽しみだよ」
 俺はこう言った向上心を好ましく思い、この情熱が心半ば挫折しないよう後押しする為にこの家がある事を実行する様に
「その前にまずはフランス語だ。食べ終わったらやるぞ」
「ああ、楽しみにしてる」
 それは俺もだと言う言葉を隠して気候が良いから外のカウチでやろう、そう言う事になった。






 
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