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維持する努力が一番難しく思います 3

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 山の探検ばかりしてられない。
 たまには家で勉強もしたりする。
 ネットでイギリスのジェムやクリフと勉強会をしたりしている。
 少し遅れがちなジェムだって俺のイギリスの家の世話をしながら挽回をしようと懸命に勉強をしていてやっぱりまじめだった。だから判らない所とかはどんどん教え合ったりと長い夏休みをイギリスの家の管理と受験生並みの勉強でどんどん遅れを取り戻し、次の年の取りたい単位の勉強も始める勤勉ぶり。
 いつぞやかの脳筋に言いたい。

「親切で勉強を学べると思ったら大間違いだ!」

 学校にだって学費を支払って学んでいるし、塾にだって親が代金を支払っている。
 身体を壊した事で思うような学生生活を送れなかった事は可哀想だとは思うが、それでも同じ条件で同じように勉強する機会を与えられて向上心を持ってまた自信をつけた子達がいるのに、勉強に集中出来ないからと運動に逃げて、クールダウンの間に勉強をする。そんな片手間で何が出来ると言いたかったが、そこが脳筋。昨日の反省をする事なく目的を間違った方へと突き進むのでもう修正は無理だと珍しく投げ出した事に誰も何も言わないでくれた。
 それだけ言葉も思いも通じない相手に使う時間はただ疲弊して行くだけなので俺はあいつらの事を忘れる事にした。当然二度と会う事はなかったので何も問題ないが一度だけ先生がポツリとぼやいた。
「同窓会の時にあの三バカがやって来たぞ。
 あいつらなりに進路考えて就職にありつけてたぞ。あれからいろいろあってお前のアドバイスは覚えていたようで色々重機の資格取って結婚までしてた」
「ふーん。まあ、人並みには生活が出来ていたようで良かった」
 一瞬何の事かと思ったが三バカと言うワードで何とか記憶を取り戻してそれで終了。全く持って彼らの人生に共感も出来なければ何も感じない俺に先生は話しを早々に切り上げた。
 それに比べてハングリーさを持って麓の町を出て行った奴らは社畜の如く仕事にのめり込み、ふと我に返った時自分のやりたい事をやれるだけの財と立場を確立していたと言って人生の節目節目には遠い先の未来まで俺の所に挨拶に来るマメさも持ち合わせる人間に育っていた。
 先生にお前も見習えと言われたのだけは納得できない。

 そんな未来の話しは置いといて。

「アヤトは三年目の単位は何を取るつもり?」
「その前に綾人は取れる単位あるのかよ」
 なんて笑う二人に
「今年は卒論中心になるだろうな」
 なんて言えばさっきまで笑いあっていた二人の声がピタリと止まった。
 途端に静かになった事に疑問を覚えた物の作業中だったので大して気に留めずにいれば
「卒論って、卒業するって事?」
 ポツリと聞こえたジェムの声に
「他に何がある。家の事もあるし自分で決めた限られた時間は有効に使うに決まってるだろう」
 それはつまり……
 俺達の事はそこまで大切じゃない問われたのも同然なんだと言う様にクリフは立ち上がって部屋を出て行ってしまったのすらアヤトは気づかなかった。
 おろおろするジェムだが
「ジェム達みたいに高校卒業してカレッジに行く場合は高校卒業するまでにスキップして大学の時間を大切にするって聞いたが?」
「ええと、人脈作りとか、やっぱり高校までとは先生のレベルが違うからカレッジに在籍する時間を皆大切にするよ」
 聞いてアヤトは頷く。
「俺の国ではスキップ制度はないからな。単位はとっても決められた時間は学校に縛られる事になる。空いた時間にバイトしたりとか寝坊したりとか無駄とは言わないが時間の使い方がもったいないと思うわけだ。特に就職活動の四年目の授業はほとんど卒論に当てられる」
「アヤトは就職しないの?」
「しない。俺の家から会社に通うとなるとどれも通勤時間が半端ないから、それなら自分で起業した方が無駄がない」
 ジェムはアヤトにとって無駄とは何だろうと考えつつも話を聞く。たとえ相手が目を合わせず黙々とプログラムを打つに当たり自分の顔を見る事が無くてもだ。

 タン……

 ひときわ強くキーボードを叩いた音が響けば共通画面で見るプログラムがどんどん走って行くのをジェムは眺めていた。
 早くてどのようなプログラムかは事前に話し合っていたのにどういう構成なのかがさっぱり追いついて行かない。
 アヤト曰く新しいOSだと言う。
 新しいランゲージで全く未知の構成を確立してみたと言うが、全く持ってわからなかった。曰く、三つの言語を構成した物で出来ており、曰く、ルールに則っていると言う。
 うん。
 実物を目の前にしても三つの言語で構成されてるとかルールなんてわからない。
 ただ言えるのはこれだけ凄い事をしているのに内容はただの悪意あるコンピューターウィルスからの防御だと言う。
 アヤトは猛スピードで流れるプログラムを目で追いながらバグを探し
「昔作ったプロトタイプを知り合いに強化してもらってやっと使えるようになったレベルだったけど、今度は簡単には突破されないから少しは役に立ってもらえるかな」
 少し夢見心地な声音にどこまでも自分はお荷物なんだとジェムは目も合わせてもらえない相手に唇をかみしめるもこれだけお世話になってる相手に嫉妬するのは間違ってると自分に言い聞かせ、いつか追いついてやると静かなる闘志を燃やしながらも今はまだ視線を合わせてもらえないように相手にならない事への見当違いの怒りを耐える様に自分に言い聞かせる。

 十年先には追い付いてみせる、と。

 深呼吸を繰り返す事で平常心を取り戻せばアヤトの確認もちょうど終わっていた。
 思考を切りかえる様にジェムはゆっくりと息を吸い込んで
「アヤトはどんな会社で起業するの?」
 とてもシンプルな質問だと思う。
 四年居る所を一年早く切り上げるのだからそれなりに夢を持っているのだろうと聞けば
「できたら兼業農家って胸を張って言いたいな。
 家の事、山の事を主体にこうやってソフト開発が出来れば良い。
 資金は自力で調達できるから、その両方を両立できるようになりたい」
 なんとなく判っていたとは言えジェムは何だか泣きそうになった。
 これだけの凄い事をやってのけるのに職業・兼業農家って何なんだよと。
 農家主体とした多分世界レベルのプログラマーだろうアヤトの考えが一切わからなくて泣きそうで声がでなかったけど。
 それでも昔に今再構築したこのプログラムのプロトタイプを作ったのだから共に過ごすイギリスの生活は全く無駄ではない事に気付いてグッと涙を押さえつけて
「そう言うんだったらいつまでも故郷に居ないで早くこっちに来いよ。
 今学校のコンピュータルーム人が少なくて使いたい放題で教授達も暇してるから質問するには良い期会だぞ」
 そんな情報を与えれば
「だったらフランス経由を止めて直接イギリスに乗り込もう。
 オリヴィエには向こうに行ってからお土産を渡せばいいし、そう言えばフランスにバイトに行かせた奴らちゃんと働いてるかな……」
 途端に不安そうに頭を悩ます綾人にとってウィルやアレックスの方がまだ計算の確立しない存在なだけにやっぱりフランスが先だよなと真剣に悩むのをジェムは笑うのだった。
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