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夏をだらだら過ごすなんて夢のような話はこの山では伝説です 7

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 八月に入って夏たけなわ。
 一週目の日曜日の楽しみという様にダイジェストの富士登山駅伝を見ていた。
 毎年見ていてもこの駅伝は熱い。
 あの富士登山道を観光客の合間を縫ってのタスキリレー。
 岩場だったり鎖の梯子を上ったりアスレチック要素も盛りだくさん。
 何より標高三千メートル以上の場所でやるスポーツってどうよと鍛え抜いた自衛隊の皆さんが高山病で苦しみながら登るドラマが在ったり山頂で判子を持って待機してるシュールな神主さんがいたり何より怪我をしても足を止めないその根性。無時次のタスキを渡せることを願いつつ砂走りでタスキを渡した後転がってすちゃっと立ち上がった後のキメ顔。思わず拍手を送りたい。
「綾人も毎度それ好きだなあ」
「もうね、これほどエキサイトするスポーツってないよね。
 登山の装備はしっかりと言ってるわりには軽装備以前の装備で駆け上がって行くんだぜ?今は見なくなったけど昔はそれに自転車持って担いでる人も居たんだから俺には縁のない世界だよなあ」
「だよな。毎年同じこと言ってるのが良い証拠だ」
 俺が興奮しながら見てる横で先生は塩茹でをした落花生を摘みながらビールを楽しみ、ワサビ菜を浅漬けしたのをまた摘まむ。
「くあっ!ワサビ菜効くなあ!」
「今朝少し間引いた物を漬けただけだよ。烏骨鶏に食べさせれないから先生にってね」
「なんかせんせーのご飯が鶏以下って聞こえるんだけどー?」
「そんな事ないよー。まだ虫食べさせてないだろ?」
 思わず返す言葉を探す高山だったがそこは無言を貫いて落花生をまた摘まむ。
「そういやお前の従弟、自衛隊の奴元気にしてるか?」
「んー?生存報告は届いてるよ。そうだ。結局陽菜の奴迷いに迷って調理師免許取りながらパン屋でバイトしているらしいぞ」
「まぁ、なんか女の子らしい夢のある話だな」
「ケーキも作ってるらしい。でも自分で店を開くのはやめとけと傷口は抉っておいた。実母が趣味の店を開いて赤字で閉店&離婚からの家族の奴隷と言うトラウマを思い出させておいた」
「えげつない話ねぇ」
 やれやれと言う様にビールを飲む。
「大丈夫。当事者が一番夢とかそんな事考えてなかった。
 目指すはホテルのパティシエとかなんとか。狭き門だががんばれと応援はして置いた」
「学費返して貰わないといけないからなとは言え陽菜は頑張り屋さんだなあ」
「それー。
 あの馬鹿の給料で二人分の生活費は何とか賄えれても一番金のかかる時期の学費を出せるだけの余裕はないからな。頑張ってもらわないとな」
「って言っても無事就職したんだろ?」
「まだ。学費溜める為に浪人してたから」
 意外な進路だった。
 当たり前のように進路の為の説明を受けるつもりでお金を貸すのだろうと思っていたけど103万の壁を超えないように堅実に働いて約一年分の学費を貯めていた。
「意外と現実派だね」
「いろいろあったからな。ちゃんと物事は考えれるようになったらしい」
 留学先では学費を溜めて入学を遅らす事なんて全く普通な事に少し新鮮さを覚えた綾人だったが意外な所にこんなにも身近な所に居たのに感動した。
「とりあえずそれでもどうしても足りない部分はあるだろうからと何も言ってこないから高校と同じぐらいの毎月同じ額の振り込みはしている。あくまでも諸経費何て考えてないだろうあの馬鹿に物事を覚えるにはちょうどいいタイミングだから」
「まぁ、あるわねえ。先生も学校の個人面談の時に
 『授業費無償なんて至ってても光熱費って意外と高いんですね!』
 なんて言われてね
 『授業費に光熱費は関係ありませんからね。なら運動場で授業しましょうかって話しになるので真夏や真冬は無理になりますから』
 って説明すると大体納得してもらえるわ。ほら、たった一人の意見で学校全体を巻き込む事になるでしょ?誰だってお子さんを生贄にしたくないじゃない」
 納得の内容とうちの親なら景気よく生贄に捧げただろうな。むしろ生存価値すらなかったしと考えながらそんな所にも興味を持たなかった親だったから逆に良かったのかと考えてしまえば頭をトンと叩かれた。
「お前親は自分大切だからそんな事はしない」
 一番ダメージ受ける言葉だったが
「俺の心の中まで読まないでよ」
 思わず自分で自分をガード。なんで先生に考えていること読まれる?あれ?以外にもけっこう読まれてるななんて思考を巡らしていれば
「お前は考えている時ほど表情が抜け落ちる。怖いから考えすぎるな」
「なんか失礼だな」
 そう言って落花生を独り占めする事にした。一瞬酷いと言う様に伸ばされた手を無視してビールと一緒に口に放り込む。
 ちゅっと中身を吸い出したラッカセイは圧力鍋が良い仕事をしてくれてふちゃふちゃで、落花生を作ってもらった事に感謝をして先生を一切無視し通した。
 落花生に負けた先生かっこいい!
 なんて言っておけば大体丸く収まるので一応今回も言っておいたそんな言葉遊びで誤魔化していれば
「綾人君、悪いね。今回もだけど茅貰ってくよ」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。
 何か草刈りとかまでしてもらった挙句に麓の家の水場に茅を葺いてもらうとか」
「鉄治さんの指示と長沢さんの気合に負けないくらい綺麗に葺きましたので是非見て行ってあげてください。どこの仏閣かってぐらい手の込んだ場所になってますよ」
 そんな井上さんの苦笑。だけど俺は俺が作った設計書よりも何倍もかっこよく、そして美しくなっているだろう仕上がりに見ないでももう満足はしている。
 森下さんを初め沢山の人が夏休みを満喫しながら手伝いに来てくれたのだ。
 毎度思うのだが
「みんな好きだなあ」
 何がとは言わずにいれば
「そりゃあ天然のクーラーの中に居るんだ。今最高気温の場所と気温が10℃違うと聞けばみんな体を休めに来るさ」
 俺が帰って来てからずっと山暮らしをしている先生が言うと納得と言う様に頷いた所で富士登山駅伝が終わった。
 毎年ながら安定の地元の優勝にホッとしながらも皆さん似たようなタイムなので省略される一般市民ランナーの皆さんを見る前に終了。テレビ放送はダイジェストだから仕方がないからね。
 箱根もびっくりな急な坂道を駆け上がるドラマ満載の良い駅伝だったと夏休みの終わりを告げるような俺の中のイベントが無事終われば皆さん五右衛門風呂で汗を流してさっぱりとしたり誰かが持ち込んだBBQコンロで楽しみだしていた。ちなみに野菜は取り放題で食べてもらっている。
 奥さんに三下り半疲れても知らないぞと見守っていれば
「綾人君、テレビが終わったなら食べにおいで。先生も。スペアリブがいい感じに焼けてきたぞ!」
 満喫しすぎな森下さんに俺達は苦笑を隠す事なく笑いながら
「せっかくなのでたくさんいただきますね!」 
「もちろん。今までいっぱい甘えさせてもらったんだから、ぜひ今日はたくさん食べてくださいね!」
 言いながら片手にはビールをご機嫌に握りしめていた。




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