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夏の深山を快適に過ごす為に 9

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 カブトムシにテンションがおかしくなった叶野はカブトムシを投げて来たり服にどれだけカブトムシを付けれるか何そのチャレンジハはとわけのわからない事を楽しんでいた。
 いや、ほんと。
 カブトムシ逃げろよ。
 逃げたカブトムシは別のコンポスト(?)に逃げ込む行動範囲の狭さにカブトムシの生態なんて知らないけどもっと遠くに逃げないと生きてけないぞとうちの竹林から出て行けと思わず叫んでしまえば
「おま、良くそれで自称農家(笑)なんて言ってられるな」
「はっ!所詮は農家詐称程度だ!
 やっぱり気持ち悪くても幼虫のうちにかき集めてウコに食べさせるんだった。絶対タンパク質にいいはずだと思うのに」
 めそめそと泣いてしまう物の
「烏骨鶏が食べるには大きいだろ。小さくちぎって食べさせるつもりとか?」
「やめてよそう言うこと言うの。うちのお嬢さんたちは肉食系だからそのまま食べてくれるからいいのよ」
 その上寒いから育たない。絶滅させるにはちょうどいいと密かに計算してみるもどのみちアレを拾い上げなければいけない現実にこれはもう放置しよう。放置で良いじゃないか。年に一度はコンポストを壊して全部Gに角が生えた奴らを麓の小学校に贈呈すればいいじゃないか。保育園もある。お盆の時に寺の前の雑貨屋で百均で買った虫カゴの中に入れてカゴ代だけで売ればきっと一瞬だ。道の駅、農協でも十分実績を積んだから間違いないとこんなことやり始めた奴らには絶対責任を持ってもらおうと今年も決意する。
 そして来年もまたちゃっかり増殖しているコンポストに絶望するのだが、だからと言って燃やしてしまえと言う非道は出来ない。
 絶対夢見そうだから。しかも悪夢で!
 虫だらけの悪夢ってどんなんだよと考えただけでも眩暈がしそうだから強制的にその思考をシャットダウンする為に竹林を抜けて圭斗の家へと向かう。
 
「圭斗いるー?」
 玄関をガラリと開けてずかずか入って行く俺を叶野と柊、そして蓮司まで無言で勝手に上がっていいのかと言う視線を背中に向けて来るが
「綾人さんいらっしゃい。圭ちゃんなら台所に居るよ。それよりも今ね……」
「綾人さんお久しぶりです。お土産沢山いただいているのにご無沙汰してます」
 ちょこんと頭を出して挨拶する。
 圭斗がイケメンなら陸斗もよく似た顔立ちとなる物の少し幼さを残しておぼこいねえと今後の成長が楽しみだと言う所だろう。そして
「香奈だ。戻って来てたんだ」
「うん。夏休みは忙しいので一足早めの夏休み貰って圭ちゃんと陸の顔を見に来ました。今日来て明日帰る予定だから変にみんなに連絡しなかったのに偶然ってすごいね」
「何遠慮してる。お前の辞書に遠慮なんてないだろ。
 とりあえず喉乾いたからお茶欲しい。あと後ろの奴のもよろしく」
 そう言った所で圭斗まで顔を出してきた。
「お、蓮司だ。あと……」
「叶野さんと柊さん。綾人さんの大学のお友達だよ」
「嘘っ?!綾人さんに友達とかって、どんな脅迫したの?!それともどれだけお金積んだの?!」
 キャー!蓮司!写真撮っていですか?はい、ポーズ!なんてスマホを構えるも
「香奈、ちょっと外に出ようか。あと蓮司の写真は一枚一万円だ」
「しねーよ」
 蓮司のツッコミを無視して行くぞと顎をしゃくればすぐに
「ごめんなさい!ちょっとしたジョークです!」
 逃げる香奈はしっかりと圭斗の後ろに隠れるもだ。
「お前が悪い。確りしばかれて来い」
 そして妹を俺の前に突き出す鬼畜ぶり。ちゃんといいお父さんをしている。
 とりあえず外に引っ張って行って玄関から出した所で玄関を閉めて鍵も掛ける。
 だけど三秒後
「ひーどーいー!
 冬だったら足が霜焼けになるよ」
 庭側の網戸を開けて入ってくる逞しさに蓮司は大笑いしてるけど育ちが良い叶野は逞しい香奈の様子にちょっと後ずさりしているのが妙に笑えてここで許してやることにした。
 すぐに陸斗が濡れたタオルを持って来てくれて家の中は最小限の被害で済んだ所でやっと居間に移動してお茶と俺が押し付けたもらい物のせんべいが出てきた所でやっと一息が付けた。
「それにしても圭斗が家に居てくれてよかった。今虫談義から竹林の昆虫集計しようとしたんだけどこのバカのせいで酷い目に合った」
「何だ?カブトムシ投げつけられて泣いて逃げてきたか?
 またかというような圭斗の呆れた視線に香奈は笑うも
「このアホ服にどれだけカブトムシ引っ付かせられるかなんてチャレンジしながら投げてきやがった。絶対今夜夢見る悪夢な奴!」
「ああ、それは、さすがに……」
 いくらなんでもキモいだろと圭斗ですら引いていたけど
「そういやさ、最近コオロギチップスとかイナゴスナックとかあるけどカブトムシはならないの?幼虫の頃ならなんかやわらかそうじゃん」
 それを上回る恐ろしい奴がいた。
 さすがに都会育ちの坊ちゃんたちも虫食には想像したのかぞっとしたように肌が粟立っていたが
「まぁ、海外のどこかなら食べるだろうな。
 だけど虫を食べなくていいように勉強して働いて稼いで虫以外の物を食べれるように俺は頑張る」
「でもー、意外とイナゴの佃煮とか美味しいよ?鉢の幼虫を炒めて塩で振ったりとか昔お爺ちゃんによく食べさせてもらった覚えある。あ、この街の特産品でもあるからよかったら農協とか道の駅で売ってるからチャレンジしてみて?」
「いや、無理だから。そう言うのを進めない」
「だよねー。さすがに私ももう無理だもん」
 子供って無敵だよねーとまだ篠田家の子供達がちゃんと子供として育つ事が出来た時代。いや、イナゴやハチを食べさせられてる時点でどうかと思うもそれ以上はもう考えるのをやめた。
 柊や叶野、そして蓮司もさすがに無理と丁寧に辞退する。
「それにしてもこの夏はオリヴィエは来なかったんだ。私も一度会って見たかったなー」
 言えば何故か叶野が得意満面に
「この夏はヨーロッパで演奏会旅行なんだ。クラッシック的な演奏会は秋からだけど、今はテレビからのオファーとかでスケジュールがほぼ埋まってるんだって」
「さすがに城に帰れないのは嫌だからって何とか無理なスケジュールは組まずにいるみたい。そこは事務所の人も頑張ってるみたいだし、前みたいな安売りはしないって言ってたけどクラッシックってそんな劣悪な環境なの?」
 柊の疑問に俺は苦笑。
「まぁ、そこは前のマネージャーの腕が最悪だっただけだ。
 今は事務所の中でも一番腕利きの人にマネージャーやってもらってるから最高のコンディションで無理なく演奏旅行にであるいてるさ」
 ジョルジュの後継、マイヤーの愛弟子。そう言った事も背負い、同世代では一番の知名度のトップクラスの大ベテラン。そして動画配信では同業者の中で一番の視聴者数を誇る……
 やっぱり見た目って大切だねってオリオールのご飯でどんどん健康となったオリヴィエの王子様顔はもう無敵だと本当に思う。
「うーん、よくわかんないけど。
 そうだ。それよりご飯どうする?晩ご飯私で良ければ作るよ?」
 そこは食べに行こうと言わないのが篠田家のしみついた懐事情。
 食べに行こうと言う発想が出てもおかしくないくらいに収入も平均並み以上にはなったはずなのにしみついた節約生活からはなかなか抜け出せないでいる。
 だけどそれが良かったのか
「あ、俺女の子の手料理食べたい!無理しないように何か買い足してさ。
 こっちにいるとスローフードばかり食べてたからジャンクな物がいいな」
 蓮司の希望に
「だったら天ぷらとかよりから揚げの方がよさそうだね」
 本日の料理当番なのか香奈が言えば蓮司の目がきらりと光る。
「ぜひよろしくお願いします!」
 男の子、みんなから揚げ大好き。なんてそうじゃないのも居るだろうが無視をするも
「から揚げで思い出した。
 俺ケンタッキー食べてみたい」
 そんな叶野に全員で「ん?」何て小首かしげれば
「ジャンクは食べるなって家の方針だから食べた事ないんだ」
 なぜか申し訳なさそうに柊が小さくなっていた。きっと母親以下略って奴だろう。
 だけどそんな事情を知らない蓮司は
「ありえない!!!」
 思わずと言う様に声を張り上げて、俺は財布から万札を取り出した。
「圭斗、ちょっと車走らせてこれで買えるだけ買って来い。ポテトも忘れるな。残ればカレーにすれば十分だ」
「ああ、そんな一大事ひとっ走り行ってくる」
 陸斗後は頼んだ!と言って出かけてしまう頼もしい圭斗の背中を俺は頼んだぞと見送る。
 仕方がない。
 この田舎町にはそのようなフランチャイズはなく、一番近くで一時間ほど走らせた隣町か隣県のどちらかなのだ。
 叶野も柊も知らないだろうが、蓮司の人に行かせるのかと言う非難じみた視線はまあ、顔を反らして気付かないふりをしておくのが正解として置いた。

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