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正しく夏休みを過ごす為に 5

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「そんなわけでお土産です」
 戻った早々篠田工務店の事務所で俺はお土産をどんどん積んで行った。
 半眼になって正面のソファでふんぞり返る圭斗の目の前の土産は食べ物ばかり。
 きんつば、じろあめ、柴舟小出。お菓子以外にお吸い物最中、のどぐろの開き、ちょっと変わった物で奇跡の食品なんて言われたりもするふぐの子を並べてみた。勿論先生の分は別に地酒セットを用意してある。干物に関してはいろいろ買って来たので内田さんや長沢さんにも配るつもりだ。宮下家は息子が用意したので十分だろう。勿論お寺さんや実桜さん達の所にも持って行く。ほら、女の職場にはお菓子が必須だからね。ご機嫌取るのも忘れてはいけないのだよと言う様にもなかを用意しておいた。
「あ、今夜のご飯に柿の葉寿司とますずし。これとお土産のお吸い物で十分だろ」
「まあな。って言うかふぐの卵巣の方だろ?これって本当に食べても大丈夫なのかよ……」
 お土産攻撃よりも普通なら毒物として絶対口にしてはいけない物が食品として売られているのだ。俺も最初は耳を疑ったが、旅館の前菜で出された時は仲居さんに思わず食べていいのか聞いてしまった。だけど俺と同じ意見の人は外にもいたようで驚かせて喜ぶように微笑みながら
「ぬか漬けにして三年すると毒が消えるらしいとか。って言うか気化して消えたんじゃね?なんて思ってるんだけどね」
 因みに気化する物でもないし、ふぐ加工の資格も必要になり、更には毒性検査されてやっと出荷される物だと言う。
 安心して食べて良いですよと言われて恐る恐る食べたけど正直かなり塩味が強いのでお酒ばかりが進んで正直美味しいかどうかは判らなかった。からすみのような、チーズのような。それだけで十分酔っぱらって塩味しか覚えてないのは宮下も同じ意見だ。先生だけでなく俺用にも買ってあるので今度飯田さんにお願いして美味しい食べ方を教えてもらおうと思う。勿論飯田さんにも献上する様に買って来たけので密かに楽しみにしている。
 だけど圭斗は目の前のお土産の山を見るよりも俺の顔を見て
「とりあえず先生の方は〆ておいた。得体の知れない奴らを連れて来るなってな。
 陸斗も疲れ切って帰って来てたからいい加減にしろって旅行に行ってる間の飯はご飯に梅干しだけにして反省はさせた」
 それもどうかと思うが一番迷惑をかけた気がして申し訳なく思うもだ。
「宮下にちゃんとありがとう言えよ。一番にお前の調子が悪い事気付いて予定を放り投げて気分転換に連れ出してくれたんだから」
「仕事あったのかよ。突然行くぞっていうからてっきりないもんだと思ってたんだけど」
「あった。だけどそれは宮下でなくても良い物だから別にいい。有給はあいつの権利だからって言うのはお前が言ってた事だ。
 それに今は長沢さんや内田さんがフォローしてくれる。お前が弥生さんみたいになるくらいなら全然問題ないって……
 あの二人めっぽう弥生さんにどつきまわされて苦手意識があるらしいぞ」
 だからこその協力と言うのだろうか。
 まあ、今となれば十分夏休み気分を味わえたし
「それにお前だって時差ボケの真っただ中だっただろ。しかもあいつらと同じく気圧差が馴染む前だったし。ほんとあのクソ教師ばっかじゃないかって言ったぐらいだし」
「言ったんだ……」
「言うさ。そこまで言わないと反省しないしなあの教師は」
「だけどもう綾人も元気になって帰って来たんだから終わりだよ」
 言いながら宮下が先生を連れてやって来た。
 それはもう萎れたと言う表現がぴったりなくらいの元気のなさ。
 俺もめんどくさいが先生もめんどくさいと言いたげな圭斗に申し訳ありません。ですがその通りですねと反省はするけどその場限りなので俺はまた迷惑をかけるのだろう。
 そして先生も同様に
「綾人ー、もう怒ってない?本当にごめんなさい」
 ソファに座っていた俺の足に飛び込むようにしてしがみついてきた。逃げようにもすでに掴まれた後で逃げようもできなく、気持ちが逃げるのを表すように背もたれからずれた体はソファの上に転がった。
「ちょ、先生危ないっつーの!」
「だってこうでもしないと圭斗が怖いんだよ!酷いんだよ!人でなしなんだよ!」
「黙れ」
 何が酷いんだと憮然とした顔で言い返す横で宮下が他人事のように笑っていた。実際他人事だし、宮下はちゃんと自分の役目を全うしたのだ。先生超笑えるーなんて柴舟を食べながら一人お茶を飲んでいた。
 俺も食べたいと言う様に先生から脱出を試みるも簡単に手を放すような先生じゃないのは知っていて、宮下も長丁場になるからと圭斗に柴舟を食べさせていた。
「元々先生が自分の仕事を人に押し付けるのが悪いんだろ!
 あのやる気のない奴ら初めてだぞ!って言うかうちは訓練場じゃねーんだからな!」
「そう言って毎度毎度最後まで面倒見る癖にー?」
 全く反省してない先生に血管がぶちきれそうだけど
「ほんと先生も懲りずに綾人を煽って遊ぶのも毎度だよねー。
 知らないよー?また五右衛門風呂入らせてもらえない月間になっても」
 何だそれはと圭斗が聞くのと同時に先生の目も死んでいた。
「言葉通り。仕事疲れてうちに来てお風呂に入りましょーって蓋を開けたら空っぽ。これほど寂しいひと月ってないよなって話し」
「ああ……」
 身長以上に積もった雪をかき分けて辿り着いた先は氷の張った風呂でもなく何もない鉄製の風呂釜だけとは泣きたくても泣けない事案。水を溜めて温めてとなるとどれだけ時間がかかるか判るかい?な大仕事を夜中に見たら心が折れるほどの大問題。
 あの寒さを思い出してぶるりと身を震わす先生に
「ああいう問題児を連れて来るならせめて一人でもあいつらを従わせれる奴がいないと。猛獣使いじゃなくていいから取説代わりの飼育係一人入れないと。だから負担が全部綾人に回るんだから。
 ほんと今思えば水野の無神経さと植田のツッコミってほんと貴重な素材だったよ」
 あのコンビがいればさすがの脳筋も軽く絶望を味わう事が出来るのにと言うのにそこまで言うかと考えるもよくよく考えれば必殺の水野メシがあるのだ。確かにあれは絶望すると毎度何とか食べれるようにリメイクする宮下ってかなり有能なんじゃね?なんて見当違いな事を考えてる間に圭斗はお土産のふぐの子と一緒に日本酒を開けて飲み始める始末。
「圭斗、それ先生のお土産じゃ……」
 宮下が確認をするも
「反省しない先生に土産なんて必要ないだろ」
「ごめんなさい!マジごめん!俺様もあの三バカの取り扱いほんと分らなくって押し付けたの認めるから!
 先生のお土産、先生にも食べさせて!!!」
 そんな悲鳴にかなりすっとして圭斗のお酒を取り返そうとして返り討ちに会う姿を眺めながら俺と宮下も新しいお酒の封を開けてふぐの子をちまちま食べながらお土産のお酒を頂いていた。

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