上 下
702 / 976

脳筋なめんな! 3

しおりを挟む
「とりあえず今日はお互いの自己紹介の為に一つの事を共にしたいと思う!」
 全員草刈りモードの服に着替えれば家の門の外に出て道なりに真っ直ぐ降りれば宮下家へと繋がる道路に並ぶ。
「まずはここの事を知ってもらう為にも道路に出る門の所まで掃除をする!」
「綾人よ、気合入ってるな」
 先生は既におやつと称して陸斗に作らせたおにぎりを一人かぶりついていた。そんな教師を無視して
「側溝の葉っぱを掻きだし、道路の落ち葉や枝を処分する!ただそれだけの誰でも出来る簡単なお仕事だ」
 どこからかふっと小さく笑う声が聞こえてきた。一樹よ、その笑いの意図はよくわかるがよくぞいいタイミングで笑ってくれた。
 予想通り脳筋で育った三人組は徴発されたと思って俄然やる気を見せてきた。あとで大学入試の勉強を見てやるぞ。
 用意された掃除道具から竹ぼうきを持って三人共直ぐに散って道路の落ち葉を隅に寄せて小山を作り始める。身体を動かすのが好きだと言う様に誰よりもフットワークよろしく掃除を始める中陸斗達は一度門の中に入って暫くしてから改めて道具を持ち出してやって来た。
 もちろん文明の機器、ブロワーとチップソー。我が家の草刈りと掃除の基本だ。小型のデンノコももって来て、葉山は植田が作ったベルトに小さな鞄を取り付けてバッテリーを詰めると言うヒップホルスタータイプを巻いて再登場。地味に人気よりも便利でつい俺も使ってしまうのでベルトのくせは俺の腰回りで形が出来ている。先生に上書きされたけど。
「あの、それなんですか?」
「ん?掃除の神器のブロワーとチップソーって言います」
 幸治がしょってる籠の中にはチップソーの替えのナイロンコードが入っている。勿論デンノコの替えのチェーンも入っている。メンテナンスで手入れをすれば使えるようになるが、作業中はお日様が出ている時間が限られているのでさっさと新品に変えるのが我が家の流儀だ。ほら、メンテナンス何てテレビ見ながらでも出来るし俺じゃなくても出来る事だからね。
 先生がテレビ見てごろごろしている時にやらせてみたら妙に気に入ったらしくちまちまとやってくれるのでお酒の減量を兼ねてやらせるようになった。ちなみに飯田さんには鎌とかを研がせている。ほら、刃物に愛情込める人だから……
 料理人だから刃が大事。メンテナンス欠かさないと言うだけで決して危ない人ではない事を断っておく。
 ブロワーとチップソーを使う幸治と一樹は刈り取った雑草を斜面に吹き飛ばして捨てて行く。いい腐葉土に慣れよと見送っていれば
「あの、この集めた葉っぱはどうすれば……」
 何気なく不安な顔をする新入り三人組に
「ああ、土に帰るから斜面の方に捨てて良いぞ。途中沢があるけどそこに捨てられると詰まって後で沢の下の人から怒られるから沢には捨てないように」
「えええ……」 
 遠藤が本当にそれでいいかという都会っ子に
「ここでは葉っぱが落ちたり枯れた草は微生物によって土に帰る。自然のサイクルを活用してるだけだから負担に思う事はないぞ。むしろ栄養になるからどんどん捨ててくれ。
 新芽の上にかぶさって雑草の成長を阻害できればなお良いと言う事は心の中だけにしておく。 
「とりあえず決して安くない機械だから新人に簡単に使わせるわけにもいかないからな」
 ここに来た時はまずは草刈り鎌や枝鋏でザクザクさせるので間違ってはない。ここにきて素人はほんと少数なので普段は玄人の皆様に丸投げしている。
「まぁ、どんどんやって行こうか」
 散歩する様に歩きながら雑だけど車のタイヤがスリップしないように枯葉を谷に落としながら一時間。新入りは何度も座り込み、肩で息をしながら陸斗に水を貰って休憩を挟んでいたものの予定時間通りに到着したので
「大和さん、アイス頂戴!」
「好きなの持って来い」
  店番と言うか無人だった店内は俺達の賑やかな騒音を聞きつけて店番が立つと言う仕様。もっともあずきが俺の顔を見てきゃんきゃんと嬉しそうに鳴き喚くからやって来たと言うのもあるが。
「新しい生徒さん?」
「うん。先生が連れてきたんだ」
「また大変だね」
「何、体で覚えさせているから、あとは復路で復習だね」
 言えばぎょっとする三人組。もうアイスどころではないのは多分
「ここ酸素薄いから普段より息が上がるのが早いだろ?」
 葉山いいぞもっと言え―!とちらりと一樹達の方を見れば
「ゆっくり休憩するのも良いけどここは平地よりも陽が陰るのが早いから早く戻らないと真っ暗になるから。気を付けましょう!」
 がんばりましょう!ではなく気を付けましょう!
 何に気を付けるんだよwww
 熊か猪に決まってるだろwww
 先生との長年からの心の対話で会話をしながらも俺達は改めてスポーツ飲料を購入し
「さあ、本当ならこの店の近くの雑草も借りたかったけど今日は諦めて家に帰るぞー」
「「「「うぃーっす」」」」
 さて行くか、そんな気合の入ってない気合で陸斗達応援部隊はバッテリー交換をして今度は下りの時と反対側の草刈りを始める。
 ちなみに三人組はこの土地に間だからだが馴染んでなく、先生に「ほら、がんばれ」「もう少しだから頑張れ」と気合の入って無い言葉の羅列の応援を貰いながらもなんとか自力でゴールにたどり着いた。すでに到着していた陸斗達はちゃっかりお風呂に入っており、土間上がりを上がった所でごろりと寝転んでしまった三人に飯田さんはにっこりと
「おなかがすいたでしょう?体力回復に炭水化物のおやつはいかがです?」
 単純に素うどんを用意してくれた。いや、烏骨鶏の卵が半熟になった物が浮かんでいる。たっぷりと刻んだ葱も小山となっており
「い、いただきます」
「ありがとうございます」
「良い匂い……」
 半ばゾンビとかした三人はそのまま気持ちいい位の食べっぷりでうどんを食べ終え、葉山に使った食器を洗えと言われて洗った所で近くの畳の上で横になった瞬間眠りについてしまうのだった。

「綾人よ、やりすぎじゃないか?」
「あ?俺も半分返ってきたばっかでしんどい所を踏ん張って頑張ったつもりなんだけど。それより布団持って来て。このままじゃ風邪をひくから」
 
 帰った直後の見知らぬ人間のお世話をしなくてはいけない暮しに軽く先生に八つ当たりするのだった。



しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...