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本と嵐と 7

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 五日間の怒涛の荒稼ぎの日々は終わった。
 バイオリン購入費の為に頑張ったあの日々よりは期間が短かっただけに楽だったと思う。
 だけど短期決戦、一日五時間の戦場でどこまで出来るかが勝負どころ。ちなみにそれ以上は俺の体が持たない。身体と言うか頭だけど。終わるたびにグロッキーになるのは今も変わらない。それを連続五日間。世のサラリーマンは八時間労働に残業と毎日よく頑張るとニート生活でたるんだ生活リズムからは復帰できなさそうだ。

「お前はなんで一週間分の仕事を一日に詰め込む。五日に分散すれば灰にならずに済むだろう」

 なんか最近先生の小言を思い出す気がするが、そう言えばこう言う時はいつも先生がどこからか現れていつまでも転がってないで働けと風呂の準備とメシの準備をさせられたな。留学してからそう言う事が無くなったから先生の来襲を忘れかけていたけど。毎週のように習慣づけられた先生の来襲はこう言ったタイミングでふと思い出す恐ろしい教育だといつの間にか躾けられた恐怖に身を震わすのだった。
 とは言えここはフランス。簡単に先生が出没しない地域なのでお仕事が終わったらオリオールにたくさんご飯を食べさせてもらい、オリヴィエに疲れて大変だったねと癒しのバイオリンを弾いてもらう至上の楽園。復活した所でオリヴィエの勉強を見ながらケリーに投資を教えるのだった。
「将来ファイナンシャルプランナーも良いな」
 つい先日俺も仲間に入りたーいとべそをかいていたお子様は水を得た魚の如く数字の海を泳いで投資への理解を深めていた。しかも乱数計算とか予測計算とかが意外にも得意なようで面白い素材に経済の事も少しかじらせてみた。直ぐに寝てしまったけど朝になってもう一度読ませてみたりと根気強く読ませて何とかぼんやりとだけど理解をさせる事に成功した。ほら、教科書開いたらおやすみなさいな奴らばかり面倒見てきたからその程度で俺が動じる事もないからな。
 そして俺がPCに向かってる間に庭仕事と畑仕事をさせ、オリオールがリヴェット達に教育させて店のレジの仕事を手伝わせるのだった。もう一度来て貰う為の最後の印象を与える場所に置いても良いのかと思うも隣でリヴェットかオラスが付き添っての仕事。心配はないなとその判断はもうオリオールに任せているので俺は口出しはしない。
「まあ、そうやってお前の未来は沢山選べるくらい夢が広がってるって事だから何も急がなくていい」
 オリヴィエの高校卒業の資格を取る為にコツコツ通信制の学校の教科書を広げて進めながらドイツ語やイタリア語も勉強させている。語学はマイヤーに頼んで任せているが、それでも覚える文法は音楽の解釈を広げる為にやる気に満ちているからついつい興味深そうな本を買って与えればマイヤーが持って行っちゃったと泣きついてきたのが微笑ましい。俺としてはやっと探し当てた古書を持って行かれて全く笑えないが。
 そうやって五日間を乗り越えてのんびりとしていたが二人が俺の周囲をちょろちょろしてる理由は俺の本気の頑張り具合だと言うのは言うまでもない。
 一日、二日目かまだよかった。
 三日目以降から眼精疲労や腰痛、そしてやっぱり頭を酷使しすぎて吐き気を伴うようになった。
 それでも予定金額の為にオリオールに頼んで軽食を大量に用意してもらっていても回復にはつながらなく、そうなると待ち受けるのは体が受け付けなくなると言う惨事。側で俺のフォローをしていたエドガーに見られてしまい、情けない。と言うか久しぶりにこのレベルまで来たなととっさにゴミ箱をひっくり返して顔を突っ込んでげろれた俺さすがとこんな事のレベルは上げたくなかったと心の中で涙を流しておく。ほら、今お口からとおまけに鼻からも色んな汁でまくってるからね。慌てるエドガーのせいでオリヴィエとケリー、そしてオリオールまでやってくる始末。お願いだからカッコイイ綾人君で居させてよ。お願いだから見に来ないでと恥ずかしがって言えばオリオールに叱られてしまった。
「私達は綾人に返しきれない恩をたくさんもらって来た。
 そこには綾人がトレーダーとして優秀でお金を生み出す才能に溢れているからこんなにも簡単に赤の他人の為に投資と言う事が出来るのだろうと勘違いしていた。
 こんなにも、身体を壊すくらい綾人が戦ってるなんて誰が想像していた!
 一人でこんな孤独な戦いをしてるのに我々はただその結果だけを甘んじて受けていたなんて、何も知らなかったなんて悲しすぎるだろう」
 ゲロってお口の中酸っぱくさくて、ゾンビの如く涎を垂らしていた俺の顔をティッシュで拭って綺麗にしてくれる代わりにオリオールは泣きながらそう言ってくれた。
「我々だけでは戦力にはならない。
 だけどここまで身体を壊しながら尽していたら本当に綾人が駄目になってしまう。
 するなとは言わない。頼むからこうなる前にちゃんと休んでくれ」
 料理に情熱を注いだ人だけあって止めろとは言わない。それが嬉しくてそのふくよかな腹に倒れ込む様に抱きしめて
「ありがとう。凄く頑張れる力になった」
 止まるつもりのない俺に少し寂しそうな声とともに何度も頭を撫でてくれた。それが温かくて今日はもう休むと言って成果を出せなかった三日目。そして代わりによっけめは気合を入れてエドガーに言い付ける。
「またゲロっても騒がない事。昨日一日で大幅に遅れたから今日取り戻す為に無理をするから、落ち着いて行こう」
 その為に机の片隅にはビニール袋をクシュクシュにしてすぐ使えれるように準備をして置いた。ゴミ箱も昨日の名残がない様に綺麗にしたし食べた物をのどに詰まらせないようにスムーズに吐き出す為の水分も十分に用意した。
 完璧じゃんと昨日は早く寝たので冴えわたる頭脳にムチ打つかのように昨日途中で強制終了させられた分の挽回に励むのだった。




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