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本と嵐と 3

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 さすがに食後もプログラムして遊ぶわけにもいかない。確実に気が付いたら明日の朝の様な予感になっているのでプログラムのネタ探しに読んでいた本にざっと目を走らせれば床からかなりの山を作り上げていた。
「まぁ、アヤトのアパート見てたらこうなるのは判ってたけどな」
 呆れるケリーに綾人はせっせと読み終わった本をもとに位置に戻していれば

「あら、貴方お帰りなさい。今日は早かったのね」

 そんなケリーの母親の声が聞こえたと思えば
 ガチャーン!!!
  ガラスの壊れるような音に思わずケリーと顔を見合わせ 
 ガチャーン!!ガンッ!!!
「あなた止めて!!」
 止まらない破壊音とケリーの母親の悲鳴にただ事ではないと言う様に二階にあるケリーの部屋から走る様にして下りて行けばそこにあったのは玄関を破壊し続ける父親の姿と完全に怯えて近寄る事も出来ない母親。だけど父親の方は顔を真っ赤を通り越したどす黒い顔をしていた。
 さすがにこんな父親を見た事がないと言うようなケリーだが
「ケリー!親父さんを背中側から確保!」
「で、できるかなぁ?!」
 不安な情けない声を張り上げながらもすっかり城暮らしで俺の指示に従う事に慣れてしまったケリーはバタバタと階段を下りて行き、なんかよくわからない置物を有価に叩き付けた所で背中にジャンプしてとびかかり
「あ、それダメな奴」
 案の定、物を投げ捨てた後の前傾姿勢に背中からとびかかれば思わず無言で潰れる父親の背中の上に成長しきった息子がのしかかる、本日一番の大きな音を立てて親亀子亀の二段重ねになっていた。
 陶器が散乱した床の上で危ないと思うも、奇跡的にもけがはなかったようだ。あざや打ち身は数の外に置いて……
 上手く行ったことにあまりの痛みにくぐもった声を零す父親と想像外の事が起きたのか未だに目を強く瞑っているケリー。その様子をやっちまったなと眺める俺に
「あなたっ!ケリー!!!」
 陶器の上をぱりぱりと踏みしめて駆け寄り二人を介抱する母親の姿を少しだけ眩しく眺めていた。

「すまないね、恥ずかしい所を見せたようだ」
「いえ、お気遣いなく。
 怪我が無くて何よりです」
 見ての通り骨には異常はなく、何故か飛びついたケリーの方が手をついたようで湿布を張って包帯で固定していた。
 母親は落ち着くようにと紅茶とチョコレートを差し出してくれたのでありがたく頂き
「何があったか話してください。
 家族だけならまたあのようになるかもしれないので第三者の俺も居るのでまたあのような事があれば全力で止めさせていただきます」
 何てかっこよく行ってみたものの、一度冷静になれば破壊活動に向かうほどエネルギーは生み出す事は出来ない。良くても殴り合い程度だ。
 だけど父親は口を開けようとはせず、たなからウイスキーを取り出してストレートで呷り始めた。相当溜まってんなと思ったとたんいきなり涙を流し始め
「会社が乗っ取られそうだ。資金難から会社を手放さないといけないようだ」
 そしてケリーと奥さんに視線を向けて
「すまない。信用していた部下に任せきりだったのが、会社の金を流用して取引先の会社と部下を引き込み独立してしまった。取引先にもある事ない事を拭き込み信用を失っての取引を契約更新時のこのタイミングで契約終了。残ったのは長年会社を支えてくれた社員と借金だ」
 頭を抱えて涙を零しながらあの男を信頼したばかりにと言って済まないと言えた人だった。
 だけど俺は他人事だから
「ケリー、兄貴に連絡。戻って来れるようならすぐに呼べ。
 あと弁護士に連絡。そしてケリーのお父さん。何でこんなになるまで家族に相談しなかったのですか」
 ケリーはこれも素直に兄貴に連絡をして、三回目のチャレンジでようやくつながった通話の後、喧嘩のような言い合いと悲鳴のように助けをを求める泣き声に変った所で俺がスマホを取り上げて冷静に状況を離してすぐにでも着て貰いたい事を伝えた。できたら動揺しているから明日仕事を休んでもらえないかとお願いして泊まりで戻ると言う事を言付かった。
 その間ケリーの母親には玄関を片付けてもらう事で落ち着いてもらい俺もスマホを取り出して連絡を取る。
「やあエドガー、こんな時間に悪いな」
「気にしなくていいぞ。それよりこんな時間に珍しいな。イギリスにもどったっと聞いていたが?」
 少しだけいつもより陽気な声に俺もこの笑えない状況の中なるべくあかるく勤めて
「イギリスの中で弁護士の紹介を頼む。どちらかと企業向けで乗っ取りとかそういった類に強い奴を紹介してくれ」
 場違いなまでの陽気な声に
「っざけんな!!! 俺がアヤトの専属だっ!!!
 俺が行くから着くまでそこで大人しくしてろっ!!!」
 なぜかガチャ切りされた。
「解せん……」
 通話終了したスマホを眺めていればウィスキーをストレートで飲んでも酔っぱらえないケリー父が呆れて言う。
「専属弁護士がいるのは大したもんだが、専属弁護士がいるのに他所の弁護士を頼ろうとするのは感心しないな。素直にどうにかしろと言うのが正しい答えだ」
 どうやらまだまだ人を使うのに甘いと言ったようでもっと傲慢になれと言う。いや、正確には無理ですからと思うも宮下がここに居れば言うだろう。
「綾人、めんどくさがって人に押し付けるのは良くないよ」
 ある種俺がここまで進化した一言かも知れない。
 今この場にいなくてよかったと思うと同時にもっと人を頼ろうと心に誓い、それが宮下が俺のストッパーになる理由だとは、俺自身の認識の甘さを痛感する事になった。



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