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歩き方を覚える前に立ち方を覚えよう 9

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 暖かな紅茶、そしてトーストと目玉焼きはサニーサイドアップ。簡単なサラダとハムが添えられた朝食はイギリス生活での綾人の定番の朝食だった。
 ご飯とみそ汁は堪能する為に夜に食べていたが、夕食時でも帰らない奴らが多発する様になってじんわりと和食の味を噛みしめる時間は終了していた。
 なのでご飯とみそ汁の定番セットは朝食にシフトチェンジしたのだが、今日は来客があったので夜食用に用意しておいた物を並べれば
「アヤトは朝からしっかり朝食を用意して食べてるのか!
 凄いな!俺はほとんどシリアルとヨーグルトばかりだったからこう言った温かい朝食は良いな!」
 温かいのはトーストと目玉焼きと紅茶だけ。そんなにも褒められる物かと飯田さんの朝ごはんを想像すれば申し訳なるくらいの手の抜き方だが、シリアルとヨーグルトと言う組み合わせはどう考えても腹にクる組み合わせだろうとそれはどうかと考えてしまう。
「寮なら朝食が用意されて少し羨ましいけど……」
 苦笑。
 そう、壊滅的に味が良くない。
 一応綾人も試食してみたが、その場で手間を取ろうと自炊が良いと判断した。マズ飯とは言わないが、イギリスらしいと言う様なお味に定期的にあるカレッジの晩餐会ぐらいの味なら妥協したのにと飯田さんに料理を教えてもらってよかったと心から感謝していた。
 良家の子供ならこうやってアパートを借りるか伝統に則って寮生活に徹するかの二択になるが、ジェムみたいに値段の安さを提示されたらそれ一択の子供も多いのは授業料の高さが物語っている。それだけの講師陣をそろえてくれているので文句はないが生活費も高いのは、それだけこの大学に世界中から人が集まるのだから当然と言う値段に生活費両手程も要らない綾人から言えばカルチャーショックにも近い金額だ。もともと綾人の金銭感覚何て信じられないと圭斗だったら言うが、綾人の金銭感覚は城を買った時点でみんな諦めたので城は買うなと言う程度になっているがお金に関しては誰よりも、ひょっとしたら圭斗よりシビアかもしれない。なんせ祖母の家に預けられた時に一切の生活費を与えられない日々を経験したのだ。いくら面倒見てくれるからと言っても年金生活のバアちゃんに高校生になる孫の授業料と生活費を支払うなんて無理だ。交通費で破たんすると焦った時が一番の修羅場。ハイリスクしかないウェブマネーを手にしたのがある種不安を解消してくれて、何かあればの時のために貯蓄を学び、そして増えて行く数字に楽しさを覚えて今に至るのだがそこは年代物の家に住むだけにメンテナンスと言う出費の多さに自転車操業にならないようにと目標は生涯年収とされる金額とがんばってみたら案外早く溜まってしまって……
「吉野、勉強じゃなくても何か不安な事があれば気軽に相談しろよ」
「先生、税金とかそう言うの詳しいですか?」
 一年を通して増やした数字を見せれば何故か拳骨を落されると言う理不尽さまで思い出した綾人だった。
「そうか、少し早く起きれば目玉焼きは難しくてもあったかいパンとスープぐらいなら難しくないよな」
 食器棚にあるインスタントスープを見てぶつぶつと言っているケリーにまさかずっとシリアルとヨーグルトじゃなかっただろうなと不安になってしまえばそれが顔に出ていたようで
「あ、ちゃんとオートミールの時もあるよ。牛乳を入れて温めるから心配ないよ」
「そうじゃねえ……」
 栄養とか考えろなんて所までたどり着かないツッコミにだからマズ飯国として有名なのかと納得した。
 その代りスーパーにはかゆい所に手が届くと言うくらい充実しているが
「ケリーは普段どこで買い物してるんだ?」
「大体学校帰りにコンビニだったり帰り道の店のパン屋に入ったり?」
「そういやこっちのパン屋ってパンの他にも惣菜も揃ってるもんな」
「ええ、楽しいですけど大体同じ物になってしまいますよね」
「まあな。それに味が濃いからビールばかり進む」
 それはそれで楽しいが、味に飽きるのが欠点だ。
「その点フランスのお城では一日だって同じメニューがなくって毎日が楽しかったです」
「そして俺は毎晩お前らが図書室で寝落ちしてて授業が不安になっている。出されていた課題は大丈夫か?」
 一応気にかければ
「それはフランスに行く前に済ませたので問題ありません」
 優等生な答えが返ってきてあの山にやってくるお子様たちに是非とも聞かせたい模範解答にあいつらに宿題をさせる苦労を思い出してちょびっと涙が出かけた。
 因みにスマホを取り出してフランス行きのメンバーにグループ会話で聞けば案の定
「俺まだ終わってねー!!!」
 なんて言うのはアレックス。目途はついてますと言うクリフやウィル。ケリー同様に終わらせたとジェムの返事の後にはアレックスがんばれとのエールが飛び交っていた。
「因みに俺は貰った日に終了させた」
「早いですね」
 ケリーもびっくりな顔をしていたが
「折角出された問題、早く解答したいって言うもんだろ?」
 高校卒業して以来こうやって教えを乞う事が無くなり、教える側を体験したからこその学ぶ事の楽さ、楽しさが止まらない。
「綾人にかかればどんな難題もパズルかゲームですね」
「この一年で取れる単位を取りまくったけど人の考えってその数だけあって面白いからな」
「綾人のスケジュール見た時はビックリだったけどその結果最優秀なんだから俺もまだまだって嫌でも理解しましたよ」
「カレッジにいられる時間は決まっている。そしてとれる単位も限りがある。無駄には出来ないからな」
 そう言って最後の一口のサラダを食べて紅茶を飲む頃ケリーも俺に合わせて食べ終えた。食器は宿泊代と言って洗ってくれる間に俺は準備を済ませ
「さてケリー」
「はい」
 次の言葉が分ってるせいか昏い顔をするも俺が気にする問題ではない。
「家に帰るぞ」
「帰らないといけないのでしょうか……」
 しんそこ今は帰りたくないと言う顔に
「学費と生活費を払ってもらってカレッジに来ている以上お前がとやかく言う権利はない。
 憧れの大学に進学すると言う夢に投資してもらってる以上お前には投資者に納得して投資してもらう様に情報をオープンにする義務がある。
 ましてや俺の悪口を言うから家を飛び出した何て理由にならん理由なら大学を辞めてしまえって言う物だ。ガキみたいな我が儘言って夢だけは叶えてもらおうって言うクソッたれたこと言ってんじゃねえ」
「はい……」
 昨晩から淡々と叱りつける俺に言い返せる言葉はもうないせいか素直に頷くケリーに荷物を持たせて
「さて、自力で大学の授業料と生活費を払えない所か稼ぐ事も出来ないケリー君。成人してなおご家族の庇護下に居るつもりならご家族に謝る言葉を考えておくのが家に帰るまでの宿題だ」
「はい」
 あまりの酷い説得にフランスで得た給金からどれだけ働かないと手にする事が出来ない金額か計算したのかどこか顔色の悪くなったケリーを無視して車のキーを取り出して駐車場に止めている車に押し込んでイギリスにも頑固おやじっているんだなと謎の発見と遭遇に何と説得させようかと黒い笑みを浮かべながら胸をときめかせる綾人だった。



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