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歩き方を覚える前に立ち方を覚えよう 2

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 そんなオリヴィエと俺の光景を見るたびに微笑ましそうに笑うマイヤーよ、あんた奥さんはどうしたんだよと思うもまだ寒いから南部の別荘に居ると言う。二十代の結婚した頃なら大丈夫かと聞かないといけない所だが、七十を過ぎてそう言う夫婦もあるのだろう。むしろ自由で宜しいのではありませんかと思うのはジイちゃんは山に狩りに出かけて、バアちゃんは庭いじりを楽しみつくす様子を見ていたから楽しそうでよろしいのではありませんかと眺めるの留めて置く。
「オリヴィエもマイヤーもお帰り。今日の晩ご飯は新人達が作ったスープがメインだ。楽しみにしてると良い」
 言えば二人の複雑そうな顔にオリオールは笑って
「オリヴィエもだいぶ上手になったけど最初の頃といい勝負だぞ」
「うん、今となっては良い思い出。楽しみだな」
 さすがに味付けに関してはひくひくと動く鼻が事故が起きてない事を理解したようだ。これが山の家だったら大事故になっていただろう。主に水野のせいで。
「さあマイヤー、セラーからワインを選んできてくれ。希望は白だな。きりっとした口当たりのがいい」
「それは奇遇。飲みきれないと思ってた貰い物のワインがこんなにもおいしく消費できる日が来るとは思わなったなぞ。オラス、リヴェット行くぞ!」
 明日の為に今夜から仕込みの手伝いに来ていたオラスとリヴェットを連れてうきうきした足取りの向う先はやっぱりフランスの城。ちゃんとワインセラーがあって、マイヤーがかつて何かの縁で貰って放置していたワインをここに運び込んで毎晩飲み明かしているという。悲しい事にコルクの栓が祟って酢に戻ってしまったがちゃんとこの国の人達はシチューに入れたりして再利用している。放置しすぎてしまった物はそうやって美味しく処理され、美味しい物はちゃんと晩ご飯や食後に楽しくお召し上がりになると言う。羨ましい……
 本職のソムリエのオラスがいるのでその点は問題なく管理してくれているので俺が買った物じゃないから体には気を付ける様に好きにしてもらっている。
 なんてったってオリヴィエも含んでみんな酒好きって何なんだよと城に滞在している間はいつも潰される俺の身にもなって欲しい。
 潰れても次の日には復活してまた潰されるという悪循環から抜け出せないのはオリオールのツマミが原因だと俺は信じている。決して俺の意志の弱さが原因ではないと思いたい!
 その間にもオリオールが鍋から丸ごと煮込んだ野菜を取り出して切り分けてくれる。大きなスープ皿に綺麗な彩と全員同じように配置された野菜たち。大きさがまちまちの鶏肉もご愛嬌でなんとなく新人達のお皿には小さく切られた鶏肉だった事、そして練習の為に予定よりもたくさん皮をむく事になったじゃが芋がこれでもかというくらい押し付けられていてにこれも教育と俺は納得する。
 だけどそこは頭脳労働派とは言えティーンズの胃袋。
 ぺろりと食べてしまう様子にはさすがのオリオールも楽しそうに笑い声をあげていた。
 食後は勿論食器の後片付けまでしっかりとやり、その間俺はオリヴィエが植田に押し付けられた楽譜に四苦八苦する様子を楽しんでみていた。
 周囲に家はなく、音漏れしても苦情を言いに来る人もなく遠慮なく弾きまくるオリヴィエの横で、マイヤーも楽譜を見ながら自分の練習用のバイオリンでほぼ真っ黒の楽譜をオーケストラ仕様に再編集している。本当はピアノがあればいいのだろうが、そこは自宅でやってもらおうと思う。ほら、俺ピアノ弾けないしね。
 っていうか何やってるのですかマイヤー・ランドルート氏?
 貴方なに才能の無駄遣いしてるんです?才能の使い方間違ってますよ?そう思いながらも手元を覗く。
「真っ白の総譜初めてみたなー」
「ああ、既に曲はあるからな。パートごとに分けるだけの簡単な作業で楽器の数の分だけ広がりがあるからもっと楽しくなるぞ。
 いつか城の大ホールのお披露目の時までに仕上げて見せるから楽しみにしておくれ」
 そんな満面な笑顔で謎の宣言。
 何か久しぶりに本職の本気の遊びを見た気がした。
 しかも世界の指折りレベルの職人による本気だ。
 俺はこの結果がどうなるかなんて恐ろしくて想像したくなくって……
「柊、この後の夜の時間は自由だから。
 ちゃんと明日の朝起きれる時間に寝る様に伝えてくれ」
「はい。よろしければ図書室をお借りしますが?」
「ああ、それは全然問題ない。俺は、寝る」
 現実逃避の為に一瞬でキャパオーバーした衝撃の言葉にこれは夢なんだと言う様に寝るには早いと判ってても寝る事に決めた。
 
 朝、マイヤーは散歩と称して自宅に戻りシャワーと着替えをして戻って来る。
 あけはなれた窓からオリヴィエのバイオリンに耳を傾けながら自動草刈り機に乗って庭を走り回るマイヤーを眺めながら
「今日から三日間オリオールのレストランを開ける日だ。時間は昼は十一時から三時と夜は六時から十時。気の早い客は一時間前から散歩を兼ねてやって来るし、閉店時間後もゆっくり飲んでお喋りしながら残る人もいる。よってアプローチ、駐車場、そしてレストランの庭側の掃除をした後は今日表側に出るのは禁止だ」
 そこで柊が手を上げて
「我々はレストランのお手伝いですか?」
 至極当然と言う様に質問されるが「え?マジ?」と驚く周囲以上に俺はその謎の自信に盛大に眉間にしわを寄せて
「昨日の夜お前らが割った皿とグラスの数知ってるか?
 気軽なレストランにしたけど料理やサービスは一流を保持している店に何でド素人を投入する理由がある。寝言は寝て言え」
「さすがに酷い」
 柊をかばうような叶野のフォロー。お前らホント仲良いよなと感心しつつ
「酷いと思うのは俺がヨーロッパ中足を運んで買い揃えた食器を粉砕した奴に言う言葉だ。それにレストランには城で使っているより桁違いの食器をそろえてある。一脚紛失しただけでも利用価値の下がるリスクがあるのならオーナーとして排除する」
 これはビジネスだと言う。
「配膳の一つ、立ち方、配り方、持ち方があるのは知ってるだろう?
 知っているけどやった事のない、そしてお客様への配慮出来ないのはサービスのプロとは言えない。知識も何もないただやってみたいと言うだけの奴に手伝わせないし、契約も何もしてない人間を接客業で使う謂れもない。そんなにやりたかったらカレッジ内のカフェでバイトしてこい」
 どうせ俺がお遊びでランチやディナーを提供してると思っているのだろう。
 生憎だがオリオールの借金返済の為にガチでサービスの提供をしている。
 最も動画配信で完済すると言う本職の本気を俺は甘く見ていたが、それもあってジェレミーとジョエルを雇うだけのめどが付いたのだ。営業と運営のバランスをちゃんと見てもらえれば幾らでもフォローしてやると言って好きにさせている。もっともめんどくさい事はエドガーに丸投げしているが、それでもかなりの報酬を与えているのでガッツリ働いてもらいたい。なんせわざわざこの為に資格を取ってくれたらしいので是非とも活用してもらいたいと思う。
 良い人材に出会えたなーと人の繋がりに感謝するしかない。





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