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立ち止まって振り返って 3

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「そこまで気にする事じゃないぞ。むしろ生涯の内で何度体験するか判らない程度の事にここまで感情移入する事じゃないぞ」
「ですが!こんなにも俺は何もできない人間なんだって知らなくて!」
 綾っちが言う所の茶番なのだろう。
 だけど初めての壁ほど高くて分厚い物に見えるからこそ底辺と位置付けた作業は周囲が傅く生活ではどれもこれも初めての体験で、どれもこれも禁止されていた事ばかりだった。
 だけどだ。
 園田は過酷な事を容赦なく言える子だった。
「安心しろ。
 普通ならこんな農業出来るわけないから」
 現実をただ静かに伝える。
「俺達の国の都心部では三十坪も無いような敷地に駐車場と家を意地でも作る。当然庭なんてなく樹なんてない。それどころか土さえ触れない生活になる」
 いきなり話が変わったかという様にケリーは園田を見上げ
「お前のような良い所の家の家なら誰かが庭の世話をしてくれるのだろ?」
 聞けば当然のように頷くケリーにちょっと殺意が沸いた。
「庭師を年に何度か雇ってます」
 その言葉を聞いて園田はそうだよねーと力強く頷いて見せた。
「つまり、ケリーはそう言った事に縁のない一生を過ごすはずだった。
 だけど綾っちはわざとその縁のない世界にケリー達を連れてきた。それってどういう意味か分かるか?」
 園田はケリーの両肩に手を置いて真っ直ぐ視線が合うように問いかける。
 ケリーはすぐには答えを出せなくて、多分わかりきっている答えなのだろうけど答えれなく居れば
「綾っちがイギリスから連れてきた人達はケリーを含めて多分社会に出てもいきなり上位の職位に立つような人だと思うんだ。
 だけどその上位で働く下には沢山支えてくれる人達がいるって言う事を知って欲しいし知って欲しいだけじゃなく体験もしてもらいたいと思ってる。
 言葉や知識では幾らでも理解していると思うけど、体験すればわかる。こんなにも敬遠したくなるような重労働で過酷な事はないって事をまず理解してほしいって事だ。
 現にケリーは何も出来なくて悔しい思いを今していると思う。そして、それは何時になったら抜け出せるか判らない未知の世界だと思う」
 ぽろぽろと涙を流しながら真っ直ぐ園田を見る視線に応える様に園田もケリーを真っ直ぐ見ながら
「綾っちはみんなに知って欲しくてここに連れてきたんだ。
 オリオールの美味しい食事だって綾っちが作った畑から採れた野菜をふんだんに使っている。それがどれだけ大変かなんてテレビの知識と実際の体験とはものすごくずれているのは理解できただろ?」
 その質問に頷き
「この広大な庭だってケリー達が来る前から俺達が手を入れているのにまだまだ整う気配もない。時間がかかれば育つ植物と付き合う、寧ろ目を離したすきに一からやり直しだ」
「そんなにも……」
 植物の生育の速さ何て気付かないと言わんばかりのケリーに園田はニカリと笑い
「この城は初めて来たし次何て何時かなんてわからないからどうなるかなんて知らないけどな」
 そんな適当な言葉にケリーはきょとんとして固まってしまっていた。綾人が想像するよりケリーはまじめだったかと少しだけ反省する横で植田と水野はあまりに率直な言葉を口にする園田が後でどんな目になるだろうか一応気にする優しい先輩だった。
「綾っちはね、底辺から見上げる世界をみせろって俺達に言ったんだ。多分きっとだけどその視点はみんなのこれからに絶対必要なっていうか避けて通れない世界だと思う。その時この苦労を知っているかどうかって絶対アドバンテージになると思うんだ。知ってるからこそ夢や希望で無茶な事が言えなくなる。それが良いか悪いかは俺には分からないけど、綾っちが見せろって言うんだから必要な事だって俺達は全員信じてる」
「凄く信頼してるんだな」
 少し羨ましそうな声に
「俺達はそれだけのものを貰ったんだ。
 今あるのも過去に貰った物を未来に行かせる力も。
 口も態度も悪い綾っちだけど、すごく面倒見がいいから頑張って仲良くなると限界ギリギリを見極めていろいろ教えてくれるから勉強になるよ」
 物凄く良い顔で言う園田に
「限界ギリギリ?見極め???」
 そんな不穏な言葉に後ずさりを擦るケリーに園田はお構いなしだ。
「学生の時にしか無茶は出来ないって言うだろ?だからその言葉通りに過労死寸前まで使い込むのが綾っち上手いからそこは信じて大丈夫だよ!」
「は?どこが大丈夫って……」
「ちゃんとできる限界は見極めてるって事で!」
 満面の笑顔で言う園田にもはやケリーは言葉もない。
 そういや考えれば園田の高校三年の時はかなり無茶したよな。ちょうど色々あった時だから八つ当たりにも等しい事もさせたし……
 あとで甘やかせておこうと反省をする綾人だった。
 そんななかで園田はそろそろ戻ろうと言う。
「綾っちめんどくさくって野良猫みたいに警戒するけど、懐くまで少し時間が必用で容赦なくケンカ売って来るけどそこは根気よく付き合ってくれるとうれしいから」
「うん。まあ、そこはなんとなくわかる。
 だけど少なくともここに呼んでくれた位は仲良くなれたと思って……」
「甘い」
 ケリーの言葉をさえぎって会話を止める。
 園田は眉間にしわを寄せるケリーの肩に手を置いて
「綾っちがそんなに直ぐ人と仲良くなるわけないじゃん。
 因みに今回は絶対労働力ぐらいにしか見てないよ」
 近づいた距離を一気に話されたように絶望するケリーにこれは大切だからと言っておく。
「綾っちは今はみんなの事友達とも何とも思ってないから。
 本当に単なる雇用関係の労働者ぐらいにしか考えてないから。
 だってみんなと仲良くなってもまだ一銭の得をしてないじゃん?寧ろまだ投資状態、先行投資って言うの?
 綾っちほんと数学脳だから使える人間使えない人間区別する前に自分好みに育てて使えるかどうか判断するくらいのゲスさ平気でするから本当にめんどくさいんだ」
 園田にそこまで思われてるとは思わなかった綾人は少なからずショックを覚えるすぐ横で
「園田分ってるな」
「ああ、俺達がどれだけ綾っちに使える人間か証明するのに二人掛かりで三年かかったもんな」
両隣で頷く二人の止めの言葉に涙が出そうだ。そして二人掛かりじゃなくて足の引っ張り合いだろと心の中で突っ込んでおく。
 因みにケリーはショックすぎて何の反応も出来てない。この子の想定外の対応力のなさがもう心配レベルだ。
「まあ、綾っちと友達になりたかったらまずはここに滞在する間にどれだけ自分改革、革命?出来るか、過去の自分からどれだけ多くの選択肢を拾える人間に慣れるか頑張ってみようよ」
 うんうんと頷く園田。
 確かに底辺から上を見上げさせろって言って手に入れる世界の広さ、その素晴らしさを教えろと言ったけどその前に綾人は俺の方がくたばりそうだと言う様にしくしくと水野にもたれかかって泣いている。ちなみに水野にもたれかかっている理由は単なる頑丈さが理由だ。植田じゃ安定性も何もないと言う、ここでもちゃんと人を選ぶ綾人のゲスさは通常モード。
「大丈夫。俺達あと三日滞在予定だからそれまでに何とか綾っちの攻略方法を教えて置く」
「み、三日しか居ないのか?!」
 その短い時間に慌てるケリーに
「むしろ三日かかって何の成果を出さなかったら俺達の方が綾っちに見放される。
 だからケリー、出来ない事は生きてるうちに出来るようになれば問題ないから、せめて綾っちが今回決めたこっちにいる滞在期間の間にどれだけ自分が有用性があるか、そしてどこまで可能性を秘めているか見せつけてやろう!」
「有用性……」
「有能じゃなくっていいんだ。その点は綾っち庭仕事なら庭師に頼む程度に割り切る人間だから。だからこそ例えばケリーがお金の計算が得意で投資をやれば天才だけどそれ以外がポンコツって言う面白味のない人間にしたくないんだ。その力で何が出来るか、そして何をしようと行動できる人間になって欲しいとおもうんだ。
 だってここはそう言う事を学ぶ学校なんだろ?だったら社会人になったら出来ない事をやる時間が学生のうちにある間に貪欲になってみよう」
 笑う園田はケリーの腕を掴んで
「庭仕事は他にもたくさんある。陸斗が植物の世話の仕方のスキルいっぱい持ってるからそっちで学んでいこう!」
 あたふたするケリーなんてお構いなしに園田はその腕を引っ張って陸斗がいる東屋へと向かっていくのを物陰で隠れて最後まで話を聞かされた綾人は恥ずかしさに両手で顔を隠していた。
 俺ってそう思われていたのかと言う羞恥心。
「綾っち、園田は悪い子じゃないよ?寧ろ綾っちを尊敬してる子だよ?」
「もし綾っちが園田それは違うって思っても……
 それは園田から見た綾っちの印象だから間違いじゃないからね。
 俺達も大体園田と同じ意見だから間違いじゃないからね」
 二度も間違いじゃないって言われた。
 悔しさに涙をこっそりと拭いて
「お前らは仕事に戻れ」
 努めて冷静な声で二人に指示を出す。
 案外ダメージが無かったなと思う植田と水野だったが
「俺は飯田さんにちょっと話を聞いてもらってくる……」
 引きずるような足取りでキッチンに向かう様子を心配気に見守る二人だったが
「綾っちどさくさに紛れて焼きたてのクッキー食べさせてもらうに一票」
「気が合うな。俺もそう思っていたに一票だ」
 甘く香ばしく焼ける香りにつられたと言うしかないだろうと植田と水野は文句を言いたい物の
「だけどここで綾っちのおやつタイムを邪魔して無理難題言われる位なら戻って仕事をするに一票」
「そして無邪気に畑で遊んでいる奴らを見捨てられないようにしなくちゃいけないに一票」
 二人は頷く。これは大問題だと。
「頭いいって言う人間って何で言われた事しかやらないんだよ!」
「効率厨じゃなくって単に無能だよね!」
 園田の話しを聞いた後のおやつタイム。つまり後は任せたという様に去った綾人の意図するところはそう言う所だろう。
 慌てて二人は畑へと走り、そして飯田さんがおやつですよと言う言葉を伝えに来るまでにまずは畑仕事の器具の使い方を教えていかに時短で済ます方法を教えるのだった。





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