上 下
661 / 976

朱に交われば赤くなると言う元の朱は誰ぞと問えば白い目で見られる理不尽知ってるか? 4

しおりを挟む
「綾っち機嫌悪いけど何やったのさー」
 初めての交流と言う様に城からメインゲートへと延びる50M走が出来そうなスロープを水野と園田がブロワーでゴミを集める中、通路の脇の木を豪快に剪定する植田が落としたごみを集めさせている新人バイトに問えば
「音楽室のバイオリンを勝手に弾いたら怒られました」
 目元を甘くしてしょぼんとしてるジェレミーが白状した言葉に
「それは怒られて当然だ。
 とりあえず綾っちの奴隷として休みなく働け」
 奴隷と言う言葉に全員がぎょっとするのを見て植田は笑い
「安心しろ。綾っちは既にこの自然の奴隷だから日の出とともにおきて日の入りと共に次の仕事に移るヘビー労働者だ。
 綾っち自体が経営者だから労働法に守られないのを逆手にやりたい放題……
 労働を金銭的な金額に変換するエキスパート」
 まさか一緒にご飯を食べたりする人間がそんな生態だとは思わなかったのか顔を青くしていく中更に説明を続ける。
「お友達は主にネット、好物は情報、一日一言もしゃべらなくても問題ないし、だけど少し寂しがりやさんがチャームポイント」
「植田よ、言いたい放題だな」
 訂正。みなさん顔色が悪い理由は綾っちが背後に居たから。
 やっちまったよ俺……
 どうやって謝ろうかと思うも綾っちもこれまた綺麗な顔でにっこりと笑い
「植田が俺の事をちゃんと理解してくれて俺は嬉しいぞ?
 言ってる事も大体あってるし、訂正はしない」
「ははは、俺も綾っちの事好きだし?」
 最大級の非常警報が脳内で鳴り響く種類はゲームでよくある全滅直前の奴。
「そりゃ奇遇だ。俺も植田の事大好きだぞ?」
「綾っち、その殺人的笑顔、ほんとごめんなさい。俺如きが綾っちを語ってほんとすみませんでした」
 がばっと言う様に両手ついて土下座をする植田の無駄のない一連の美しい動作はむしろなんと言う所作と言う無駄な感動を与えてくれるが
「判ったから。それよりこいつらの面倒頼むぞ」
「イエッサー!」
 土下座スタイルから一息にぴょんと立ち上がっての敬礼。相変わらず植田の行動パターンはコミカルで楽しいが何でこう行動一つ一つがコンボなのだろうとチラリと視線を新人たちに向ければ反省の欠片のない行動を一つ一つにびくびくと反応する辺り俺的にはうけていて、しかもそれが植田にも筒抜けとなってのこの植田劇場。ああ、もう仕方がないやつめと溜息を零し
「一日のルーティンと就寝時間の管理を任せた。あと怪我をさせないように道具の使い方を教えてやれ」
「他には?」
「夜になったらこいつらに勉強させたいから夕食後は本部屋に連れてこい。
 あと夜食までオリオールの世話にならないように」
「うう、神飯が……」
「安心しろ。料理の音を聞けばどこからか現れる人種だからそこは忍耐力の見せ所だ」
「ですよねー」
 何て笑っていれば
「とりあえず今日はルームツアーと庭の紹介だ。
 あと金、土、日のランチ時は店のお客様に姿を見られないように注意する事。それと……」
「綾っちー、エドガーさんって言うお客様がきたよー」
 水野がブロワーをブンブン振り回しながらやって来た。さすが脳筋、ブロワーの重さも何ともしない逞しさにもっと重労働をさせようと決意する。
「綾っち言うな。
 それよりエドガー、たびたび悪いな」
「やあアヤト。めったに仕事をよこさないから呼ばれればどこにでも足を運ぶよ」
 何て手を振るスーツを着た男にケリー達は今度は誰だと言う様に俺を見れば
「俺のヨーロッパ地方の弁護士。悪いが今日はエドガーと話があるから後はさっき言った事植田頼むな」
「うぃーっす」
 不安しか残らないけどエドガーを連れて城の中に入って通い慣れたキッチンへと向かえばオリオールと飯田さんが師弟で深刻な顔を突き合わせていた。
「遅くなりました」
「やあエドガー、今日は本当に済まないね」
「なに、年間契約をしてくれてるのに仕事をくれないアヤトが久々に仕事をくれたからね。張り切って頑張らせてもらうよ」
 言いながらオリオールとの握手。
 だけど飯田さんは溜息を零しながら、陸斗達の引率係を買って出た建前の裏には……
「オリオール、本当に良いのですか?」
「弟子の面倒を最後まで見るのが師の務めだよ」
 変わらない意見に嫌味のように溜息を零す飯田さんにオリオールは笑う。
「私とてカオルがいなければ縁のないアヤトにこんなにも救われたのだ。
 だったら今度はアヤトの為にカオルの憂いを取り除かないとな」
 何て余裕を見せるオリオールさん。
 素晴らしい事に動画の収益で経った二年で俺からの借金を返し、更には本を出版なさっていた。フランスで出版されたのになぜか日本語訳もされて飯田さんからプレゼントされた時はどんなサプライズ?なんて思ってググってみたけど本当に売ってて驚いたのは当然だ。
 料理本としてベストセラーとなり、それなりのお値段なのに地方都市の本屋でも一角を占める売り込みようは動画に日本語訳を付けていた効果もあったようだ。
 しかも発売日が憎い。
 十二月上旬発売と言う、クリスマス、新年を迎えバレンタインと言ったイベントの多いシーズンに対してのプレゼントとしてはリーズナブルかつ有能過ぎるプレゼントだろうと言う様にクリスマス休暇の時に飯田さんに本を見ながらリクエストしたら
「レシピ本ではなく綾人さんにかかるとメニューですね」
 なんとなく困ったような顔が面白いお犬様に愛弟子の本領を発揮して頂くのは当然だ。
 そんな借金から解放されたオリオールは今もこの城でレストランを開き、そしてオリヴィエの為に料理を作ってくれている。
 まだまだ奥様と再婚はしないが、それでもレストランのオープンの日は足を運んで仕事に来てくれている。
「お小遣いも貰えてこんな綺麗なお庭を眺めれるのだから楽しい物よ」
 ふくよかな体を揺らしながら洗い物やテーブルセッティングをこなす姿は似た物夫婦と言う所だろうか。
 二人して今の付き合いが結婚していた時より楽だと言って再婚はもう少し考えておくとお子さんたちをやきもきさせているらしい。
「俺からも聞くけどオリオールは本当に良いの?」
「良いも何も私の意見は変らんよ。
 それより綾人こそいいのか?私の我が儘に付き合ってジョエル達を雇う事になっても……」
 かつて飯田さんの後を引き継いだオリオールのスーシェフだった人。
 独立する為に主要の料理人を引き抜いてオリオールのお爺さんの代から続くレストランを潰す原因となった要因の一つ。
 立ち上げたレストランは一年は持ったものの三年目には多額の借金を抱えて閉店となった。
 かなり無理な経営をしたためにオリオール以上の借金はもはや返済不能。飯田さんの精神面のテコ入れは全く無駄になってしまった……
「正直人手不足は何とかしないといけないと思ってたし、オリオールの事を知ってる人ならなお良いと思ってたけどね」
 本音で言えば不満だ。
 だけど助けたいと言うし、やっと溜まり出した貯金を総て支払っても半額しか返済できないのだ。
「それで向こうは何て言ってるんだ?」
 聞けば飯田さんはそっぽを向いて
「泣きながら許してくれと」
 許される問題じゃない事は当人達が一番分かっているのに茶番だなと思うもだ。
「残りは俺が支払う。
 オリオールに雇われてた時みたいな金額の報酬が出ないのは週三日のランチタイムのみの雇用だから別のバイトするなりしてくれと言うのが条件だ」
 言えばオリオールは体を半分テーブルを乗り上げて来て
「そこで綾人に相談だ。
 お客様も定着したし、リピート客もある程度ついた。そろそろディナーを始めたいと思う」
「なるほどね」
 いつかはディナーをと思ってたがここでかと思いながらキラキラとしたお犬様の瞳を思わせる視線に考える。さすがボス犬様だと。
 確かにここでやらないと今度はオリオールの年齢問題が発生するのだ。やるなら今しかないのだろう。
「そこはオリオールの判断に任せるよ。ただし、オリヴィエ達にも話しをしておくように。
 エドガー、そう言う事で話しを進めたいからまずは借金の方の支払いを済ませよう。無駄な出費はここで終わらせる。飯田さんは彼らをここに連れて来てほしい」
 何人集まるかは知らないけどねとそこは口に出さずにリヴェットが出してくれたコーヒーを苦く思うのだった。 


しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

処理中です...