上 下
654 / 976

友達の定義とは 4

しおりを挟む
 俺が知らないとでも思っているのかこのケリー・エマーソン君19歳。家柄が良いと思っていたウィリスよりもさらに良い家のお坊ちゃんで、彼の祖父は騎士爵を賜ったとされていただけあってそれなりに友好関係は大物の人物が多く、父親は政治家だと言う家柄なので教育の行き届いた今は普通のご家庭なセレブ一家だった。
 着替えと食事とビールを持って俺の運転する車で『家』へと向かう。
 彼は最初は「?」な顔をしていたが、今では立派に「?」を飛び散らせて助手席に座っていた。
 俺はなんか大きな勘違いをしている事にうすうす気づいてケリーの疑問を口に出させないように授業の事を話しつづける。
 一応俺の話しも聞いてくれているようで少し間抜けな相槌を打っていたけど、街中を抜けて民家もまばらな地域へと来てやっと俺は一軒の『家』の前に車を止めた。
 鍵を取出しドアを開けて電気をつけて
「つってってないで入れよ」
 そんな言葉にようやく気付いたように荷物を持ってケリーは家に入ってきた。
 二階に上がる階段のあるホールを抜けて俺のお気に入りの暖炉のあるリビングへと案内する。ソファではなくゆったりとした椅子を暖炉に向けていくつか置いてある。一個一個形が違うがこれは俺が暖炉の前に椅子を置いて本を読みたいと言う畳の家の子供の野望を唱えれば折角だからお気に入りの椅子を探そうとカールにそそのかされて購入した椅子だ。
「俺は緑色の椅子だから他のを使ってくれ」
「じゃあ、この茶色の皮の椅子を借りようか」
 言いながら俺が暖炉に火を灯せばそれぞれ好きな角度がある様にケリーは座り心地良い場所を探す椅子を見て
「ああ、バーナードか」
「アヤトは椅子に名前を付けているのかい?」
「まあね」
 何て肩をすくめてみせる。
 因みに名前の由来の通り、その椅子は俺が椅子を買った時にバーナードも自分専用にと買ってここに置いてあったりする。バーナードとなれば当然カールの分もあり、働き盛りでなかなか忙しくて会えないがバーナードとカールを出会わせてくれたレックスの椅子も一緒にある。ちなみにレックスのは真っ赤な皮の椅子で、カールはどっしりとしたグレーの布張りの椅子だった。個性が出るなと思いながらカールの骨董談義やレックスのマネー相談といった話を暖炉の前でお酒を傾けながら夜遅くまで話し込む事もあるし、カードゲームやチェスで夜を明かした事もある。時々奥様達もやってきて手料理を披露してくれたり、そう言った交流の場所にもなるのはここからコッツウォルズまで程よい距離と言うのもある。皆さん観光地はお好きなようでここを拠点に楽しんでいただけるのなら何よりである。
 最初は凍えるように寒い部屋だったが、暖炉の力は素晴らしくのんびりなので寒いから体を動かそうと提案して山ほどの段ボールに詰められた本を見せればケリーの無言の訴える視線が俺に向けられる。さしずめ
「こんな量だなんて聞いてないよ」
 そんな所だろう。
 だけどがらがらの本棚、そしてダンボールだらけの室内。
「なかなか個性的な家だね」
「ああ、普段はカレッジの近くのアパート住まいだから週末しか来れないからな。住めるようにしたり掃除したりで大体週末が終わってかたづけがすすまない、と。
 何か簡単に温かいスープ作って来るから待ってて」
 え?
 そう言った顔は古めかしい室内をぐるりと見回し、少しだけ身体を震わしたかと思う間もなく俺についてキッチンまで来るのだった。
「古い家だな。未だにオーブンが薪なんだ」
「まぁ、それが最低条件って言うか……
 多分これを用意しておかないとまた無駄遣いしてと怒る方がいるので」
 そしてこれを見せればにこにことなんてすばらしいお買い物をと手の平を変えるお犬様の顔を思い出しながらこれで誤魔化されてくれと願ってしまう。
「変わった友人がいるんだな」
「だから普段はこれ」
 おなじみIHコンロでお湯を沸かせば何故かほっとした顔をされてしまった。
 ビールがるとはいえ体を温める為にも紅茶を沸かしている間にケリーは戸棚から適当なお皿を出して買って来た食事をレンジで温めてお皿に移す。一人暮らししているから手慣れていると感心している間に簡単に野菜を切って水を張って……
「とりあえず温まったらさっきの部屋に集合な」
 紅茶を飲みながら鍋に詰めた野菜に塩と胡椒をかけて持って行く。
 お目当ては勿論今一生懸命家を温めている暖炉。勿論鍋をかけれるようになっている。
 ケリーはそんな俺に驚きながらもグラスやスープを入れる器を持って来る辺り本当に育ちがいいんだなとまだ十代なのにしっかり教育してもらったんだと感心しながらおろおろとしながらも俺の後ろを懸命に役割を見つけて着いてくるケリーに好感を持ちながら小さいけど食事の出来るテーブルにそれらを並べてもらう。
 ご飯はお任せだから何が来るのかハラハラドキドキだったがごく普通にピザとかラザニア、そして避けられないポテト&フィッシュ。ちゃんとデザートにアップルクランブルを用意する辺り良家の子供だよなと思いながらも俺はフライドチキンや手作りピクルス、別名残り物の野菜の漬物を瓶から取り出して並べれば
「このピクルスはアヤトの手作りかい?」
「飲みながら摘まむにはちょうどいいからね」
 一口サイズに切る物の普段は瓶に詰めた時のままの丸かじり。スティック野菜にドレッシング賭けるのがめんどくさいんだろうと言う先生のツッコミが聞こえたような気がしたが保存食ですと少したじろぎながらもしれっとした態度で言い切る飯田さんの意見に俺は一票入れた。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ヒロインが私を断罪しようとしていて、婚約破棄確定です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:19

流刑地公爵妻の魔法改革~ハズレ光属性だけど前世知識でお役立ち~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:13,647pt お気に入り:4,279

私の通り名が暴君シッターでした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,732pt お気に入り:270

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:221,549pt お気に入り:5,861

その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

BL / 連載中 24h.ポイント:1,911pt お気に入り:540

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:497pt お気に入り:14,302

処理中です...