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めぐる季節の足跡と 9

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「とりあえずお前がイギリスでも餌付けしているのは理解した。そしていつもの通り勉強には困ってない事も理解した」
「課題の物量攻撃にぶちきれそうなだけ」
「それを選択した自分に文句は言わない」
「おっしゃる通りです」

 三学期制で一学期は八週しかないのに取れるだけ授業を詰め込んだ綾人は図書館に足しげく通う事になっていた。足を運んで手にした本の分だけ綾人は知識を貯め込みディスカッションする内容は教員さえ舌を巻く内容で討論をする事になる。
 経験者からの助言をフルに活用できる綾人のスペックに所属するカレッジの中で当然有名となる物の、寮ではなく外部に部屋を借りる綾人はそこまで親しい人を未だに作れていない。
 それでも挨拶を交わす程度の知人は出来た。
「ハイ綾人!君はなぜ寮に部屋を借りなかったんだい?そうすればもっと遅い時間まで討論できるし食事も一緒にできる」
 これが一般的な感性なのだろうが残念な事に綾人は
「人の気配があると寝れないんだ。食事は自分で作れる文で十分だし日付が変わる前には寝たい人間なんだ」
  悪いなと爽やかに前半本音を込めた嘘と、後半めんどくささから飛び出した嘘を交えてのお断りの言葉はあっという間にカレッジ内を駆け巡った。
 お前寝るの早すぎるだろwww
 ささやかな笑いは教授陣にも伝わる物の
「癖で朝の五時には目が覚めるんですよ。寝る前に勉強するか寝た後に勉強するかの差だから大差はないよ」
 夜中に勉強しても身にならないという通説もあるなかで綾人の言う体内リズムに教諭はふむと頷いただけでこの話が終わりになったのは新入生あるあるの寝坊で遅刻と言う事をした事が無いだけに話はそこで立ち消えた。

「まぁ、高校時代より丸くなって先生的には安心したけど」
「俺だって大人になりましたって所だね」
「だったら友達と言える人間を一人でも作って来い」
「教授達とはかなり仲良くなったんだけどな」
「この年上殺し!同年代の友達を作れと言ってるんだ」
 その言葉には綾人は肩をすくめる。
「知識的には問題ないんだよ。
 ただ、やっぱり精神面が表向きはピシッとしたお利口さんなんだけど内面が植田達と何ら変わりがないんだ」
「それはお前が達観してる所が問題だ」
「そんなに精神年齢高いつもりじゃないけど」
「そして性質悪い事にお前は子供っぽく面倒になるとすぐ適当に済まそうとする所がある。そこが先生的には心配なんだ」
「子供っぽいかな?」
「めんどくさいと考える事を放棄する。
 例えばシェフのキッチン。例えば麓の家。例えば圭斗の財産問題とかオリヴィエのバイオリンとかフランスの城」
「めんどくさいって考えたつもりはないんだけど」
 そっと視線をそらすあたり財力のごり押しで終了させた感は一応感じているようだ。
「まぁ、今回みたいにお前が快適に過ごす為の努力と言うのは理解できるが、この中に何人分お前によって人生が斜め上に進んでいくのか考えただけで捧腹絶倒だ」
「笑ってもらえて何よりです」 

 少なからず未来を変えられたと思う高山ならではの心配はいい方向に向かうのなら巻き込まれてしまえと言う所だろう。とは言え綾人と対峙する事で落ちて行く人間を何人も見てきた。一番の例が親族だろうか。
 綾人の家の一家離散はまだいい方だった。次男一家の親戚なんかは親子ともども行方知れず、自衛隊の一家も音信不通、そして一番年下の従弟に至っては児童保護施設に居る。
 陽菜があの家を出た後後妻となった妻は家の財産を食いつぶした後新しい男を見つけては逃げ、そしてその息子は自分のしでかした事にトンズラした。聞かされて内が綾人ならきっと知ってる語る事のない彼らのその後の惨めな生活をしているのは言うまでもないだろう。残された父親は街金の人に連れられて帰ってこず、そして学校に登校しない従弟は保護施設に入る事になった。
 一応親族を聞かれた時綾人の家を思い出して児童相談所の職員が引き取れないか足を運んできた事がある。
 しかし綾人は無理だと突っぱねた。
 当然だ。
「これの親族に殺されそうになった時コレは真冬のあの川の意志に必死にしがみつく俺を笑って見ていたんだ。
 そんな人間と一緒に暮らしたらどうなるかぐらい話すより簡単だろ」
 返事を聞くまでもなく職員も諦めてくれた内容は当時の事を忘れた子供は顔を覚えのない事に青くしていた。
 説得はしない方がいいと判断した職員との面談は数分で終わり、一応の連絡先として住所と名前、電話番号を聞かれたけどそれも一切拒否をした。
「何所かでのたれ死んでも人が死ぬのを笑って見ていられる人間に家の墓には入れたくないので自力で過程を持って墓を建ててそこに入るか無縁仏に入れてもらえるか自分で決めさせてください」
 そう言ったところで帰ってもらうのだが、門を閉める為にお見送りをする事になったのだが最後に車の窓が開いて
「綾兄ちゃん……」
 か細い声が聞こえたけど俺は何の感情を込めず
「陽菜が家で虐待を受けていた時俺が陽菜に持たせた高校生活の為に渡したカードから全額引き落としたのはお前だろ。
 陽菜は未だにお金を奪ったのはあの男だと思ってる。それを陽菜には伝えてないのが俺の最後の優しさだと思え」
 さすがにこの事はまだ覚えてるのだろう。見開いた目がすべてを語ったように、そして俺に伸ばした手を引っ込めてごめんなさいと泣きながら謝られても傷ついたのは俺ではない。
「ちゃんと勉強してあの金額を陽菜に返せる様になったらもう一度一人でここに訪ねてこい。食事も貰えなかっただけでなく女性としての尊厳を汚されたあいつを見て見ぬふりをして自分を守りたかったお前はまだ小学生だったが、それでも助けを求めるどころかあの後妻たちと同じように陽菜を傷つけておいてどの顔で会いたいと言うか考えて置け」
 この話は俺も言うつもりはなかったが、オヤジ達によく似た従弟をまだ陽菜に合わせるつもりはない。ここに来て初めて聞かされる情報に職員も何でもっと早く言わないんだと言うもそれを一切無視して泣きじゃくる従弟にだから何なんだと言うように背中を向けて帰ろうとしない一行を置いて背中を向けて家の中に入ったそんな体調を崩して無理やり話をさせられてばれた後日談を言う事になった時は何でそう言う事があった時はすぐに連絡をよこさないと圭斗と宮下とシェフと一緒に切々と言い聞かせたが
「この問題は陽菜とアレの問題だ。口を挟むつもりはない」
 だから時間を稼いだ。
 陽菜も高校を卒業して調理師の専門学校に通っている。一時期服飾を学ぼうかとか言っていたが迷いに迷って結局調理師を目指す事にしたらしい。
 曰く料理が壊滅的だったとかなんとかそんな話を聞いた覚えもあった。
 とりあえず今は普通に美味いと言った従弟殿からまずいと言う言葉は聞いた事が無かった。なので壊滅的という言葉が聞けた時点で味覚があったのかと謎の感動はしたが、とりあえず二人とも前向きに生きているのでこの問題は夏樹に押し付けて仮にも旦那なんだからタイミングを見てお前から話をしろと伝えておいた。
 まがりなりしも陽菜と実の弟の問題。結婚して付いて来た親族に対してどうするのかは俺ではなく夏樹の役目だ。
 四人から白い目で見られるも俺がするのは三人で話し合った後でしかお役にたつ事はないと言う物。陽菜たちに渡した御祝い同様預かってる物がある。それを渡していいのかどうか判断するのが俺の役目だし、オヤジの時みたいに必要あらば渡す事も考えておかなければならない。
 
「少なくともだ。
 もし困ってる奴がいて、お前が手助けしたいと思った時、手が足りなかったら俺達を呼べよ。行ける時期は限定されるけどな」
「少なくとも先生達の手を煩わせないように頑張ってみるさ」

 それが怖いんだ。
 呟いた言葉に何となく納得が行かない物を覚える物の、今度は先生の学校の話しになり、充実した高校教師生活の話に耳を傾けるのだった。
 

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