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スケジュールが溢れかえって何よりですって言う奴出手来い! 3

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 閉ざしていた囲炉裏の蓋を開けて炭で火を焚く。
 薄らと上る煙はすぐに落ち着き、赤く焼ける炭が微かに爆ぜる音を奏でる。
 食事までする予定はないので、五徳と金網を使ってお餅を焼いておやつの代わりに醤油と海苔で磯辺焼きを作って食べてもらう。
「全然お餅の味が違う!」
「すごい香ばしい!」
 囲炉裏初心者の二人にはすごく喜んでもらえて
「ほら、焦げるからどんどん食べろよ」
 なぜか蓮司がこの場を仕切って食べさせていた。
「すごいお婆ちゃんのお家に来たみたい!うちのお婆ちゃんは下町生まれだから囲炉裏なんてないけど」
「判る!こう言うのが何かおばあちゃんの家って感じなんだよね!」
 古き良き昭和の家と言うのが彼らのイメージなのはわかったが
「こんどは他の奴らを連れて来てバーベキューでもしような」
「蓮司よ、家主を抜いて何を仕切ってる……」
「まあまあ、そこは離れの鍵貸してくれるだけで良いから留守の間烏骨鶏の世話をしようという心で」
「離れだけかよ」
「多紀さんがこの母屋ヤバいから絶対綾人がいない時には入るなって言ってたから」
「まぁ、母屋は俺の生活の場だから留守の間に荒らされるのは勘弁してほしいからな」
 留学にするに当たり猟銃を一度警察に持って行って処分してもらったのだ。とは言え飯田さんの物はある。厳重に鍵をかけた金属製のケースに入れてある物を母屋のどこかにあるとしか思っていない。とは言え資産的な物は銀行の貸金庫の中に放り込んであるけど、一番見られたくないPCの中身は簡単には見る事が出来ないように処置はしてある。
「俺達だってあの一件を見たばかりだから多紀さんや社長の言う事は守らないとヤバいって理解してるし、あの一件の中心にお前がいたのを後から聞いて逆らっちゃダメな奴ってぐらい理解してる」
 もっちもっちと磯辺焼きを食べていた二人も俺を見る目が死んでいくのを何かトラウマを植え付けていたようで申し訳ないとは思わないが
「自業自得だろ。それを俺の責任にするな」
「まあ、そうだけどさ。言い訳できないような証拠を並べるとか鬼畜すぎだろって助けられた俺は笑って見てたけど、切られた奴ら顔を真っ青にして仕事辞めてった奴もいたし、事務所移ったけど干された奴山ほどいたから。同情はしないけど」
「契約と言う物を舐めすぎなだけだ。
 二人も甘えの利かない大人の社会にいる事と所詮は使い捨ての人材って言う事を理解して誠実に生きろよ」
 餅を食べているのにごくんと飲み込む音が聞こえて大丈夫かと思うも次々に餅を焼く蓮司から受け取ってスナックのように食べて行く茉希に俳優ってスタイルとか気にしなくていいのかよと思うも一応リアルJKなので成長期に食事制限はいけませんと言う事でスルーしよう。
 そしてまたもっちもっちと餅を食べだす二人にお茶を出してやっと一息ついたと言う所で
「イギリスなんだって?」
 蓮司が留学の話しに戻った。
「基本三年。修士課程を納めれば四年。博士課程も行きたいけど、そこで三年プラス。正直そこまで行って何をするかなんてないから悩んでいる所。そうなるとただ学びたいから行くって言うのもおかしな話だし。興味はあれどそこで大学の教師をやるわけでもないし、政治家なんてまっぴらごめんだ。好奇心で学んで目的あるヤツの場を奪うのも酷い話だし、そこが悩みどころ」
 実際行きたいと言う好奇心はある。だけどそこで学んだ事を広める考えは俺にはない。ただの自己満足で行っていい場所でもない。
「向こうにいる間に考えは変わるかもしれないけど、とりあえず今の所は保留」
「行く準備は出来てるのか?」
 気づかい気な声に
「一応大学の側のアパートを借りてる。そんで郊外にもいかにもイギリスって言う素敵な家を見つけたから衝動買いで買った」
「んなもの衝動買いするな!」
 城を衝動買いした事を知る蓮司は盛大に顔を引き攣らすのを笑いながら見て
「留学すると卒業するまでに二千五百万程必要になる」
 そんな具体的な数字に顔を歪る。
「授業料と同等の金額が生活費や食費、教材費滞在費と言ったのしかかる事になる。大学行くだけ家が一軒建つ金額だ。寮などは要ればそれなりに安くあげられるかもしれないけど、富裕層な家柄が多く通ってくる場所だから治安も良いけどそれだけ物価も高くなる。ロンドン程じゃないとは言うけど学生には十分高額となる。
 ましてや留学生となると奨学金の枠も狭くなる。とは言え貰えたとしても微々たるものだと言うのは言うまでもない」
 その言葉には意外な事に慧が頷いていた。
 慧は地方出身の俳優でアパートを借りて一人暮らししながら高校にも通っていると言う。
「高校の間は事務所がお金の管理をしてくれているけど、今回オーディションに通って多紀さんに声をかけてもらわなかったらまだまだ名前のない端役だから正直やって行けるのか不安だった」
 ふーん?と聞けば
「うち親が離婚してるから、あまり母さんに負担掛けたくなかったんだけど、やっぱり東京に出て一人暮らしは気を遣わせてなんかいろんなもの送って来てくれるんです」
 差入れ、羨ましいと一度も親とそう言う交流もなかったので正直に今は思えてしまえば
「事務所が学費とか肩代わりしてくれるって言ってるけど何れは支払わないといけないから奨学金とかあると少しは楽になるのかななんて考えた事があったので……」
 となると今は何とかめどが付いたと言う所だろうか。
 そこは自分の力だから誇ればいいのにと思うもこれが最初で最後だったらと言う不安はあるのだろ。
「まあ、誠実に仕事をこなして次にまた多紀さんに声をかけてもらえるように頑張ればいいんじゃない?」
 あの人意外と情に厚いからチョイ役でも声をかけてくれるだろうと思うも、映画に関しては絶対ひかない所がある難儀な性格に振り回されている時点で情とかでは声は駆けないと思い直しながら
「そんでもってイギリスの家だ。
 各自寮に入ったりするのだろうが、交流の場としてそう言う所があってもいいんじゃないだろうかと思うわけで、とりあえず成功するかどうかわからないけど拠点となる場所を確保してみたんだ」
「ずいぶん思い切った事をしたな」
「まあ、何かあった時の駆け込み寺みたいな感じでフォローできる場があればもっと安心して留学できる。そこからのネットワークづくりといった所だ。上手く行くともわからないしまだまだ試行錯誤の段階だけどね」
 そんな俺の思いはきっと心細くホームシックな奴らが出てもおかしくはないだろう。そう言う子供に手を差し伸べる場所と言う考え方だが、ひょっとしたら俺の方が手を差し伸ばして欲しいのではと考えながら既に始まった計画は着工している為に引き返せないし引き返すつもりもない。
「だけど俺思うんだけど」
「何が?」
 渋い顔をする蓮司と目が合えば
「お前も大概お人よしだな」
「よく言われる」
 何て二人で苦笑。それにつられるように慧も茉希も一つ遅れて理解したと言う様に一緒に笑いあうのだった。

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