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今年もありがたい事にスケジュールがいっぱいになりそうです 8
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「それでね綾人君、役者さん達のスケジュールがやっと確保できて撮影となったんだ。ほんと長かったよね」
「意外でしたね。なんか多紀さんの映画だからはい集合、はい始めるよー、はいスタートって思ったんだけどね」
「本当ならそうなるはずだったんだけどね、主演の女の子が半年拘束契約のドラマに入っちゃったからね。交渉のタイミングがほんのちょっと遅れて大幅な時間ロスだよ」
「いいんじゃね?その間もっと見直すタイミングとか、熟成させるタイミングとかそう言う意味じゃないの?」
「果報は寝て待て。そう言う事ならいいんだけどね」
「その証拠にいろいろ契約違反でワイドショーにぎわせちゃって。結局事務所も契約打ち切りで仕事も全部切られたんだって?」
「綾人君詳しいね。まだ世間に出てないネタなのに」
「ネットでやり取りしてる時点で世間に出てるって言うんだよ」
「おかげでヒロインの子をまた探し直しだ」
「どうせもうめぼしい子見つけて交渉に入ってるくせに」
「まあね。ほぼ新人にも等しい子だけどね。虫を見ても驚かないし、だからと言って興奮する子でもない、ちょっと淡々した所があってね。何処か綾人君みたいな子で面白いかなって思うんだ」
「でもそれ仮宮下でしょ?」
「うん。まあね。宮下君は何処かぽーっとした所があるけど、その子は目的が定まって無くって葛藤してるって言うか何で、どうしてって自分の力不足に身動き取れない内に熱を秘めながらも放出できないエネルギーの塊の状態の子なんだ」
「あれか?ブロッコリースプラウトみたいな子か?
あのヒョロヒョロの中にブロッコリーになる為の総てが詰まってるって言う感じ?」
「うん。よくわかんないけど役者している以上確かに芽は出ている段階だね」
「とりあえず成長するのに邪魔になるからとポイされる側じゃなく、成長させるために選ばれた芽になったわけだ。あとは害虫が付いたり薬害でダメになったりしなければ無事皆様にお届けできる立派なブロッコリーとなるわけか」
「何の話しかよくわからないけど、害虫や薬害で成長阻害されたくはないよね」
今回契約切られた女優さんは見事ブロッコリーの成長に合わさると言う様に多紀さんは溜息を吐いて少し悲しげな笑みを浮かべ、ごろりと縁側の日当たりのよい場所で大の字に寝転ぶのだった。
「それにしても本当に作っちゃったんだね」
「うん。僕も綾人君を見習って内田さんに我が儘言っちゃった。内田さんに綾人君の離れを作った時みたいに沢山の大工さんを呼んで撮影するの頼み込んじゃった」
「聞いたよ。森下さんが仕切ってくれたって。圭斗や宮下、蒼さん達もみんな参加したんだってね」
「僕の一押しの長沢さんに床の間をこだわりぬいて作ってもらったよ」
「聞いた。宮下の勉強になるからってどこのお屋敷かってぐらいの技術を詰め込んだんだって?」
「そうなの。長沢さんの奥さんもそれならそれに合う様にって手すきの和紙で襖を作ってくれたんだ」
コロコロと転がりながら多紀さんはその床の間の部屋へと向かう。器用だと感心しながらもうちよりはるかに豪華な床の間は豪華であれど華やかさと言うよりむしろ緊張感を生む、京都の仏閣にある一部屋のような品格ある部屋へと変っていた。
きっとこの辺りは宮下が本来西野さんに学んでくるはずだった技術だったのだろう。この錆びれた山奥の町では縁のない技術だけど、この家の建築総てを多紀さんは映像に収めていた。そこで見た長沢さんの手元は淀みなく迷いなく動き続けた長年培った技が凝縮していた。総て宮下へと受け継ぐ技術をこの家に注ぎ込み、映像の中で
「今度は翔太が吉野の家の補修の時にすると良い。吉野の御仁ならきっと喜ぶぞ」
どこまでも吉野に恩を返そうとする長沢さんに熱い物が沸き上がる。技術の継承よりも俺と宮下の友情を何十年も先まで見通す優しさに俺は知らず知らず涙を流していた。
悔しい事に多紀さんはこれを見せたくて忙しいはずなのに時間を作ってこの家を作る過程を俺に見せたのだ。
勿論他にも内田さんの家作りはうちの離れをモチーフとしているだけに吉野の家のコピーだからと言って手を抜くんじゃないと多紀さんの指示で現場に参加させた大道具さん達をしかりつける様子もしっかり残されていた。
大道具さん達によって手を抜かれた所を木槌を持って山川さんが破壊する様は誰もが言葉を失う光景。
「ここは人が住まう家だ!こんなくだらない事をするのなら荷物持って仕事を辞めてとっとと帰れ!」
そんな一喝に震えあがった奴らと当然と言う顔に見事二つに分かれた。
何れ買い取る多紀さんはただ何も言わずひたすらカメラを回し続ける中、長沢さんの
「ぼやっとしてるなら全員帰れ。森下も現場の指示が出せないのなら仕事を下りろ」
なんて加えられた決して大きくない声なのに響く言葉に時間を取り戻したかのように誰ひとり離脱する事無く作業に戻った。
「やっぱり長沢さん渋いねえ」
誰よりの輝いてると言う様にこの様子を既に五回は見させられた。
うん。知ってるよ?
長沢さん誰よりも吉野に忠実な人だよ?
飯田さんが子犬に見えるほどの忠犬だよ?
だけどね
「長沢さんはジイちゃんの親友だから。俺によくしてくれてるのはジイちゃんの孫で、ジイちゃんが大切にしていたバアちゃんがかわいがってくれた孫の俺を不憫なく気を使ってくれているから本当なら自分の孫に向ける愛情を俺にも向けてくれてるんだ」
そればかりが申しわけない一点。
長沢さんに言えば気にする事じゃないと言うのだろう。だけど恩人とは言え赤の他人に向けるには丁寧過ぎて会った事はないけど長沢さんの子供達以下の人達には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
その考えに俯き加減になった俺に
「長沢さんは綾人君のお爺さんと同じくらいなんだよね?
きっとお祖父ちゃんって手を伸ばして愛情を求めるような歳でもないし、きっと元気ならいいんじゃないかと言う歳だと思うんだ。
そうなるとね、何を一番に考えるか知ってる?」
滝さんは俺の目を真っ直ぐ見て困ったふうに笑っていた。
俺は多紀さんの質問にもその意図も判らずに首を横に振れば
「亭主元気で留守がいいって言葉がある様に爺さん元気で連絡なしが平和の象徴なんだよ」
一瞬意味が分からないでいれば
「綾人君の年の子供はおじいちゃんおばあちゃんの健康は願えど、健康で介護とか関係なく、子供の頃たくさん遊んでくれたままの姿のままだと言うのが本音なんだ。
綾人君のお爺さんお婆さんはほとんどお世話する事無く亡くなられたと聞いたけど、お孫さんもそこまで気を使う事なく旅だったよね?」
聞かれて初めて夏樹と陽菜の言い分が理解できた。
親が慌てる事がない為の危機感のなさ。
綾人の怒りに戸惑う二人を初めて理解できたと言う様に目を見開くものの
「それでも俺は一日に何度も連絡したのに無視された数を許す事が出来ない」
俯き加減で今も色あせる事のない、きっと一生抱えて行くだろう怒りを今はまだ手放す事は出来ない。
そんな俺に多紀さんはうんうんと頷き
「それでいいんだよ。その怒りは綾人君の物だから、その怒りをどう昇華させるかそれは綾人君次第。
だからと言ってそれを長沢さんに向けるのは間違っているから。長沢さんの問題は長沢さんの家族の問題だから綾人君はいくらどれだけ親切にしてもらっても口を出す権利はどこにもないから悶えながらも静かに見守るしかないんだよ」
まるでこの先何があるのかというような釘の差され方。
「綾人君は大切な人にどこまでも守りに行く傾向があるけど、それは決して相手の為にはならない。加減を間違えちゃだめだよ」
まるで前に先生に言われた事を再度言われてしまい、そっと視線をそらす。
「だからって勘違いしちゃだめだよ。
長沢さんの過程の事情に口は出しちゃいけないけど綾人君が勝手に長沢さんを大切にする思いは誰にも邪魔できない物だ。
それは長沢さんが綾人君を大切にする気持ちの同じだから、誰も邪魔する権利がないと同じように」
反らした視線を多紀さんへと向ける。
「僕は綾人君より人と知り合う数が多いだけ色々な問題も目にして来たからね。
だから誰より人を重んじる人達に目が止まる。
人とのかかわり合いは僕の映画を作る上の絶対のテーマだ!」
誇らしげにそして譲れないと言う様に俺を見て
「映画ではわからないけどこれは先生の視点から見た綾人君を僕が妄想する世界だ。先生と言う役柄からどれだけ僕ばやきもきしてるか思い知るといいよ!」
どこかしてやったりという多紀さんの顔に俺も鼻で笑う。
「はっ!その頃には俺はイギリスにいるから!
映画が上映している時に俺が帰国してる事を願うんだな!」
その時の驚きの表情こそ多紀さんは人を見て現実を見ない人だと理解できる一コマ。
その一コマこそどの映画よりも印象に残る自然な表情だと俺は笑うのだった。
「意外でしたね。なんか多紀さんの映画だからはい集合、はい始めるよー、はいスタートって思ったんだけどね」
「本当ならそうなるはずだったんだけどね、主演の女の子が半年拘束契約のドラマに入っちゃったからね。交渉のタイミングがほんのちょっと遅れて大幅な時間ロスだよ」
「いいんじゃね?その間もっと見直すタイミングとか、熟成させるタイミングとかそう言う意味じゃないの?」
「果報は寝て待て。そう言う事ならいいんだけどね」
「その証拠にいろいろ契約違反でワイドショーにぎわせちゃって。結局事務所も契約打ち切りで仕事も全部切られたんだって?」
「綾人君詳しいね。まだ世間に出てないネタなのに」
「ネットでやり取りしてる時点で世間に出てるって言うんだよ」
「おかげでヒロインの子をまた探し直しだ」
「どうせもうめぼしい子見つけて交渉に入ってるくせに」
「まあね。ほぼ新人にも等しい子だけどね。虫を見ても驚かないし、だからと言って興奮する子でもない、ちょっと淡々した所があってね。何処か綾人君みたいな子で面白いかなって思うんだ」
「でもそれ仮宮下でしょ?」
「うん。まあね。宮下君は何処かぽーっとした所があるけど、その子は目的が定まって無くって葛藤してるって言うか何で、どうしてって自分の力不足に身動き取れない内に熱を秘めながらも放出できないエネルギーの塊の状態の子なんだ」
「あれか?ブロッコリースプラウトみたいな子か?
あのヒョロヒョロの中にブロッコリーになる為の総てが詰まってるって言う感じ?」
「うん。よくわかんないけど役者している以上確かに芽は出ている段階だね」
「とりあえず成長するのに邪魔になるからとポイされる側じゃなく、成長させるために選ばれた芽になったわけだ。あとは害虫が付いたり薬害でダメになったりしなければ無事皆様にお届けできる立派なブロッコリーとなるわけか」
「何の話しかよくわからないけど、害虫や薬害で成長阻害されたくはないよね」
今回契約切られた女優さんは見事ブロッコリーの成長に合わさると言う様に多紀さんは溜息を吐いて少し悲しげな笑みを浮かべ、ごろりと縁側の日当たりのよい場所で大の字に寝転ぶのだった。
「それにしても本当に作っちゃったんだね」
「うん。僕も綾人君を見習って内田さんに我が儘言っちゃった。内田さんに綾人君の離れを作った時みたいに沢山の大工さんを呼んで撮影するの頼み込んじゃった」
「聞いたよ。森下さんが仕切ってくれたって。圭斗や宮下、蒼さん達もみんな参加したんだってね」
「僕の一押しの長沢さんに床の間をこだわりぬいて作ってもらったよ」
「聞いた。宮下の勉強になるからってどこのお屋敷かってぐらいの技術を詰め込んだんだって?」
「そうなの。長沢さんの奥さんもそれならそれに合う様にって手すきの和紙で襖を作ってくれたんだ」
コロコロと転がりながら多紀さんはその床の間の部屋へと向かう。器用だと感心しながらもうちよりはるかに豪華な床の間は豪華であれど華やかさと言うよりむしろ緊張感を生む、京都の仏閣にある一部屋のような品格ある部屋へと変っていた。
きっとこの辺りは宮下が本来西野さんに学んでくるはずだった技術だったのだろう。この錆びれた山奥の町では縁のない技術だけど、この家の建築総てを多紀さんは映像に収めていた。そこで見た長沢さんの手元は淀みなく迷いなく動き続けた長年培った技が凝縮していた。総て宮下へと受け継ぐ技術をこの家に注ぎ込み、映像の中で
「今度は翔太が吉野の家の補修の時にすると良い。吉野の御仁ならきっと喜ぶぞ」
どこまでも吉野に恩を返そうとする長沢さんに熱い物が沸き上がる。技術の継承よりも俺と宮下の友情を何十年も先まで見通す優しさに俺は知らず知らず涙を流していた。
悔しい事に多紀さんはこれを見せたくて忙しいはずなのに時間を作ってこの家を作る過程を俺に見せたのだ。
勿論他にも内田さんの家作りはうちの離れをモチーフとしているだけに吉野の家のコピーだからと言って手を抜くんじゃないと多紀さんの指示で現場に参加させた大道具さん達をしかりつける様子もしっかり残されていた。
大道具さん達によって手を抜かれた所を木槌を持って山川さんが破壊する様は誰もが言葉を失う光景。
「ここは人が住まう家だ!こんなくだらない事をするのなら荷物持って仕事を辞めてとっとと帰れ!」
そんな一喝に震えあがった奴らと当然と言う顔に見事二つに分かれた。
何れ買い取る多紀さんはただ何も言わずひたすらカメラを回し続ける中、長沢さんの
「ぼやっとしてるなら全員帰れ。森下も現場の指示が出せないのなら仕事を下りろ」
なんて加えられた決して大きくない声なのに響く言葉に時間を取り戻したかのように誰ひとり離脱する事無く作業に戻った。
「やっぱり長沢さん渋いねえ」
誰よりの輝いてると言う様にこの様子を既に五回は見させられた。
うん。知ってるよ?
長沢さん誰よりも吉野に忠実な人だよ?
飯田さんが子犬に見えるほどの忠犬だよ?
だけどね
「長沢さんはジイちゃんの親友だから。俺によくしてくれてるのはジイちゃんの孫で、ジイちゃんが大切にしていたバアちゃんがかわいがってくれた孫の俺を不憫なく気を使ってくれているから本当なら自分の孫に向ける愛情を俺にも向けてくれてるんだ」
そればかりが申しわけない一点。
長沢さんに言えば気にする事じゃないと言うのだろう。だけど恩人とは言え赤の他人に向けるには丁寧過ぎて会った事はないけど長沢さんの子供達以下の人達には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
その考えに俯き加減になった俺に
「長沢さんは綾人君のお爺さんと同じくらいなんだよね?
きっとお祖父ちゃんって手を伸ばして愛情を求めるような歳でもないし、きっと元気ならいいんじゃないかと言う歳だと思うんだ。
そうなるとね、何を一番に考えるか知ってる?」
滝さんは俺の目を真っ直ぐ見て困ったふうに笑っていた。
俺は多紀さんの質問にもその意図も判らずに首を横に振れば
「亭主元気で留守がいいって言葉がある様に爺さん元気で連絡なしが平和の象徴なんだよ」
一瞬意味が分からないでいれば
「綾人君の年の子供はおじいちゃんおばあちゃんの健康は願えど、健康で介護とか関係なく、子供の頃たくさん遊んでくれたままの姿のままだと言うのが本音なんだ。
綾人君のお爺さんお婆さんはほとんどお世話する事無く亡くなられたと聞いたけど、お孫さんもそこまで気を使う事なく旅だったよね?」
聞かれて初めて夏樹と陽菜の言い分が理解できた。
親が慌てる事がない為の危機感のなさ。
綾人の怒りに戸惑う二人を初めて理解できたと言う様に目を見開くものの
「それでも俺は一日に何度も連絡したのに無視された数を許す事が出来ない」
俯き加減で今も色あせる事のない、きっと一生抱えて行くだろう怒りを今はまだ手放す事は出来ない。
そんな俺に多紀さんはうんうんと頷き
「それでいいんだよ。その怒りは綾人君の物だから、その怒りをどう昇華させるかそれは綾人君次第。
だからと言ってそれを長沢さんに向けるのは間違っているから。長沢さんの問題は長沢さんの家族の問題だから綾人君はいくらどれだけ親切にしてもらっても口を出す権利はどこにもないから悶えながらも静かに見守るしかないんだよ」
まるでこの先何があるのかというような釘の差され方。
「綾人君は大切な人にどこまでも守りに行く傾向があるけど、それは決して相手の為にはならない。加減を間違えちゃだめだよ」
まるで前に先生に言われた事を再度言われてしまい、そっと視線をそらす。
「だからって勘違いしちゃだめだよ。
長沢さんの過程の事情に口は出しちゃいけないけど綾人君が勝手に長沢さんを大切にする思いは誰にも邪魔できない物だ。
それは長沢さんが綾人君を大切にする気持ちの同じだから、誰も邪魔する権利がないと同じように」
反らした視線を多紀さんへと向ける。
「僕は綾人君より人と知り合う数が多いだけ色々な問題も目にして来たからね。
だから誰より人を重んじる人達に目が止まる。
人とのかかわり合いは僕の映画を作る上の絶対のテーマだ!」
誇らしげにそして譲れないと言う様に俺を見て
「映画ではわからないけどこれは先生の視点から見た綾人君を僕が妄想する世界だ。先生と言う役柄からどれだけ僕ばやきもきしてるか思い知るといいよ!」
どこかしてやったりという多紀さんの顔に俺も鼻で笑う。
「はっ!その頃には俺はイギリスにいるから!
映画が上映している時に俺が帰国してる事を願うんだな!」
その時の驚きの表情こそ多紀さんは人を見て現実を見ない人だと理解できる一コマ。
その一コマこそどの映画よりも印象に残る自然な表情だと俺は笑うのだった。
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