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春の嵐通り過ぎます 7

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 その日の夕方になってスタッフの人達が辿り着いた。
 いつもの三人組の服部さん、木下さん、堀さんは雷おこしを手土産に多紀さんの仕事道具と着替えと身の回り一式を持って来てくれた。
 そして
「綾人久し振り!」
「蓮司?!一年ぶり?
 とりあえず雪かきよろしく!」
 ごつんっ!
 いきなり殴られた。解せん。
「おまっ!久しぶりに会っていきなり雪かきはないだろ?!」
「ええ…… じゃあ薪割……」
 ごつんっ!
 再度殴られた。何が駄目なのだろうか……
「暴力反対!」
「これが教育的指導です。
 三秒以内に躾るのがポイントです」
「犬の躾じゃないんだからまずは口で言えよ。
 後俺を躾ける前に多紀さんに首輪をつけておけよ。いきなり来てマジビビったんだから。しかも勝手に人の家に黙って上がって来るし!」
 お付きの三人組がじろりと多紀さんを見るも多紀さんは知らん顔。
 だけど慣れた物なのか三人組は多紀さんと暫くの間お話タイムとなり、蓮司がいつの間にかいなくなってたけどすぐに姿を現した。
「綾人ー、烏骨鶏の卵がないんだけど」
「もう回収した後!台所にあるから古い日付の奴から食べてくれ」
「そういやさっきここに来る前に圭斗の家に顔を出しに行ったらお前の麓の家に案内してもらった時に先生達が来てるって聞いて挨拶に行ってきたんだ。ちなみに飯田さんは?」
「朝一でお帰りになりました。仕事有るし、今いろいろ忙しい時期だからね」
「相変わらず超人気店だもんな。差入れしてもらったから挨拶に一度だけ店行ったけどおっそろしい値段だった。二度と行けない……」
「ご実家の方がもっとおっそろしい値段らしいよ。
 飯田さん曰く横文字のメニューはたかが知れてるけど縦書きのメニューは注意しろって前に教えてくれたから」
 特に値段の書いてない店は要注意らしい。って言うか値段が書いてない店って何なんだよ?!
 店主に全力で問いただしたい。
「で、多紀さんどれぐらいいるって?」
「約一ヶ月。そこまで居させてくれないだろうけど希望はそれぐらいだってさ」
「まぁ、自覚はあるわけだね」
 言いながら俺はこの人数に炊飯器でご飯焚くのを諦めて竈でご飯を炊く準備をする。勿論去年の冬を過ごした蓮司もすっかりこの家の生活に馴染んで働かざるもの食うべからずの精神が染みついているので薪を取りに行ってくれる。
「あと風呂温め直して貰えるか?」
 言いながらお湯の温度を見て経験からの感で薪を準備して丸投げをしておくも任されたとどこか嬉しそうな声でお風呂を焚きに行く様子は懐かしがってくれてるのだろうと思うも
「猪の肉を使ったしし汁が飲みたいんだけどー?」
 そんな下心あっての労働。どこのガキかと思うも
「初心者の為に味噌仕立てにするぞ」
「まずは基本に沿ってって奴だな」
「あと虹鱒の塩焼きを……」
「この時期は脂のってなくておいしくないけどそれでよければ」
「囲炉裏で焼くって言うビジュアルがいいんだよ」
 そう言う物か?なんて思いながらも五徳と金網を用意しておく。どうせならいろいろ焼きながら食べればいいと今年取れた猪の肉や兎の肉も用意しておく。食べやすい様に串を打って後は塩と胡椒があれば十分だろう。普通に焼肉のたれも用意しておくけど、やっぱり味変が欲しくなるので必須だろう。
「それよりも皆さん、寒いから家の中に入ってください!」
 呼びかければ何故か全員カメラを持ってうろうろとしていた。何事……
 本格的な撮影用ではない、俺も使うようなカメラを手にうろうろと母屋を撮影していた。
「何してるんですか……」
「ん?ほら、映画のメインになる家の雰囲気をね。
 土間もだけど現役の土間の台所も良いし急な階段も赴きあるよね。
 土間上がりの高さなんて殺人的だし囲炉裏も大黒柱も未だに木枠の窓も、何より蛍光灯の薄暗さがいいよね。暗いけど」
「まぁ、バアちゃんのコレクションがあるうちは蛍光灯に頑張ってもらうさ」
 言えば何かを察した多紀さんが俺の知んだオフクロも収集癖があったんだよと笑い
「やっぱり囲炉裏の部屋は吹き抜けがいいなぁ」
「それは離れでイメージしてください」
 初めてではないだろうから見に行けばと言うも 
「あそこはやっぱり改造し過ぎって言うの?今時の古民家風って言うのがねえ」
 何てご不満のようだが
「あっちの基礎の方がこの家よりずっと先輩だぞ。
 江戸時代まで記録があるから」
 屋根裏に打ち付けられた記録は幸治に破かれた後、幸治はしこたま怒られて直ぐに鉄治さんに書き直してもらった物が今は打ち付けられてある。
 俺がいなくなって、誰かが迷い込んだ時見つけて貰えたら驚けばいいなと取り潰すにはもったいない思い出が詰め込まれた家に俺が麓の家に移る頃には処分と言う文字が最近宙に浮き始めているのはまだ誰にも言ってはいない。まだまだ先の話しだから十分考えようとこの問題は引出の奥にしまい込む様に目を反らすのだった。
 皆さんを離れに案内して電気を付ければ一斉に蜘蛛の子を散らすように撮影を始める様子はさすが多紀さんの弟子と言った所だろう。
 長火鉢からの天井の風景、二階の内窓から見下ろす土間の様子。花は飾ってないけど長沢さんの花器が飾られていて、壁には西野さんの一輪挿しの花器が飾られている。
 あれから改めて見学のお礼にと言って渾身の作と言わんばかりの品の良い梅が咲き誇る透かし彫りの花器が届けられた。あまりに綺麗でバアちゃんが好きそうだから仏間に置かして貰ってるけど、この彫刻を施した手が失われた。純粋に悲しく、そしてこれは西野さんの傑作なんだろうと眺めさせてもらうのだった。






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