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春の嵐通り過ぎます 1

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 渡り廊下を通って行く音が聞こえなくなるまで耳を澄まし
「飯田さん。俺、迷惑になってませんか?」
 思わず聞いて唇を噛んで俯いてしまう。
 飯田さんがどんな顔をしているのか怖くて記憶しないように目を閉じてしまえば
「そうですね」
 ゆっくりとした口調に緊張してしまうのは仕方がないだろう。気分は死刑判決を待つ囚人のようだ。
 だけど飯田さんも先生と同じように俺の頭に手を置いて
「綾人さんにすごく甘やかして貰って、それが当たり前になったらどうしようかと心配になった時もあります。俺の給料ではファーストクラス何て夢のレベルですしね。
 ただあの時は綾人さんの申し訳なさからのオプションだと思ってます。いろいろありましたので無理する必要もないので納得はしています。
 基本俺は綾人さんに援助してもらったりとかそう言う関係ではないので、ああ、離れのオーブンはノーカンでお願いします。とりあえず金銭的な迷惑をかけたりかけられたりと言う距離までは近くはないでしょう。圭斗君達みたいに生活に密着した日常でもありませんし。
 なんだかんだ健康的な友人関係を築けていて、この年で職場以外で得た友人と言うのはとても貴重で、俺は綾人さんを通して料理とは全く関係のない沢山の人達と友達が出来て迷惑所か感謝をしています。
 だって俺も親父譲りの不器用な人間なので料理を通してでしか人付き合い出来ないタイプの人間です。なので、迷惑ではなく感謝をしています。
 それこそ俺もお会いした事ないのですが綾人さんのお爺様もそう言った人だったのではないのでしょうか?」
 ぽろり……
 あまりの直球な言葉達が俺に突き刺さり続けて
「何で、二人ともジイちゃんがの事知らないのに、何でそんな知ったふうな事を言えるんだよ!」
 思わず頭に乗せられた手を掴んでは払いのけ、逆に飯田さんの手を掴んで叫んでしまう。
 だけど飯田さんはちょっと物わかりの悪い弟を見るような目で俺を見て笑う。
 頭にもう一度手を置いて、くしゃくしゃと物わかりの悪い子供に安心させるように撫でながら
「そんなの、綾人さんを見ていればわかりますよ。
 綾人さんを育ててくれたのはお爺様とおばあ様だと常々言っていたではありませんか。それだけ尊敬しているのなら二人から沢山の事を学んできたのでしょう?
 生活だけではなくその精神も」
 それこそ言葉にならなかった。
「俺だって感情的になりますし、年下の綾人さんならそれこ加減と言うのが分ってないのでしょう。
 先生は多分そこを心配なされているので、おたがい近くなりすぎたからこそ少し離れた所から見るべきだと言いたかったと思います。
 あとやっぱり教師ですので人生生涯勉強と言う様に綾人君に教える事がきっと楽しいのだと思います」
 思いもしなかった言葉だった。
 この山での生活じゃなく精神もだなんて考えてなかった。爺ちゃんみたいに生きれたらいいな、それは思ってたけどまさか人生の生き方まで受け継いでたなんてと考えていれば
「安心してください。俺も弟によく言われます。
 親父が二人いるみたいだって、うざがられてます」
 あんなオヤジと一緒だなんてねとしゅんと項垂れる飯田さんは冷蔵庫からビールを取り出して俺達の前に並べる。何だかヤケ酒モードに突入をしたらし。
「ご家族の問題も一区切りついたのだから、ご家族に奪われた時間、今からでも取り戻して見ませんか?絶対後悔はしないと思います」
「ですかね?」
 そう言ってプルタブを開けて何だか一問題方向性が着いたと言う様に乾杯とビールに口を付けたら

 「綾人君話しは総て聞かせてもらったよっっっ!!!」

 飯田さんがビールを一口飲んだタイミングでスパーンと開いた扉に飯田さんは流しに向かって盛大に咽てしまっていた。
 さすが気遣いの人。
 こんな状態になってもテーブルは一切汚さないと隙がねえと感心していいのかわからない俺はきっと今パニック状態なんだろうけど、飯田さんの背中をさすりながら突如現れた人に目を瞠って顔を引き攣らせてしまう。
「な、なっ、なんで多紀さん?!
 どうして、え?また仕事逃げ出して来たの?!」
 炭酸が器官に入ったのだろう。これは痛い。今だ咽てえづいてるいる飯田さんの背中をさすりながら頭だけ多紀さんの方を向いて
「ああ大丈夫だよ。ちゃんと綾人君の家に行ってくるって書置きはして置いたから」
 飯田さんには悪いけど背中をさすっていた手を外して直ぐにメッセージを送る。多紀さんここにいますよと。直ぐに多紀さんのスマホが騒がしくなる物の
「あ、ちょっと待ってて。今大切な話しする所だから」
 何と電源まで切ってしまった。
 自由人だとは思っていたが
「一人でここまでこれたんですね」
「一応タクシーで内田さんの家にお邪魔して、お孫さんに地図を書いてもらったよ」
「幸治報告はどうした!!! あ、LIME来ていたとか」
 完全に俺の落ち度だった。落ち度なのか?
「タクシーの人にも親切にしてもらえたし、やっぱり田舎の人って優しいよね」
 にこにことした顔をしながら何とか落ち着いた飯田さんに
「あ、これお土産の中華。フレンチと和食はおなかいっぱいだろうからね。
 よかったらおかずにどうぞ」
「ありがとうございます」
 反射的に手を出してお持ち帰り用のパウチにしてある色とりどりの点心の詰め合わせを貰ってしまった。




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