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遅い春に芽吹く蕾 4

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「悪いな、今回は平日だったから応援に行けなくって」
「気にしないでよ。飯田さんだって稼ぎ時でこっちに来れなかったけどみんながしっかり応援に来てくれたから」
 
 オフクロの葬儀(?)も中々の遺恨を残して無事終了となった。
 案の定久しぶりに故郷に戻ってきた親戚一同に伯父さんと伯母さんは随分と振り回されたみたいだけど葬儀屋が来ていた時に俺が預けておいたオフクロの入院の為に必要な物はこれで買ってくれと渡して置いたクレジットカードを停止しておいた事を夫婦間の連絡が忙しさに呑まれて見栄を張った伯母さんによって大変な事になってるらしいと元から連絡が来た。
 楓は春休みとは言え向こうでバイトがあるからと早々に帰ってしまったが、有給休暇をもぎ取った兄二人はこのまま週末までこちらに居ると言った早々の出来事を早速と言うように俺に報告してくれた。
「お前らもとばっちり喰らうなよ?」
『大丈夫だよ。最終的には母さんがこっそり溜めていた貯金から出したみたいだから。
 正直父さんの給料で何で貯金が出来るのか不思議だったんだけど、やっと謎が解けたよ。知らなかったとはいえ本当に悪かった』
「まあ、こっちは最初から把握してたから。知ってて黙ってたけど、生活費程度…… 程度?
 七年分の領収書はちゃんと残してあるから送ったから笑ってくれ」
『え?あ、なんかメールきたこれ?
 ちょ、兄貴スマホかして!』
『何でって、おい、何で俺のパスワード知ってるんだよwww』
「すげー、パスワードの意味ないとか」
 あいかわらず仲の良い兄弟だなと思うもギャーギャー聞こえた声が一瞬で静まり返って何やらぶつかる音が聞こえた。
 暫くの間無言が続く中
『綾人、これ冗談だよな?!なんて言う冗談なんだ?!』
「冗談だと思うなら伯父さんの給料聞いてみると良いよ。おばさんのパートの給料も。百三万の壁を超えないようにしてたから知れた金額だよね。
 三人揃って私学の高校、私学の大学に進むのと平均並みのサラリーの伯父さんなの知ってるだろ?あと婆ちゃんの入院費、どう考えても採算が合わない。そうなるとどこで帳尻合わせてるかなんて考えるより簡単だ」
 無言になるスマホ越しの音に俺は溜息を零すも
「別に俺としてはお前達がその家から出て独り立ち出来たのならそれでいいと思ってる。オフクロの事を面倒見てくれるのならそれに合った金額だと思えば当然の対価だと思っている。
 だけどだ、オフクロも居なくなって必要が無くなったからカードは解約するのは当たり前だろ?」
 無言の空気が流れる中さらに言う。
「あとは楓一人だけだから、それぐらいは自分達で大学出せれるはずだ。今迄みたいな浪費さえなければ平凡なサラリーマンの収入でも十分だから」
 最も楓は大学から近い利便性の良い部屋を借りている。当然土地柄お値段も高くなるけど安全と引き換えと言えばどうするかなんて俺には関係ない家庭の問題。
「まぁ、ありがたい事に兄二人は立派な社会人になって自分の面倒は自分で見れる程度の大人にはなれた。
 妹へ小遣いぐらい渡すにも問題ない位の企業務めなんだから、俺が手出しする方がおかしな話だしな」
 言えば乾いた声の隆が
『ああ、そうだな。今まで全く知らなかったとはいえ悪かった。いや、感謝を言うべきだな。本当にありがとう』
 見ていなくても顔を真っ青にしているのが見えるくらいの震える声。
 なんというかこう言う時は楓を最後まで面倒を見ろと言われるだろうと思ったが、そこは良くも悪くも伯父さんの息子と言うべきか、逆に鼻で笑ってしまいたくなる。
「何で、もっと金寄越せって言ってくれないんだよ。言ってくれれば隆達三人に見切りをつけてさっぱりと縁が切れると思ったのに、何でお前達は伯父さんみたいにお人よしなんだよ……」
 本音が零れ落ちてしまった。
 縁を切ったと言うのに、俺の事なんて金ずるとして憎んで恨んで忘れればいいのにと思うも隆と元は息を詰める様な呼吸の後に
『ずっとお前が苦しんでるのを見てきたからな。それにお前地味に母さんから嫌味言われてたの俺達知って…… 一言も母さんに言えなくって、本当に今まですまない』
『それに俺達は凄く綾人に恩があるから。今俺達がこのレベルの生活が出来るのも、母さんが悪い事をしてるのに綾人に文句を言うなんて非常識な事を考えないように道徳を教えてくれた綾人の教育が今もちゃんと生きてるからだろ?
 だから俺達の事はもう心配してくれなくていい。ここから先は俺達親子の問題だから。間違っても母さんには綾人に一切の文句は言わせないから』
 どこか涙ぐむ声と共に年上なのに何も知らなくて本当に情けないと呟く隆の声が聞こえてきたがそこは聞こえないふりをしておく。
 そんな声が聞こえただけで十分だからとなるべく俺はあかるい声を出すようにして
「週末には帰るんだろ?
 雪が解け始めたとはいえ気を付けて帰れよ」
『ああ、ありがとう。
 母さんの事も、直ぐには反省しないだろうけど、必ずいつかは返せるように頑張るから』
「それはいいよ。俺がしたいと思っただけなんだから。 
 少なくともこの七年俺にとって伯父さん達があの人の面倒見てくれたから何とかここまで立ち直れたんだから。それについては一番迷惑がかかった隆と元と楓が考える事じゃなくって、ただの俺の気持ちの落としどころなだけだから」
 これ以上優しくしてくれるなと言う様に突っぱねるも
『だったらここから先は俺達の気が済む様にさせてもらう』
『それなら綾人にだって文句は言わせないからな』
 なんて物騒な言葉が聞こえてきた。
「まぁ、自分優先でほどほどにしろよ」
 折角なので俺の初めての教え子の優しさは気持ち程度に受け取る事にする。
 そこはわりと仲良く遊んだ思い出があるだけにここから先は期待せずにと言う事でぼやかしておく。曖昧文化の素敵な所で落とし穴だと言うのは判っているが、この件については伯母さんへの嫌がらせなので目的を果たした俺としては法事の時にこっち来た時は山まで顔を出せと言ってスマホを切るのだった。
 待ち受け画面がブラックアウトした所で腹の底から息を吐き出すように呟く。
「一度質を上げた生活に慣れた奴が質を落とす事って本当にできると思ってるのか?」
 何て昏い笑みを浮かべる。
 俺もフランスのバカ買いした後は衝動的に買い物をしたくなって、それを落ち着けるのに理性を総動員させて何もない山に籠ってその衝動をやり過ごしていたが
「さて、次に話を聞く時はどんな話題になってるのかな?」
 何てワクワクしていたのもつかの間、初盆の時にまさかの伯母さんが何件かの消費者金融に手を出して既に離婚していたなんてさすがにびっくりな展開には想像以上のスピードで驚きを隠せれなかったが、こんなもんだろうと言う予定通りの結末にこの件に関しては終了と綾人は記憶の奥に追いやり忘れる事にするのだった。

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