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たまには色々と仕掛けをしておこうと思います 6

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 あの後すぐに圭斗に連絡を入れての次の日。
 圭斗の家の広い庭には長谷川さんの所の一団の車がみっちりと止まっていた。
 いや、圭斗と岡野さんと俺の車合わせた十台を止める事の出来る庭はもはや駐車場と言っても良いだろう。
 寧ろこの狭い町の狭い庭の皆様から見たら涎が出るような広さはぜひ駐車場として貸し出しをお願いしたい物かもしれないが、仕事として資材を置いたりこうやって応援に来た人の車を止める為の場所でもあるので駐車場に変える事はない。
 たとえ収入うまーと思っても月五千円だとしてもたかだか五万円。整備費とかトラブルを考えたらその程度ならお断りだ。
 たとえ街中の駐車場が美味くてもだ。
 とりあえず俺は朝一で山に乗り込むための道の入り口周辺の草刈りをした。
 都市部の国道とは違い田舎の国道沿いには車を止める事は当然できないので入り口付近にある空き地の草刈りをして車を止めるスペースを確保する。 
 もともと除雪用に切り開かれたと言う場所だが、今では生い茂る雑草の住処となっていたので雪に多い潰されて出来た場所を何とか車が止めれる、もしくは交通の邪魔にならないようにと言うスペースだけは確保しておいた。もう少し上に上がれば広い場所もあるのだが、左折渋滞させるわけにはいかない、そんな配慮の土地を有効活用する為と言う場所を本来の使命を取り戻させるだけの仕事だ。
「吉野の、朝から一仕事はありがたいが……」
 十月ももう終わろうとしているこの季節なのに半袖と短パンで転がる理由はウインドブレーカーを着てせっせと仕事をしていたのが理由の総て。
「さすがに暑い」
「いや、あそこを刈って来たのは助かるが……」
 圭斗の家の外縁に寝転んでしまうのは想像以上にジャングル化していたからだろうか。
 先日見た時にでさえうわーと思っていたのにそれが天下の国道沿いだなんて、トラックの排気ガスにさえ負けないセイタカアワダチソウは綾人の背よりも充分高く、花は種を付けて一番面倒な状態。今も凛が綾人の頭にくっついた種を楽しそうに摘まんでは地面にぽいっと捨てている。とは言え数回繰り返した所で飽きたのか実桜さんに手を洗ってもらって綾人の隣で朝ごはんのおにぎりを食べ、指に付いた米粒を綾人の頭にこすり付けていた。
 実桜はさすがに慌てて止めて丁寧に米粒を外したが、周囲は子供の悪意なき行動に笑いが止まらないうちに約束の時間となった。
 ぐったりとしていた綾人だったが圭斗からお茶を貰って水分補給をする。萎れた花に水を与えましょう、ではないが何とか立ち上がって
「とりあえず乗り込めるように入り口だけ確保してきました」
 そう言う綾人の軽トラにはゴミ袋を貫通させた草木の枝が詰まった袋が何十も山になっていた。落とさないように一応幌を付けてきたので後ろのめくられたカーテンから見える景色に誰ともなく拍手を披露する。そしてそんな所にこれからいくのかと顔を引き攣らせながら
「先日上って行った時は岩は落ちてないけど土砂が流れて来てるし、落ち葉ですべるしで倒木も目立ちました。
 入口から少し上った所に広場があるのでまずはそこを拠点としてブロワーで谷底に落ち葉や土何かを落して行きたいと思います。
 そこに半分の人を置いて残りの半分は上の畑の所まで上がります。
 実桜さんは早速樹の手入れに入ってください」
「準備出来てます!」
 フランスで見慣れたガッツリ仕事スタイルは周囲の男性と並んでも違和感のないワーク●ンブランドで揃えている。
 まあ、女性の店で売ってはないだろうからねと問題なしと頷き
「園芸部!じゃなくって遠藤さん!」
「もう園芸部で良いよ!」
 あまりにそう呼び続けてしまった為に定着してしまったあだ名に長谷川さん達も大爆笑。
「じゃあご厚意に甘えさせてもらって、園芸部もこの面子の中で剪定とか詳しい方だから実桜さんについて剪定の仕方を学んでちゃっちゃと切っちゃってください」
「説明雑っ!」
 笑う園芸部だが目はきらきらと輝いていた。
「あと上の方はあんまり車を止める場所が不確定なので健太郎さんと圭斗、宮下、蒼さんは俺と一緒に上に行くからよいっちゃんは下の広場の所で草刈りと掃除の指揮お願いしまーす」
「吉野の!誰がよいっちゃんだ!」
 周囲の失笑に
「長沢さんと内田さんが何時もよいっちゃんって言ってるから」
 ついうっかりと言う様に言えばあいつらと言う顔はそれほど怒ってはない。むしろ少しだけ恥かしそうで微笑ましいと見守りながら
「あと季節がら水野さんが猟友会の人達と一緒に見回りに来てくれます。この時期熊とかがエサを求めてだいぶ下まで降りて来るらしいので皆さん気を付けてください。決してチェーンソーで追いかけたりといった危ない真似は控えてください」
 誰もやらねーって!何て長谷川さんの所の若い衆は笑うも
「綾人も斧とか鉈で熊に襲いかかっちゃだめだよ」
「人里に下りてゴミをあさる熊の方が美味いと言う検証を……」
「やらない!」
 宮下は人に注意を促す前に自分を顧みましょうと言う忠告はさっきまで笑っていた若い衆の人達も黙らす謎の力があった。なぜだ?
 まあ、とりあえずそこは置いといて
「では、現地ではなるべく国道を通行する方達の邪魔にならないようにここで別れましょう」
 そんな提案。
「じゃあ親父、俺達山頂組は先行かせてもらうぞ!」
「おう、先行け!落石と落ち葉に注意しろよ」
「野田!オヤジの面倒頼んだぞ!」
「っす!ぎっくり腰には気を付けさせます!」
 なんて挨拶の合間に蒼さん達に軽トラからゴミを下ろして貰って機材だけになった荷台の幌の紐をしっかりと固定して実桜さん達はこっちに来て直ぐに見つけた保育園に運よく凛ちゃんを預ける事が出来て、そちらに寄ってからくると言う手はずになっている。
 さてやるか!
 何て気合を入れても邪魔と言う物はつきもので……

 プップー!!!
 クラクションを響かせながら国道で渋滞を作る羽目となった。

「すんませーん、ここ私有地です。トラックの休憩所ではありません。
 この先二キロほどに路肩帯があるので移動お願いします!」
「マジか!直ぐ移動しますっ!!!」
 珍しく草を刈り、現われた木陰となった休憩しやすそうなトラックを停めれる場所にはいつの間にか二台のトラックが山道の入り口をふさぐような形で停まっていた。
 綾人がここを離れてものの十数分の出来事だったが
「なんか草刈らなかった理由分かったかも」
「綾人、それは違うから」
 単に放置しただけだろうと圭斗がしっかりと注意を促すその横で通り過ぎるトラックがこちらをちらりと見る様子を見ていた健太郎さんが何かを察知してか
「ここにもうちのトラック置いておこう。山から下りようとして塞がれたらたまったもんじゃない」
「確かに」
 盛大に頷けば健太郎さんはトラックの荷台から三角コーンをバーで繋げて進入禁止と言う様に出入り口の確保をしてくれるのだった。

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