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年齢通りの楽しみ方 2

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 色々な出し物、発表、それを達弥と陸斗に見せながら何れ大学に進む時のイメージを植え付けて置く。今はお客様だけど何れは店側に回る事を見せてぼんやりとやりたい事、やってみたい事のストックを一つでも増やそうと広い校内を回る。
 だけどそう言うのは大体食べたい物を食べ終えて、俺の目的の大学の教科書を古本でいくつか見繕って満足すれば
「帰るか」
「お前は団体行動を何だと思ってる」
 先生のチョップが脳天に突き刺さった。
「お前の買い物や買い食いに付き合って来たわけじゃないだろう」
「えー、見る物も見たじゃん。それにせっかく先生の家の近くまで来たんだから先生の汚部屋の発酵具合見てみたいしー」
 怖いもの見たさは癖になる。ではないが、実家暮らしならどんなレベルか確認はしてみたい。散々掃除させられた上島ブラザーズは止めてくれと言いたい顔をしていたが
「そこは大丈夫。実家暮らしの良い所でお袋がゴミを回収してくれてるから」
「三十過ぎて母親頼み、こんな教師に学ぶ事は何ぞ……」
「黙れ。お袋だって働き甲斐があるって洗濯物を投げつけてくるぐらいだからいい勝負だ」
「自分の洗濯物なら文句はないだろ。脱皮したばかりの物なんだし?」
「実家暮らしサイコー。見合いさえすすめられなければなおサイコー」
「うわー、もういっその事適当な所で手を売ったら?」
「ググれば事故物件の相手に奉仕する謂れはねえ」
「つか、すげー事故率の高さだな」
 まともな人は自力で結婚して行くからこその残り物と言うのだろう。逆に言えば先生もかなり難有物件と言うのを俺達は黙っておくが
「まぁ、春になれば実家から脱出できるから問題ないし」
 その為の転職かと思わず無言になってしまうも先生は二つ折りされたチジミを食べながら
「今更結婚に夢も希望もないし、こんな俺の遺伝子を引き継ぐ子供なんてかわいそうでしかない。
 ゴミの中に暮し、ゴミの中で育って、ゴミを育てて行く。そんな俺のクローンお前らどう思う?」
「ぜひ働き者の伴侶を見つけてください」
「いやよ。掃除洗濯の為に迎える奥さん何て可哀想でしょうがないじゃないの」
「つまり俺達はどうでもいいんだ……」
 少しだけ寂しそうな達弥に先生は笑い
「健全、健康な遊びだと思えば真っ直ぐ先生なりの教育だ」
 あまりにも堂々と言う先生にあっけにとられて言葉もなく口に入れた食事を噛みしめてしまう。もう何だか味も判らないよとあまりに開き直った言葉に少しだけ塩味が強くなったような気がしたがそれは気のせいだと
「綾さん、翔さん!皆さんとご一緒に焼きたてのチヂミ是非食べてください!」
 お借りしているスペースの、颯太の友人が差し出してくれたまだ湯気の立ち昇るチチヂミにふーふー息を吹き付けて食べる。
「んまー!
 そうだ、こんど飯田さんに作ってもらおう!
 リクエストしておけば食べ歩きと練習してくるだろうから絶対おいしい奴食べれると思うんだ!」
「よし、その時はうちで焼こうって言っておいてくれ」
「じゃあ、せんせーの分は冷凍して取っておいてくれればいいから……」
「陸斗楽しみだな。余った分はレンジで温めればいつでも食べれるしな」
「ええと、はい」
 素直にそう言っていいのか判らないけどと言う様にちらちらと先生の顔を見るも、もうこれ以上は見れないと言うように視線をそらせてしまう。
 ずびっ……
 ぐすっ、ずびっ……
 何て何だか湿っぽい音の音源を見ないようにチヂミを食べる。
 たとえその水音に周囲の視線がちらちらとこちらに向けられたとしても俺は気にしないと言うように焼きたてのチヂミを紙のトレイに置いたままモグモグと食べる。
「うまー!もっちもちの生地も良いけどチヂミに居れる野菜ってこんなに自由で良いんだ」
「好きな野菜をなんだって入れちゃってください。イカとか海産物もイケます」
「よし、飯田さんに相談だ!」
 この時間ならもう起きているはずとポチポチ文字を打って送信すればすぐに返信が来た。
『チヂミ焼くなら鉄板焼きで他にもいろいろ焼きましょう」
 そんな返信にガッツポーズしながら
「よろしくお願いします!」
 声まで聞こえるわけではないのに気合を入れての送信は土地柄別に夏になるとよく放送するアニメを真似したわけではない。
「あー、そうだ。牡蠣そろそろ美味しい季節だよな。宮下、また適当に見繕ってくれる?」
「ごめん。なんだか今綾人のリクエストに応えれないかも……」
「ずびっ」
「無念」
 言いながらも宮下を見ないようにしながら速攻であきらめた。
 見なくても判る。
 今宮下は先生と言うあなたの知らない世界の生き物を背負っているのだろう。
 いやあぁぁぁ……なんて悲鳴ぐらいで済むのなら問題ないし、先生のウザさを思えれば今回の牡蠣は諦めよう。
「いや綾人、宮下を助けてやれよ」
「助けたいのはやまやまだけど、先生の世話誰が見るんだよ」
 介護じゃねーんだぞと言えば圭斗は仕方なしにポチポチとスマホを操作。何をしてらっしゃる何て警戒するも
「飯田さんに先生様にいくつか作ってくださいってお願いしたから。
 さすがに宮下が可愛そうだからって引き受けてくれたぞ」 
 飯田さん優しいなあと振り向けばしっかりと背中からがっちりとホールドをされて逃さないように、そして脅迫する様に鼻水が垂れかけていて、必死になって逃げようとする宮下だが不思議な事に逃げられない必死になって先生を引きずっても分離できないと言う謎の粘着具合。
「判った。先生の分はちゃんと冷凍庫で保管しておくから宮下を離してやれ」
「絶対だな。うっかり食べちゃったとか言わないよな」
「食べないよ。来るまで来たからビール飲みながら食べれない無念は理解してるつもりだから。
 家で囲炉裏に鉄板置いてゆっくり解凍させながらビールを飲もうな」
「さっすが綾人話が分かる!」
 怨霊の如く宮下の背中に張り付いていた手をほどき安心と言う顔を隠さずに宮下に恨めしと言う視線でもめげずに陸斗と達弥にしっかり食べろよと世話を焼く教師を眺めながら隣のブースで売っていたクレープの生地だけ購入して焼きそばをクルリと巻いて食べた。
「お前、ほんと自由だな」
「焼きそばパンがあるからイケると思ったんだ。生地がちょっと甘いけど悪くはない」
 クレープの生地を焼く甘い香りと生クリームやカットフルーツの酸味何て全く関係ないと言うご飯クレープにしっかりとチョコバナナのクレープを堪能する陸斗はそんな食べ方もあるのと言うような発見に目を見開いていた。
「陸斗、クレープなんて何をまいても良いんだぞ。
 昔飯田さんに蕎麦生地のクレープ、ガレットって言ったかな。それは山盛りのサラダに生ハムとチーズをまいて美味しかった。そうだな」
 そして俺はまたポチポチとスマホに文字を打って
「飯田さん。新蕎麦の季節なので蕎麦粉で作ったガレットをよろしくお願いします!」
『そこは新蕎麦を素直に食べましょう!』
 何て秒で返って来たお返事に誰もがぷっと噴出すそんな平和な昼下がり。
「さすがにもう食いきれねえ!」
「ほんとにね!綾人に付き合ったらお腹がいっぱいで動けなくなっちゃうよ!」
「あー、綾っち。お土産用に焼けって言われた奴できたよー」
「綾人よ、お前はまだ食べるつもりだったのか……」
 お好み焼きとももんじゃとも違うこの食感、おやつには最高じゃん?」
「おやつかよ……」
 呆れる颯太に俺は笑いながら
「じゃあ、ぼちぼち帰るわ。気が向いたら冬休み家に来い。雪かきやらせてやるぞ?」
「あー、すみません。冬休みはいろいろ免許取りに行きたいのでちょっと厳しいです」
「ふむ、それなら仕方がない。植田、水野コンビが捕まえれば良いかな」
 考えればちらちらと圭斗が俺に視線を送れば
「綾人、そう言った事は圭斗が任せろって言ってるよ」
 何て宮下が代弁。
 気配りできる奴は持てるはずなのにね、なんて年齢イコール彼女いない歴の宮下を考えると何で女って生き物は見る目がないんだかと飽きれてしまう。
 だけどそれはそれで面白いから黙って見守る事に決めて
「そんじゃ暗くなる前に帰りますか」
 片道約二時間の小旅行。時間はまだまだ昼過ぎだが山間の薄暗い町では帰る頃には十分暗いと思う時間。
「おう、気を付けて帰れよ」
「先生も達弥をよろしくお願いします」
「なに、ちゃんと寮の門限前には帰すさ」
 寧ろどこに寄り道する距離があると言う物か。陸斗は達弥と二人で冷えてしまったたこ焼きを懸命に頬張るも二人して幸せそうな顔を隠せずにはいられなく、何故かチヂミを焼いていたはずの颯太の同級生達にジュースを買ってもらうと言う羨ましい目に会っていた。
「なら春には一度顔を見せに来いよ」
「うっす。春にはまた草刈り要因として稼がせてもらいます!」
 そんな元気な挨拶に俺は目的だった本を担いで幸せいっぱいなお腹も抱えて駐車場で先生と達弥と別れるのだった。

 幸せがあれば不幸せが平等にあると言う事をすっかりと忘れて……

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