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踏み出す為の 8

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 綾人はオリオールと飯田をテーブルを囲んでタブレットとパソコンを覗きながら資料一覧を眺めていた。
「これが動画収入一覧で、店の収入一覧。
 弁護士のエドガーと話をしてこの動画収入から借金の返済をこれだけ貰って、残りが店の営業資金と従業員の給料、動画収入の残りが生活費になる。
 オリヴィエの動画収入から一割が城の音楽室の使用料として城の維持費の一部に充てられるけど、そこはまだ必要ないから将来の補修のための貯蓄に回す。そしてこの金額は店が軌道に乗る為の俺の店への投資金。いい感じに回っているからオープンして一ヶ月、足りない物をこの金額から買ってもらって構わない」
 そんな内容のやり取りを飯田は横で聞きながらオリオールとは言えほとんど利益のない店の経営状況に驚きつつも、綾人とオリオールはこんなものかという様に話しを交わしていた。
「正直週三日ランチのみと言う経営は趣味の延長上としての収入程度にしかならない。
 だけど今は一度地にまで落ちたオリオールの名前の回復の期間。
 打ち上げの日みたいなファンにまたこんな僻地まで足を運んで貰う為の時間だ。
 俺の読みなら経営から切り離したオリオールに料理に集中してもらえばそこは安心しても問題ないと思うし、正直俺はオリオールの店の売り上げは期待してない。前にも言ったと思うがオリオールの腕がどうのとかじゃなくって、ここに店を構えてオリオールに切り盛りしてもらってるのは総てオリヴィエの為にある。バイオリンしかないオリヴィエは生きて行く為の一番重要な事が一番欠けている子だから。作る喜び、食べる楽しみ、喜んで食事をする景色。それが日々くりかえされる人の営みをあの感性豊かな子にみせつけたいんだ」
「ああ、判ってる。
 オリヴィエが食に興味を持てないのは誰もが当然のように知ってるような野菜の名前も知らない所からうかがい知れたから。寂しい子だ」
 育った環境伺いしれればこの広い城に住む同居人の世話を焼かずにはいられないらしく、レストランがない日もリヴェットやオラスが城に来ては城の裏にある畑の世話を一緒にしたり、馬小屋の秘密基地でこっそり作曲活動をするのを見守るお年寄り集団に囲まれる日々はオリヴィエの糧となって随分と表現豊かな顔を見せるようになった。それは屋根裏の音楽室の動画でも判るように、そしてその動画に一日の一コマを入れるようになって見せる人間味に心の成長が微笑ましいまでに喜ばしい。
 驚くべきはその編集をデューリー氏がしていると言う事実。
 出来る男は何をやらせても出来ると言う素晴らしさにオリオールの動画も実は任せていたりする。ちゃんと社長さんを経由して依頼をして受理された理由は元々有能なデューリー氏をオリヴィエのマネージャーで遊ばせるのはもったいないと言う言葉。そして月契約とは言え決して安くない金額だけど何より洗礼されたセンスが二人の美的センスとマッチして、下手な映像も美しく見せる有能過ぎる技術はそれでもその任務を与えられてから学んだ程度だと言う。オリヴィエの動画から報酬も出ているらしく、社長秘書から下がった給料を取り戻すぐらいには貰えているらしく、そこにオリオールの動画編集と言う収入も追加されて彼はかなりやる気になっているらしい。
 何よりオリヴィエの動画が美しいと話題になってオリヴィエ自体も名声を取り戻して人気もうなぎのぼり、そして母親との一件もあり年齢の割にはやんちゃやイキがった事はしない取り扱いやすさに二人はいい関係になっていると言う。
 オリオールと俺との間にあるオリヴィエの食事問題が共通である事を確認できれば今見た資料をプリントアウトして買い物した領収書をもらい、渡したレストラン用のカードで支払えなかった現金購入した時の領収書をパソコンに打ち込んで正確な金額を出せば
「おめでとう。売り上げは経費を抜けば残りはこれだけになった」
 くるりとタブレットに見せた金額にオリオールは純粋にうれしかったらしく隣にいた飯田さんを抱きしめて
「これでみんなに給料が支払える!」
 六人分の給料になるのだが、昼の数時間と週三日と言う内容なら十分な金額が支払える物だ。
「エドガーが作った給料形態に沿っての給金の支払いをして、残りは貯金に回す。いずれどこか不具合が出た時の為の修繕費は必須だから」
「ああ、これは嬉しい報告がみんなに出来る」
 オリオール落ち着いて!何て飯田さんが喚くのもお構いなしにオリオールは飯田さんを抱きしめている様子が微笑ましくって見守ってしまうのは飯田さんをこうやって抱きしめる人間が数少ないからだろうと想像しての物。
 暫くの間オリオールが落ち着くのをまって
「じゃあ、明日のジョルジュの来店は問題ないですね」
 言えばオリオールは飯田さんを解放し
「ああ、病人に優しいメニューを考案している。かといって病人を意識しすぎない内容だ。
 だがそこにオリヴィエを混ぜなくて本当に良いのかい?」
 一緒に食べる事ほど記念になるのではないのかと問う視線に
「オリヴィエとの食事はまた別の時にだ。
 今回はジョルジュと俺と少し腹を割って食べなくてはいけないから。
 決して楽しい食事会にならないと思うから、そこはオリオールに申し訳ないと思ってる」
「なに、時にはそう言う場も必要だって事だ」
 俺よりも人生経験豊富なオリオールの言葉に助けられながら
「マイヤーも同席する。飯田さんは悪いけど別室待機だから」
「ええ、給仕は手伝わせてもらうので一緒のテーブルに着く事はありません」
 だけど側で見守らせてもらいますと言う主張にはよろしくお願いしますと言う様に頭を下げるのだった。



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