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さあ、始めようじゃないか 10

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 背後で高校生達が勉強する音を聞きながらどんどん作られていく小屋を眺める。
 高校生達は迫る中間テスト対策でたむろっているだけだから今更気にする気にはならない。既に北部の奴らも合せて対策の問題は渡してあるのでむしろお前ら他にやる事はないのかと高校時代学校の勉強は一切しなかった綾人に心配されたくない。
 飯田はさすがに起きて圭斗の家の晩ご飯を軽く作っていた。昼間のカレーはすべて食べつくしたので豚汁を用意していた。当たり前だがもちろん肉は猪だ。
 猪を家畜化されて豚になった遥か昔。
 美味しく頂かれる為の安全・安定供給を兼ねての改良は勿論もとの猪もおいしく頂かれる運命は今も変らない。
 しっかりと野菜ももって来て煮物も大量に作っていた。これで二日分ぐらいは余裕で持つなと俺と一緒に食べる時は二人共しっかりと食べてるけど、普段の食事は驚くほど少ない。これは葉山と下田に言って調べさせているので裏は取れている。
 なのでこうやって食事をしっかりとらせるのは主に成長期の陸斗の為。高校二年になってやっと成長期を迎えた陸斗は元々細っこいのにさらに細くなっていた。夏前まではやっとふっくらして来たのにと思っていたのにフランスで別れてちょっと会わなかっただけなのに視線が俺とほぼ同じになっていた。
 解せん。
 圭斗がでかいからって陸斗まででかくならなくていい。
 いつもみたいにひよこの如く後ろからついて来て下から見上げる視線はどうしたと気づいた時目尻にちょびっと涙が溜まってしまったけどだ。
 あまりの急成長ぶりに細っこくなるのは仕方がない。だけどそれとは別に急激に成長をする身体に栄養は必要だ。多少無理してでも食べさせないといけないし、こんな時にダイエット何て必要はない。
 そんな所に便利アイテム「宮下君~」を捕獲したのだ。
 頭が軽いせいか(かなり失礼)こいつも急激に背が伸びたよなと高校一年の時にバスで初めて顔を見た時は確かに俺の方がでかかったはずなのに、まったくどいつもこいつもにょきにょきとでかくなりやがって。
 そんなにでかくなりたいのなら横にもでかくしてやろう。
 密かにみんなコロコロになっちゃえ計画を実行してるが残念な事にどいつもこいつもその摂取カロリーを消費する職場の人間。むしろいい感じに筋肉ついてません?な俺にとっては理不尽の結果を作り出していた。
「飯田さん、煮物ついでに角煮も作っては?」
「一緒に煮てますよ。やっぱりお肉を入れると旨みもましますからね」
 デブ飯の基本、単品でもどんぶりでも何しても美味い猪のバラ肉で作る角煮は八角もちゃんと入れてくれる美味しい奴。
「これがあるとちょっと高級感ありますよね」
「ウイキョウと共に好き嫌いが分かれますが綾人さんはいけますか?」
「一度育てようかと思ったけどここじゃ寒くて無理な事が分って生姜同様諦めたシリーズ」
「日本でも育ちますが、使用方法はご仏前に飾る物なので普通に買いましょう」
「確かシキミ属って有毒種が多いんだよね。うん。ウコ達が食べたら大変だよね」
 そう言って自分を納得させる。まぁ、八角なんて単体でなんて食べるもんじゃないし、小山さんからスターアニスを入れたチャイも美味しいと進められたけど未だ作ってもらった事ないから正解が分らない。と言うか作りに来いと声を大にして言いたいけど、相変わらず忙しそうなので代わりに飯田さんに作ってもらって美味しかったと報告して悔しがらせる刑に処する事を俺は決めた。
 因みに凛ちゃんも目を覚まして今は陸斗の胡坐をかいた膝に座ってお気に入りの熊さんをはむはむしながらご機嫌に皆さんの勉強の邪魔をしている。あまりにも微笑ましい光景過ぎて録画をする俺。将来お嫁さんに行く時に持たせてあげようと作ったビデオアルバムはSDカード八枚ケースをお買い上げするレベル。将来子供が産まれた時のお役にたてればと、まだおむつも取れない凛ちゃんにどこまで未来を見るんだと突っ込まれそうなので黙っているが…… 将来キモいとか言われたら本望だ。
 それはさておき俺は「ちょっと向こうの様子見てくる」と言ってしっかりと靴を履いて工事現場に突入。屋根も張れて今は誰も屋根の上には上がって無く室内に集まっていた。
 当然ながら密度の上がった人口はそれなりにむさくるしい光景だがそれを全く感じさせないのは皆さん仕事を見つけて色々な所に散って協力的な作業をしていたからだ。
「って言うか圭斗、蒼さんまで何やってんの」
 手にしているのは工具ではなく、工具だけどドライバーとか言った
「配線工事だよ。ほら、古い家って電気とかスイッチとか極端に少ないだろ?だから増設してる所」
 ちゃんと第二種電気工事士の資格が活躍していた。
 未だ試験に通って実践する所までたどり着いてない蒼さんに指導しながら自分の家の配線覚えろと誰に似たのかスパルタ仕様の圭斗に見守られながら、時々森下さんもチェックしに来る辺り本当に良い人だと思う。
 台所回り、テレビを置く回り、家電を置く場所から家具の配置を想定しての増設や移動は実桜さんへの愛情が溢れてるなと微笑ましく思う横で、少し拗ねたような…… 違う。
 歯を食いしばるかのように悔しげな顔が目の前の仕事に集中するかのように耐えている顔があった。
 まあ、そうなるわなと浩太さんを呼んでちょっと連れ出すからここよろしくお願いしますと頭を下げれば、少なからずとも理解してくれている浩太さんはゆっくりしておいでと肩に手を置いてから促してくれた。

「宮下、ちょっと来い」

 ええ?それでいいの?!
 浩太さんの驚きに周囲の視線を集めるも、俺を見て顔を引きつらせる宮下に逃げ場はないというように腕を掴んで外に連れ出し、圭斗の家にある宮下の部屋に潜り込んだ。


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