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さあ、始めようじゃないか 6

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「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「飯田さん、おはようございます。
 今日も早いですね」
 うっすらと明るくもない空の下をいつものように飯田さんはやってきた。
 こーっこっこっこっこ……
 野鳥の活動時間前に小屋を解放して家の中からこぼれ落ちる灯りを頼りに自由を求めて雑草を啄む烏骨鶏達の大半は小屋から出れずに止まり木で身を寄せ合っている。
 卵を産もうかと産卵箱で待機しているのもいれば、藁を集めた巣の中でモゾモゾとしているのもいる変わらない朝の烏骨鶏からの卵はまだない。だけど相変わらず足元に擦り寄って「なんか美味しいものない~?」なんて言わんばかりに見上げてくる視線に勝てる見込みはなく、乾燥ミルワームを入れたクッキーの缶からひとつかみを庭にばら撒くのだった。
 思わず飯田さんのシャツで手のひらを拭ってしまう俺に無言で何かを訴えてくるも
「実はさー、西野さん倒れて宮下が帰ってきて岡野夫妻が圭斗の所に就職して住み込みで働くことになって株式会社を立ち上げることになったんだー」
 膨大な情報を与えてミルワームのカスがついた手を拭ったことなんて些細なことだというように頭をパンクさせる。
 案の定「は?」なんていう顔をしてフリーズしていたけど
「とりあえずご飯の準備させてください。ご飯食べながらもう一度話を聞かせて下さい」
「りょーかい。お風呂冷めてるかもしれないから少し暖めてくるね」
 飯田さんの物事の整理の仕方はまず料理をしながら頭を日常の生活に持っていって考える癖がある。料理中だと料理が一番だから他所ごとは無駄なことを一切削ぎ落として考えるからシンプルに答えが出ると言うそうだ。
 実にめんどくさい工程ですねといえば俺が二進数に分解して考えるよりよっぽど建設的だと、確かに出来上がる料理が美味しいので確かにと納得するしかない。
 少し明るくなった世界で泥がついた野菜をカゴにこんもりと盛って、山水で洗い流す。
 そのまま無言で竃に火を入れてご飯の準備をする。
 俺はその背中を眺めながらお茶を飲む。こうなると竃に近づけれないからやることは無い。いや、やる気とはいっぱいあるけどやっと明るくなり出した世界。ご飯を食べないと頭も働き出さない。
 仕方がない。
 ここは一つご飯を食べて、体があたたまるまでじっくりと待機するしかないと忙しく働く飯田さんの背中を見守る。
「何か手伝います?」
 聞くも
「食器を用意してください。
 後はお茶の用意をお願いします」
 既にバアちゃんのお酒は飲み干してしまった。
 代わりに漬けたお酒はまだ飲み頃には程遠く、熟成というマテの期間。俺が漬けたのもいつの間にかなくなっていて……
 何やら隣に食料を取りに行ったと思えば持ってきたのはスーパーでもお馴染みリカーの瓶。
「宮下君のお母さんが作った梅酒をいただきましょうか」
「飯田さん、どういう経路での入手ですか?」
 これは聞かずにはいられないと言えば
「大和君が床下倉庫に眠っているやつをくれました。作るだけ作って満足して飲まないからって。宮下君も飲まないそうだから処分してくださいっていただきました」
 ものすごくいい笑顔でお猪口に氷を一つ落として注いでいく。
 十数年ものになる手書きのラベルにこれは飲んでもいいものかと思うも香りはカビ臭く無く、ペロリとなめれば程よい甘味。
「あ、これどれだけでも飲めるやつだ」
 飯田さんもペロリと舐めて
「確かに。かなりまろやかになってますね」
 言いながらニンマリと笑う。
 後は炊き立てのご飯をお茶碗にこんもりと盛って、お味噌汁と温野菜サラダにポーチドエッグを添えて準備万端。
「さて」
 いただきますとはすぐに続かずに俺を見て
「話を聞かせて頂きましょう」
「ご飯は温かいうちに……」
 はしたなくもお箸の先を咥えながら我慢できませんというように訴えればどうしようもない人ですねというように視線が笑い
「食べながらでいいから順序立てて話してください」
「勿論です」
 そのうちまたきっと飯田さんは何かで巻き込まれる可能性もあるのだからと、まずは岡野夫妻の独立からの圭斗の会社設立の話しと西野さんの出来事、戻ってきた宮下の活用方法から吉野家の放置山林などこの数日間で起きた怒涛な出来事に頭で抱えたくなる話を肴に飯田さんのお酒を飲む手は止まらなかった。
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