人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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身体が動く季節なので皆さん働こうではないか 8

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「心に寄り添うって、俺が本当に寄りそっても良いと思う?」
 先生に聞けば渋面を作り
「とりあえず内容は後から検討するからベストと思う懸案を出せ」
 不安げに体を小さくする岡野夫妻にではなく圭斗に向かって
「圭斗、これはもっと先の未来に提案する事だったんだけど……」
「え?俺?何で……」
 不安げにどこか及び腰と言うより逃げ腰になってる圭斗に向かって
「会社を設立しろ。株式会社が理想だ。従業員はお前を筆頭に宮下、陸斗、香奈、それに岡野夫妻。上手く巻き込めれば浩太さん。成長を待って幸治が俺の中の理想だ」
「えー、その中に綾っちいないじゃないっすか」
 あげられた名前の当人たちの驚き何て無視するように園田が口を挟む。
 なかなかうまく緊張を散らす間合いが読めるようになったなと言う物の園田はそれなりにスマホ越しとは言え俺と密着した時間を共有していただけに話の腰を折らず空気を和ませてくれる。
 とは言っても本人は一生懸命当事者に時間を稼ぐ様に、固まった思考に代わって俺から情報を聞き出す顔は焦りながらも視線を離さない。
「俺がいないのは当然だろ。俺があくせく働く理由有るか?
 ありがたい事にバアちゃんが残してくれた畑と山、多少の利息と烏骨鶏の卵で暮すには十分な生活が出来る。
 僅かばかりの蓄えもあるし、住む場所は問題あるかもしれないが生活する分には問題ない。
 そんな俺が何で今更サラリー何てやる理由は?」
 単純な疑問に答える単純な答えは
「まあ、ないな」
 先生も納得するのは俺の資産の一部を知るからだろう。
 城を一括で買っている事を知る面々だけに金銭面で俺が困る事はない事を知ってるからこそ高卒水準の給金の仕事なんてするわけがない事を思いだす。
「これは本当なら宮下が修行先から帰って来たら提案する予定だったんだよ。
 個人経営大いに結構。だけど信頼問題とか国民年金より圧倒的に厚生年金の方が何れ、年金時代になった時圧倒的に優遇される。
 社会保険もあるけどそれなりの投資も必要になる。
 だけど俺達には沢村さんや樋口さんと言う強い味方というか、相談するに慣れた信頼ある人もいる。
 今は会社設立のハードルも下がって来たし、何より上手くやれば長谷川さんの所も取り込める」
「綾人よ、園芸部位しか来ないと思うぞ」
 先生の判断に俺は強く頷く。
「そう、正直言えばあのウザイじゃなくって園芸部が俺は欲しいんだ」
 は?なんて言う視線に
「蒼さんと実桜さんは知らないと思うけど、地元の工務店の従業員で遠藤って人だけどすっごい植物好きな人がいるんですよ」
 そんな説明にあの人園芸部って言われてるのかと川上達が時折家にやって来ては勝手にハーブ畑の手入れをしていく遠藤と名前がやっと一致したと言う様に唸っていた。
「たとえば二人がここに仕事を求めて移住したとする」
 言えば二人は居住まいを正して俺を正面に見る。
「蒼さんは圭斗と一緒に仕事をする。今は内田さんの所と仕事してるんだっけ?とりあえずそっちに集中しよう」
「え?あ、はい」
 慌てての返事を無視をして
「問題は実桜さん。一応無職になったけど、この状態だと失業保険何て何もないだろうからさっさと仕事をしなくちゃいけないわけだ」
「はい」
 生活の為に多少の蓄えはあれどそれまで。見た所ひと月あるかどうかのギリギリの所だろうと踏んで
「今更会社勤め何てスキルを磨く事は出来ないだろうし、時間給で決められたパートタイムじゃ凛ちゃんが高校生までは何とでもなるだろうけど、子供だってまた増えるかもしれない、もしくは離婚するしかない、そんなリスクを考えれば今持つスキルを最大限利用する方法を模索した」
 正直に言えばこんな形でと俺は呻いてしまう。
 これは俺にとっても十分リスクがあるかもしれない事なので園芸部だけなら話はする事のなかった話だ。
「実桜さんだったら聞いた事があるかもしれないけど、花を卸すつもりはないかな?」
「ええと、生花のですか?」
 キョトンとする彼女に俺もまだサラッとしか知らない分野なので顔を顰めながら
「どっちかって言うと花より桜とかそう言った物。生花市場に降ろす側だ」
「あー、はい。大丈夫です。わかります」
「園芸、とは少し離れるかもしれないけど、上手く花を咲かせてこの山の気候を上手く利用して少し季節外れでも出来るかなって?」
 難しいと言う顔だが
「やろうと思えばやります、ではなくやりたいです」
 背に腹は代えられないと言うか、他に選択がないのならと言うような意気込み。
「花の事についてどれだけ知ってる?」
「一応大学で学んだ程度には。ただ、ずっと庭師の仕事を続けていたのでそこは心配です」
 過去の教科書を思い出すような視線に俺も不安を覚える中
「いや、樹木は十分それなりに揃っている。後はどこまでできるかが問題なんだが……」
 言いながら周囲も俺の思考を邪魔しないようにずっと眺めていたけど俺はその説明の難しさに溜息を吐いてスマホを取り出す。
「上島さん、すみませんが午後は少し急用が入りましたので……はい、また声をかけても良いでしょうか?ありがとうございます」
 何て断りを入れてから
「昔の家の畑だけど、俺がまだ小学生の頃バアちゃんが花を卸してた覚えがあるんだ。桜とか、梅とか、雪柳とか猫柳とか」
「華道とか向けのお花ですね」
 ちんぷんかんぷんな高校生と圭斗を無視して頷く。
「畑と同様長い事見ないふりしてたからどうなってるか判らないが、管理して育てて卸して農家の仕事だけどしてみないか?」
 今までのスキルを台無しにするような選択。
 植物に関ると言う共通点しかない物のどうかと聞けば
「一度見せてもらってからお返事しても良いでしょうか?」
 安定した収入も欲しいが、とりあえず目先の収入が欲しいと言うように、喪女と言うべきシンプルなまでに手を入れてない姿とは違い、最愛の娘を育てる為にと決意をする母親の視線は何所までも真剣な目をしていた。



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