526 / 976
冬が来る前に 4
しおりを挟む
久しぶりの深山の家は賑やかだった。
純粋な賑やかさなら植田と水野、上島がいる方が騒々しかったかもしれない。
だけどそれはゲームによるバカ騒ぎなので中身はない。いや、ゲームをしている当事者にとって中身は十分あるのだろうが、かと言ってそれが自分の身を助ける何かになるわけではない。一時の瞬間的享楽にストレスが発散するだけで、寧ろ不発に終わればさらにストレスの積み重ねと言う無限ループが待っている。
全く持って不毛だ。
その点今回の夕食の場は……
「父さん、まだ仕込みあるんだからそんなにって、ああ、山川さんあまり飲ませないでください」
「いやいや、飯田君聞いてるよ?君はザルだっていうじゃないか。むしろ一度どれだけ飲めるか楽しみにしてたんだよ」
「明日の朝食と昼食があるので勘弁してください」
「まったくもお!薫ったら折角お呼ばれされたのなら甘えちゃいなさい」
絡み酒で定評がある飯田さんのお母さんは今日も絶好調だった。
誰よりも早いピッチで飲みまくって
「ほら母さんはそろそろ退場だよ。お酒好きなのはわかったけど明日に残るといけないから。既に一升近く飲んでるんだからここで終わりにしよう?」
飯田さんは横に空のコップと転がる一升びんの中に僅かに残る程度の空き瓶を見て顔を引き攣らせながら強制的に抱え上げて退場させる。
「キャー!息子にお姫様抱っこしてもらえる母の喜び!
小さい頃毎日してあげたのだからこれから毎日して良くてよ?!良くてよ!」
「はいはい、そうでしたね」
首にしっかりとしがみついて落さないでねーと、土間のを下りたり上がったりをハラハラしながら見るもワインの樽を担ぐ男は全く重さを感じない確かな足取りで台所横の部屋へと連れて行き敷いてある布団の上に転がした所で逃げるように部屋を飛び出してさっと襖を閉ざした。
夏は障子、冬は襖。
去年襖を張り替えてもらった時長沢さんが冬場にはこっちの方がいいと言って作ってもらった物をあっという間にやってくる冬に備えて昨日のうちに上島達に変えさせておいた。
光を通さず暗い物の、だけど不思議と障子より暖かく、離れの居住スペースにだんだん馴染が出来れば母屋の使用人部屋の特に二階なんて物置きとするには丁度よすぎるように座布団などをひとまとめにするのだった。
やがてお母さんの笑い声が聞こえなくなる頃、不運にもお母さんのお酌ですっかりペースを乱されてしまった森下さんを介抱しながら布団に運ぶよりすぐ隣に布団を敷いて転がした方が簡単だな、そうしようとなれば不思議な事にすでに井上さんが潜り込んで一瞬で眠りに落ちていた。
お布団取られて可哀想にと思うも森下さんの分も植田に敷かせて森下さんを転がしておく。手伝っていた山川さんはも一緒に自分の分を敷いて
「じゃあ、明日は早い予定なので先に休ませてもらいます」
囲炉裏の部屋で、囲炉裏の明かりを眺めながら眠ってしまった三人は会話の明るさからわからないくらい疲れてたのだろう。
何せ、ここは空気の薄い標高千七百メートル以上の場所だから。
慣れない人にはその違いに身体が休みを求めてしまうのは当然だ。俺だってそうだったようにと思いながらも飯田親子を見れば
「薫、そろそろ始めようか」
「はい、父さん」
皆さん寝静まったのを見計らったように動き出す二人は真っ直ぐ台所に向かい、まずはさっきまで食べていた食器を片づけていた。
案外二人が皆さんが寝静まってから作業にかからないと察して早く寝たのかと思えば納得のいく気遣いに
「綾人さん達も俺達に気を使わず先に寝てくださいね」
「はい、そうさせてもらいます。ですが、火の取り扱いにはご注意をお願いします」
「もちろんです」
あとは勝手知ったる他人の家の台所。少しずつ飯田さんが使いやすいよう居場所が変わっているのは当然知っていたけどそのままにして四年の年月をかけて作り上げた作業しやすいポジション。
今更困る事はないだろうと植田を連れて囲炉裏の火を落せば植田が俺を奥の部屋へと引っ張って行った。
何だ?と思いつつも裏庭を臨む部屋の縁側に置かれた机に植田はノートパソコンを置いて
「綾っち、お願いがあるんだけどプログラミング教えてください」
「綾っち言うな、って言うかセキュリティのプロになるつもりだったんじゃなかったのか?」
確かそんな志だったと思ったが
「最初はサイバーポリスとか憧れたんだけど、ほら、やっぱり俺ゲーム好きでしょ?
綾っちがゲームのプログラムぶっこ抜いて構成眺めていたの、あれ憧れててさ、だけど俺バカだからそんなの無理だって最初の段階で諦めてたんだけど……
綾っちが進めてくれた学校のコンクールでプログラミングのコンクールがあってさ、大賞は取れなかったけど佳作には選ばれたんだ。
何か嬉しくってさ、それにここでみんなが物を作り上げてきたの見てきたから。
畑違いだけど俺も何か物を作る方に進みたいんだ」
植田のくせになんという志だと感動してしまうけど
「学校的にはそれは問題ないのか?」
コースは別じゃないのかと思うも
「まだ一年の前期はそこまで分岐してないし、変更もきく期間なんだ。
最初は二年勉強するつもりだったけどじっくりやると楽しいって綾っちが進めてくれたから三年コースに変更に決めたから。学校の先生も今ならコースの変更がきくから少しでも違うと思ったら変えてみる方がこれから資格を取って行くに当たりモチベーションも上がるぞって言ってくれてさ」
何やら一生懸命説明しようとする植田が何時もの仲良しこよしの仲間から一人離れて来た理由に納得した。
どうやら俺に背中を押して欲しいって言う分けかと理解すれば
「だったらそれでも半年分勉強は遅れてると言う事だから。
お前んとこの学校のカリキュラムは一応調べてある。
あと一週間の滞在予定だったよな?だったらその間にどれだけ取り戻せるか強化合宿になるぞ」
「綾っちありがとう!」
「だから綾っち言うなって」
なんだかんだ挨拶のようにもなったやり取りに俺は植田を部屋に招き、高スペックのPCでノンストレスのサックサクの機動力を誇る俺の愛用のPCでレクチャーを始める。勿論植田はこれ使ってもいいの?って緊張していたけど、俺とのマンツーマンの勉強はそんな緊張なんてしてる暇もないスパルタ式。あっという間に基本動作の確認をして、まだ植田が知らない言語を説明しながらこの秋から習うだろPHPやJavaScriptなどをざっと教えておく。特にいわゆるJavaと略される奴は独学でも習得できるし、何よりwebサイトなどでもよく見かける為に馴染もあって受け入れやすいと俺は思う。ついでに簡単にHTMLも教えておく。この二つが理解できれば簡単なスマホアプリぐらい作れるようになるからプログラム作りの入門とするのならちょうどいいと簡単なレクチャーだけはしておく。実際には一晩じゃ覚えきれないからなと、ススキを刈ったら始めようと予定を立てておいた。
だが何を置いてもプログラミングに欠かせないのが英語力だ。簡単な単語だけど知っているのと知らないのでは別世界。そこは常に声に出して目と耳と口を使って覚えて行こうと呪文を呟く作業になる事に植田は意外にも抵抗がないようで
「何だか魔法使い見たいっすね!」
「言われたら謎の呪文でゲームが出来るんだから魔法だよな」
何て笑いあう物の実際にifの世界が始まれば頭の痛い問題も発生してこよう。
英語でもifを習う時混乱した人がいた様にだ。
二人してモニターを眺めながらのブラインドタッチで植田がどこまで学べるかチェックをしていれば
「何だか綾っちの家に初めて来てマンツーマンで勉強を教えてもらった頃を思い出しますね」
「綾っち言うな。
まあ、俺は先生みたいに器用じゃないから一人一人でしか教えてやれんからな。
だけどその分みっちり教え込んでやるから期待しろよ?」
「それはもう骨の髄までしみこんでますので覚悟してきました!」
あまりのいい返事に俺は笑いながら
「じゃあ、水野を切り離すつもりで教え込むぞ」
「OKっす!
むしろあいつ去年綾っちとみっちり勉強した分俺は遅れたんだから、今度は俺が先に行かせてもらう番でっす!」
「おお、ライバルって奴だな。
だがな、綾っちは言うな」
繰り返される合いの手のようなやり取り、なんだかんだこれを楽しいと思うくらい馴染ある言葉に変えてくれた植田に俺をこうやって弄る奴がいなかったからか少しだけ嬉しく思うのは絶対の秘密だ。
純粋な賑やかさなら植田と水野、上島がいる方が騒々しかったかもしれない。
だけどそれはゲームによるバカ騒ぎなので中身はない。いや、ゲームをしている当事者にとって中身は十分あるのだろうが、かと言ってそれが自分の身を助ける何かになるわけではない。一時の瞬間的享楽にストレスが発散するだけで、寧ろ不発に終わればさらにストレスの積み重ねと言う無限ループが待っている。
全く持って不毛だ。
その点今回の夕食の場は……
「父さん、まだ仕込みあるんだからそんなにって、ああ、山川さんあまり飲ませないでください」
「いやいや、飯田君聞いてるよ?君はザルだっていうじゃないか。むしろ一度どれだけ飲めるか楽しみにしてたんだよ」
「明日の朝食と昼食があるので勘弁してください」
「まったくもお!薫ったら折角お呼ばれされたのなら甘えちゃいなさい」
絡み酒で定評がある飯田さんのお母さんは今日も絶好調だった。
誰よりも早いピッチで飲みまくって
「ほら母さんはそろそろ退場だよ。お酒好きなのはわかったけど明日に残るといけないから。既に一升近く飲んでるんだからここで終わりにしよう?」
飯田さんは横に空のコップと転がる一升びんの中に僅かに残る程度の空き瓶を見て顔を引き攣らせながら強制的に抱え上げて退場させる。
「キャー!息子にお姫様抱っこしてもらえる母の喜び!
小さい頃毎日してあげたのだからこれから毎日して良くてよ?!良くてよ!」
「はいはい、そうでしたね」
首にしっかりとしがみついて落さないでねーと、土間のを下りたり上がったりをハラハラしながら見るもワインの樽を担ぐ男は全く重さを感じない確かな足取りで台所横の部屋へと連れて行き敷いてある布団の上に転がした所で逃げるように部屋を飛び出してさっと襖を閉ざした。
夏は障子、冬は襖。
去年襖を張り替えてもらった時長沢さんが冬場にはこっちの方がいいと言って作ってもらった物をあっという間にやってくる冬に備えて昨日のうちに上島達に変えさせておいた。
光を通さず暗い物の、だけど不思議と障子より暖かく、離れの居住スペースにだんだん馴染が出来れば母屋の使用人部屋の特に二階なんて物置きとするには丁度よすぎるように座布団などをひとまとめにするのだった。
やがてお母さんの笑い声が聞こえなくなる頃、不運にもお母さんのお酌ですっかりペースを乱されてしまった森下さんを介抱しながら布団に運ぶよりすぐ隣に布団を敷いて転がした方が簡単だな、そうしようとなれば不思議な事にすでに井上さんが潜り込んで一瞬で眠りに落ちていた。
お布団取られて可哀想にと思うも森下さんの分も植田に敷かせて森下さんを転がしておく。手伝っていた山川さんはも一緒に自分の分を敷いて
「じゃあ、明日は早い予定なので先に休ませてもらいます」
囲炉裏の部屋で、囲炉裏の明かりを眺めながら眠ってしまった三人は会話の明るさからわからないくらい疲れてたのだろう。
何せ、ここは空気の薄い標高千七百メートル以上の場所だから。
慣れない人にはその違いに身体が休みを求めてしまうのは当然だ。俺だってそうだったようにと思いながらも飯田親子を見れば
「薫、そろそろ始めようか」
「はい、父さん」
皆さん寝静まったのを見計らったように動き出す二人は真っ直ぐ台所に向かい、まずはさっきまで食べていた食器を片づけていた。
案外二人が皆さんが寝静まってから作業にかからないと察して早く寝たのかと思えば納得のいく気遣いに
「綾人さん達も俺達に気を使わず先に寝てくださいね」
「はい、そうさせてもらいます。ですが、火の取り扱いにはご注意をお願いします」
「もちろんです」
あとは勝手知ったる他人の家の台所。少しずつ飯田さんが使いやすいよう居場所が変わっているのは当然知っていたけどそのままにして四年の年月をかけて作り上げた作業しやすいポジション。
今更困る事はないだろうと植田を連れて囲炉裏の火を落せば植田が俺を奥の部屋へと引っ張って行った。
何だ?と思いつつも裏庭を臨む部屋の縁側に置かれた机に植田はノートパソコンを置いて
「綾っち、お願いがあるんだけどプログラミング教えてください」
「綾っち言うな、って言うかセキュリティのプロになるつもりだったんじゃなかったのか?」
確かそんな志だったと思ったが
「最初はサイバーポリスとか憧れたんだけど、ほら、やっぱり俺ゲーム好きでしょ?
綾っちがゲームのプログラムぶっこ抜いて構成眺めていたの、あれ憧れててさ、だけど俺バカだからそんなの無理だって最初の段階で諦めてたんだけど……
綾っちが進めてくれた学校のコンクールでプログラミングのコンクールがあってさ、大賞は取れなかったけど佳作には選ばれたんだ。
何か嬉しくってさ、それにここでみんなが物を作り上げてきたの見てきたから。
畑違いだけど俺も何か物を作る方に進みたいんだ」
植田のくせになんという志だと感動してしまうけど
「学校的にはそれは問題ないのか?」
コースは別じゃないのかと思うも
「まだ一年の前期はそこまで分岐してないし、変更もきく期間なんだ。
最初は二年勉強するつもりだったけどじっくりやると楽しいって綾っちが進めてくれたから三年コースに変更に決めたから。学校の先生も今ならコースの変更がきくから少しでも違うと思ったら変えてみる方がこれから資格を取って行くに当たりモチベーションも上がるぞって言ってくれてさ」
何やら一生懸命説明しようとする植田が何時もの仲良しこよしの仲間から一人離れて来た理由に納得した。
どうやら俺に背中を押して欲しいって言う分けかと理解すれば
「だったらそれでも半年分勉強は遅れてると言う事だから。
お前んとこの学校のカリキュラムは一応調べてある。
あと一週間の滞在予定だったよな?だったらその間にどれだけ取り戻せるか強化合宿になるぞ」
「綾っちありがとう!」
「だから綾っち言うなって」
なんだかんだ挨拶のようにもなったやり取りに俺は植田を部屋に招き、高スペックのPCでノンストレスのサックサクの機動力を誇る俺の愛用のPCでレクチャーを始める。勿論植田はこれ使ってもいいの?って緊張していたけど、俺とのマンツーマンの勉強はそんな緊張なんてしてる暇もないスパルタ式。あっという間に基本動作の確認をして、まだ植田が知らない言語を説明しながらこの秋から習うだろPHPやJavaScriptなどをざっと教えておく。特にいわゆるJavaと略される奴は独学でも習得できるし、何よりwebサイトなどでもよく見かける為に馴染もあって受け入れやすいと俺は思う。ついでに簡単にHTMLも教えておく。この二つが理解できれば簡単なスマホアプリぐらい作れるようになるからプログラム作りの入門とするのならちょうどいいと簡単なレクチャーだけはしておく。実際には一晩じゃ覚えきれないからなと、ススキを刈ったら始めようと予定を立てておいた。
だが何を置いてもプログラミングに欠かせないのが英語力だ。簡単な単語だけど知っているのと知らないのでは別世界。そこは常に声に出して目と耳と口を使って覚えて行こうと呪文を呟く作業になる事に植田は意外にも抵抗がないようで
「何だか魔法使い見たいっすね!」
「言われたら謎の呪文でゲームが出来るんだから魔法だよな」
何て笑いあう物の実際にifの世界が始まれば頭の痛い問題も発生してこよう。
英語でもifを習う時混乱した人がいた様にだ。
二人してモニターを眺めながらのブラインドタッチで植田がどこまで学べるかチェックをしていれば
「何だか綾っちの家に初めて来てマンツーマンで勉強を教えてもらった頃を思い出しますね」
「綾っち言うな。
まあ、俺は先生みたいに器用じゃないから一人一人でしか教えてやれんからな。
だけどその分みっちり教え込んでやるから期待しろよ?」
「それはもう骨の髄までしみこんでますので覚悟してきました!」
あまりのいい返事に俺は笑いながら
「じゃあ、水野を切り離すつもりで教え込むぞ」
「OKっす!
むしろあいつ去年綾っちとみっちり勉強した分俺は遅れたんだから、今度は俺が先に行かせてもらう番でっす!」
「おお、ライバルって奴だな。
だがな、綾っちは言うな」
繰り返される合いの手のようなやり取り、なんだかんだこれを楽しいと思うくらい馴染ある言葉に変えてくれた植田に俺をこうやって弄る奴がいなかったからか少しだけ嬉しく思うのは絶対の秘密だ。
応援ありがとうございます!
36
お気に入りに追加
2,611
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる