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繰り返す変化のない俺の日常 7

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「さて、お前ら俺が居なかった間の様子を見せてもらうぞ」
 言ってプリントを配る。
 一樹は何が起きてるのかわからなかったが園田と陸斗と一緒の二年の先輩達以外は呻くのを見て綾人さんはニヤリと笑った。
「川上は植田と水野から進路について聞いてるだろうから後は無事学校を卒業できるレベルを保てればいいのだが山田は建築学やりたいとか言うのなら避けて通れないぞ」
「あー、陸斗みたいに二級建築士を目指せなくても三級程度でもいいので……」
「俺がそんな手抜きを許すと思ってるのか?」
「いやぁ……」
 内田さんを始め山の家の建築家の皆さんを見て進路を固めた山田だったがまだまだ動機づけは薄く不安になっていた所でのこの返事。
「とりあえず綾っちからもらったバイト代で車の免許は正月のお年玉で払えたから他のリフトの免許とか特殊車両とかの免許取れる奴はこの夏休みの間に取っておいたのですよ」
 その努力だけじゃまだ駄目かと言うが
「まぁ、良い小遣いの使い方だがお前の進路が迷走してるな」
「実桜さんがかっこよかったので」
「確かに実桜さんかっこよかった。誰よりも男前だったけど、一切手を抜くって言う事はしなかったぞ。むしろ蒼さんも教育していて……
 ああ、だから憧れるのか」
 納得と頷けば「え?マジっすか?何か想像と違うんだけど?!」何て慌てる山田に
「元々古い庭師の家の跡継ぎだったからな。見た目とは違ってガチ勢だぞ」
「うわー!ギャップ萌えって奴っすか?!
 なんか一見図書館の受付っぽい人なのにシャベル振り回すとか?」
「シャベルは振り回さん。振り回すのはチェーンソーかシャベルと言ってもユンボのシャベルだ。
 ああ、確かにこのギャップは笑ったな」
 クレーン車もぐるぐると乗り回すし草刈り機もマリオカートの如く乗り回していた。
 サッカーコートとして使ったフラットな庭だった為にできた事だったが一番満喫していたのは確かに実桜さんだった事を思い浮かべる。
「まあ、建築でもエクステリアとかあるから。その時に植木の事でも学びに行くと良いと思うぞ?」
「はー、なんたやりたい事がまた増えたって言うか、絞れないなぁ」
 畳に突っ伏して何を絞ればいいのだろうかとぼやく山田を皆で笑い
「とりあえず資格取れるもの取っておけば適当な所に就職した後独立すればいい」
 それもすげーよなと上島達も笑う中
「あ、就職して修行したら圭斗さん雇ってください!
 目指せ長谷川一家みたいな感じになって帰ってきます!」
「ざけんな。独り立ちしたかったら独りではじめろ」
 独立して一年、借金は着々と俺に返済され予定のペース以上にことはすすんでいる。だけど何かあった時の為にと俺の所で使わずに預かっていると言うか、陸斗の大学の資金に積み立てているのはまだ話していない。
 どのみち陸斗の大学の授業料も俺が肩代わりするつもりだから圭斗の借金返済は陸斗の卒業後になって初めてスタートとなる。何とか利息を付けないだけましな返済方法だが、圭斗が踏み倒しても俺が馬鹿を見たと言われてもおかしくないのに圭斗は律儀に返済をする。あの毒親と一緒にされたくない、それだけが圭斗と陸斗がどんなひもじさを味わっても奮い立たせるプライドを俺は眩しく思うのだったが
「それよりも早くプリントやれよー」
 既に陸斗と園田は集中して問題をどんどんと解いている。
 一緒になって話を聞いて笑っていた川上達も慌ててプリントを始めるもその差は既に三分の一以上開いている。
 それを綾人は意地悪く時間内にがんばれーとなんの感情も乗せずに応援した後
「一樹にはこれだ」
 数枚の問題用紙を与える。
「まぁ、ここに来る学生の洗礼だ。
 分かる所だけで良いからやれ」
 お願いでもなく、協力でもない命令。
 年齢的にもその理不尽さに顔をゆがめるも
「まさか小学生の問題も判らないとは言わないよな」
 あざ笑う綾人の顔に一樹はプリントを奪う様にひったくり、そっと植田がシャープを転がして渡せばそれを握りしめて問題を解いて行くのだった。

「おー、早速綾人に絞られてるかー?って、知らん顔が居るぞ?」
「先生この間はどうもー。
 新しい部員ゲットして来たんだ。ちなみに住職の所の一樹君よろしく」
「よろしく、去年まで麓の高校で教師してた高山だけど、綾人に掴まったって言う事はどんな訳ありだ?」
 とりあえず風呂より先に飯と言う様に上島がご飯のしたくをしてくれていた。ちなみに水野は布団の用意。離れでテレビを囲むようにして布団で埋めると言うゲームを楽しめる様に夜食も植田が作っていた。
「まぁ、何か想像通りに成績が壊滅的で、都会者は田舎者の洗礼を浴びるお約束なルート辿ってまーす」
「綾人みたいに教師共々返り討ちにしてないのか?」
 座って早速と言う様にビールを飲む先生は一樹の手元のプリントの、既に回答が穴あきと言う残念な様子に眉を顰め
「せんせー、綾人は規格外だから参考にするなよー」
「ああ、まぁ、それは俺も体験したから綾人みたいなのがごろごろいてほしくないけどさ。
 うん、そう思えば今の学校の奴ら可愛いよな。まだ普通だ」
 麓の学校と天と地ほどの差のある進学校の生徒を見ても綾人の異常さは理解できたと言う様に頷く先生はレンチンした焼き鳥を美味しそうにかみついて櫛から外してゆっくりとうんうんと頷きながら食べていた。
「何だこの屈辱。褒めらたどころか物凄く馬鹿にされた気がするんだけど?」
「言うだろ?紙一重って言う奴だ。
 お前は興味ない事には一切見向きもしないから、お前の事でどれだけの先生が陰で泣いていたと思う?」
「俺に百点取らせないつもりで全力でかかって来たのにもかかわらず百点を取った挙句に間違いを指摘した辺りかな?」
「教科書丸々一冊暗唱したとかどこで入手したか判らない難関校の問題を暗算で解いたとか、そんな事ばかりやられたら真面目な先生方は普通泣くぞ」
「普通じゃない先生はテストの答案用紙の採点を当たり前のようにさせるけどね」
「そこはビジネスだ。ちゃんとおやつ買って来てやってるだろ?」
 差し出されるのは大体ポテチ。勿論十個一纏めの箱で提供してくれる太っ腹にはいつも感謝。
「あざーっす」
 感謝の欠片もない声での感謝には先生も慣れた物だと今更何も言わない。
「とは言えだ、暴力は見過ごせないな」
「一応圭斗のスマホから学校には連絡しておいた。
 葛谷先生が出たから多分俺からなのはわかってると思うけど」
「葛谷先生ねぇ。相変わらず情熱が空回りしてなけりゃいいんだけど」
 少しは丸くなりましたよーと言うのは川上。ちなみに今の担任。
「綾人が授業中爆睡したからって吹雪の日に生徒指導でバス乗り送らせたの相当反省してたからなぁ。
 あ、電車通勤してたから車で送るってこと出来ないし、冬場はタクシーで綾人の家までさすがに送ってもらえないから。真っ暗な中歩かせるわけも行かないし、あのあと相当ウザかったって校長言ってたな」
「おかげでクールな高山先生と言われてた先生の実態を知って俺はショックを受けたけど」
 言えば誰もがあの家の状態を思い出して大爆笑。
「クールも何もなかったっすね!」
「あったのはミント系のファブ●ーズの匂いしかなかったっすね!」
「あの家がヒノキの香りで復活して本当に良かったっす!」
 卒業生の大爆笑に在校生は盛大に頷く。
 一樹はわけわからんと言うようにこの異様なテンションに戸惑っていれば、既にプリントを終えた陸斗がスマホで撮影した家の様子を見せて、一樹を怖がらせるのだった。
「今は綺麗にしたから大丈夫だし、温泉じゃないけど檜風呂があるから今度皆で入りに行こうね?」
 すっかり麓の家が銭湯代わりに利用されてるのを黙って聞き逃しておくが……

 そういや俺あの風呂に入ったのはいつ以来だっけと、随分ご無沙汰しているのだけは理解するのだった。
 
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