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前向きに突っ走るぐらいがちょうどいい 5

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 綾人が帰ってきて爆睡をした朝、いつもの通り早く目を覚ました綾人は確保した部屋に籠っていた。
 留守の間に届いたPCをセットアップしてこの部屋だけに専用で繋いだネット回線へと接続した。
 年に何度か来るかわからないこの部屋に独立した回線は必要かと思うも、この部屋で使うPCの使用目的を考えれば必須だろう。
 単純に出された答えに迷う事はしなかった。
 同時に城内のネット回線を整え、レストランになるべきクラブハウスにも独立した回線を繋ぐ。こちらはお客様にもフリーで使っていただけるように準備をして置いた。今時ネットに繋がらない環境はありえないし、観光客も多いだろうと想定すれば必須の設備となっている。いずれ城の方でもディナーをお出しする事になるだろうと仮定しているが、その時ように回線は増設できるように作ってはいる。不特定多数と特定多数が共有するのは危険だ。主に負荷が。個人情報は企業と自力で守る物だと思っているがそれでもザルな事を知る綾人としては意味があるかどうかは別としてネットを快適に使う、その観点で住み分けをするのは当然だと思っている。故に自分専用の回線を用意したのだが、オカン度が上がった飯田さんにばれると何を言われるのかわからないので黙っているけど多分もうばれているだろうと最悪の事は考えている。波板は嫌だけどね。
 そんなこんなでこの広い城の敷地の中でプライバシーに守られた俺の部屋はあまり手入れをする必要のない部屋だった。前の住人が使っていたせいか綺麗に使われていて、そのまま使える物も多かったのでありがたく使わせてもらっている。ただしベットはマットレス交換させてもらった。
 ベットは真鍮製のアンティーク。カールも絶賛した何とかというブランドらしい。興味なくスルーしたから記憶もしてなかったけど、買うとお高いと言う事で使う事にした。現金だと笑うが良い。マットは今日来る予定なのでご近所のホームセンターみたいなところで買った折り畳みベットを使っているけど、寝心地はともかく使い勝手の良さに便利だなと思いながら突然の来客にはこれで対応しようと思う。
 ほら、屋根裏の個室、全室ベットがあるわけでもないし、客室もあるけどホテルの良い部屋のような重厚なベットがあるけど圧倒的に数が少ないとか、ベットの傷みはこのまま使うのはどうかと言うレベルの物もある。カール曰くこの城の最初の城主の持ち物を残しているのだろうと言う事。浩太さんに直してもらう事で話しはついてあるが、こんな事なら長沢さんに来てもらうんだったとぼやいていたが、その弟子が居るのにその名前が出ない辺りはまだ実力不足と言う事だろうかと考えてしまう。まぁ、宮下が幾ら器用でも長沢さんの兄弟弟子についてまだ一年だもんな。覚える事は多すぎだと思えば納得できる言葉。圭斗はそもそも畑違いだし、俺は経理担当だしと仕方がないのでバーナードの会社の人に頼るしかない。傷んだ家具問題もこれでクリアだ。
 とりあえず大きな欲はかかずに一つ一つの問題を解決していく事にする。
 まず第一にハロウィンまでにクラブハウスの改装を完成させてオープンへと漕ぎ付く。料理に関してはオリオールに任せて、これだけはいくら頑張っても時間が必要になる庭改造はメインの植物は何とか今月中に植えておきたい。今植えて、この地域の短い秋の間に根を張ってもらって冬を何とか耐えてもらえばもう安心だと思うが、この地域の冬はどれぐらいなのかさっぱりわからなく、これもバーナードが用意してくれる庭師に頼るしかないと割り切る事にした。
 ただし、庭は俺は拘りに拘っているので、デザイン画をPCで作ってバーナードに見せてある。
 技術的な事は判らないが、こう言った庭の図面でよろしくと言えばどこで学んだと聞かれて独学だと答えればただ無言で唸られてしまった。一人で完結しないで教えてくれと思うも今も何も教えてくれない意地悪だ。
 ともかく庭も戦力があったり、フラットなだけに高低差を作ったり広いだけにいろいろ弄れると言う面白味もあるし。
 一度カールとバーナードをロードの城の庭を見せてこのような心地いい庭にしたいと実際に見せてみたのだ。二人はすぐに納得してくれた。ただしこの庭を作って意地をするのに滞在してくれる庭師が必要だと言われた。つまり専属の庭師。長谷川さんの所の園芸部に任せようかと思うもあいつは英語どころか日本語も危うい状態。全く知らないフランス語圏に連れてくるのは却下として誰か良い人が居ないか探してくれると言う。ありがたいと思う反面そう言った伝手もあるんだと感心する方が驚きだ。まぁ、そこは年の功だと思っているが、ありがたく甘えさせてもらう事にする。
 そんなこんなでセットアップが出来れば早速カスタマイズ。
 家のPCはあいつらに部屋には絶対入るなと言い聞かせているが、想定外で入らなくてはならない可能性もある為コンセントやPCのネット接続は切ってある。ルーターのコンセントを抜いてあるだけだがそれでネット接続できないのなら問題ない。
 因みに想定外で俺の部屋に入る理由は家の中でクマに襲われた時逃げ込むようにと言い聞かせてあるからだ。
 俺の部屋は断熱の他に熊からの対策が練られた仕様になっていて、それは二階に上がる階段にも施されている。逃げる先が一か所では賢い熊に先回りされたらどうしようもないので二カ所所かなんカ所確保してあるが、俺の部屋なら少しの食糧が用意してあるので逃げるならここに来いと言ってある。
 使わない事に越した事はないが、最悪ライフルがあるのでそれで何とかして欲しいと思っている。銃刀法違反になるが。
 思い出したついでにあいつら草刈りやってくれてるだろうかと心配しながらセットアップ完了したPCからカスタマイズをしていく。四台のPCを俺の使いやすいように改造する事四時間。

 ちゃーら、ちゃーら、ちゃーら、ちゃーら、ちゃら、ちゃら、ちゃら、ちゃら……

 サメが襲ってくる古い映画の着信音を聞いてスマホを取れば
「綾人、お前どこに居る」
 朝から圭斗のむすっとした声に二階の俺の部屋に居る事を告げる。
「何でそんな所に……」
「いつも通り起きただけだよ。こっちに来て時差を狂わす為にほとんど寝てなかったけど何とかいつも通りに戻って来たな」
「こっちは狂いっぱなしだからがむしゃらに仕事して疲れて眠るぐらいに体調を合わせてるって言うのにな」
「先生じゃないけど基本寝なくて限界になって寝るのがお薦めかも?」
「テキトーな事言うな」
 むすっとする圭斗に
「で、なんか用?」
 ご機嫌ななん目になる声を楽しみながら新しいPCの使い心地を試してブックマークによく使う物をマークして行く。
「朝飯の時間だ。とりあえず食堂に来い」
「いえっさー」
 気のない声で言えば
「飯田さんが一分遅れる事に綾人の飯をアレンジしようかどうしようか真剣に悩んでいるぞ」
「すぐ行きます!」
 そう言う事なら早くせねばとPCをシャットダウンして生まれたてのPCを守る為にネットのケーブルを外しておく。最低限の防衛が出来るまでケーブルを繋げないのがベストなのを知るのでWi-Fiにもつなげない。そして有償でありふれているウィルス対策のソフトも入れない。
 俺の経験と知識で作った神経質と言っても良い位のソフトは何とかできて
「これで良し」
 ぐるりと見回して確認をし、俺の防衛をインストールした所で食堂に向かうのだった。


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