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心は広く持ちたいと言う事を願っております 5
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漆喰塗対決(?)でクライグさん側の職人さんと山川さんはどうやら仲間意識が芽生えたらしい。友情と言う奴だろうか。何やらすごい笑顔でコテの返しを言い合いながら次々に塗り続けていた。周りも二人の仲良さ気な空気にやる気がそがれると言うか何だか気が抜けたと言うか空気が丸くなったと言うべきか、もう好きにやってなさいと言う雰囲気になり瞬く間に壁を塗り尽くした頃一人の熊がやって来た。
もとい飯田さん。
鍋と麺棒を持って何しに来たんだと思えばいきなり麺棒で鍋をガンガン叩き出した。
「うわっ?!」
思わず耳を塞いでしまうのは俺が一番側に居たからであったためのダメージ。そして皆さん仕事に夢中になっていた人は驚きの声を上げて至る所で物が落ちたり悲鳴が聞こえた。
『もうとっくに昼飯の時間は過ぎてるぞっ!!!』
フランス語か知らないけど俺には全く意味をなさない言葉に何だ?と、珍しいまでの怖い顔は俺を見てズボンから懐中時計を取り出して時計を見せてくれた。
とっくに過ぎた昼の時間。
時間を知って急激に減り出すおなかの具合。
ああ、腹減った…… なんて思ってたらクルリと体を回し俺に向かって
「今綾人さんから電話を貰ってちゃんと昼ご飯を食べてるか確認されました。
食事を任されていましたがまだ昼食を召し上がってない事を報告したら『俺をブラック会社の社長にするつもりですか?』って盛大な嫌味を言われました」
「いや、フランスまで来させる時点でブラックじゃね?」
現地採用だけじゃ足りなく俺達どころか山川さん達も呼ぶ鬼畜ぶり。もっと他にも声をかけたけどパスポート持ちはこのメンバーだけ。ちなみに岡野夫妻は言葉が分らないのに庭造りのメンバーに飛び込んだ勇者で、子供は飯田さん達が食堂で面倒を見ている。
そもそも日本じゃお盆で親族が集まったり、墓参りをしたりとの年に指折りの大イベントが起きているはずなのに容赦なくフランスに召集。皆さん本当に良く来たと感心するしかない。
我が家だって夏休みに帰って来る気だった香奈に事情を話せば
『綾人さんにならお土産を要求した方が良いわね』
そんな判断。あまりに逞しくて何か泣きたくなった。
私の貴重な夏休みから圭ちゃんと陸を奪った罪は重いと言って容赦なくびっくりする値段の、馬具で有名な老舗ブランドの物を土産で買って来いメッセージを送ったと言う暴挙はそれだけ年に一度の里帰りを楽しみにしてくれてたのかと父としては嬉しくてもっとやれと言う物だ。
綾人の思考がわけわからんのは今に始まった事ではないので
「あいつに付き合ってられるのは俺達ぐらいだと思うけど?」
「否定はしません。
ですが、綾人さんが言いたいのは無茶は承知で頼んでいるんだ。せめて楽しんで来て良かったって言う満足をして帰国してほしいって事です。
仕事が面白くても食事も休憩時の交流も総て楽しんでほしい。そう言う文化の違いの体験をしてほしいと言ってるのです」
言いたい事は判る。判るが……
「時間がないのならどこに何を詰めるか、最後は消去法になる」
例えば風呂。例えば睡眠。例えば…… 食事。
俺がここまで成長する間に身に付いた消去法だった。
こんな勉強のチャンスは二度とない。見るだけならいくらでもあるだろうが、体験すると言う期会なんて次はないだろう。綾人の体面なんて気にしちゃいられない、そんな焦りにも似た気持ちを抱えて飯田さんに訴えれば、ポンと頭の上に手を乗せられた。
「判るよ圭斗君。その気持ちわかるなぁ」
いつの間にか山川さんが俺の後ろに立っていた。
振り向けばいつの間にか人はまばらになっている中、少し困ったように浩太さんまで俺を見守っていた。
「初めて見る文化、初めて見る家造り、初めて見る伝統、初めてづくしで好奇心が止まらないのは俺もよくわかる。
若い頃に国からの依頼で参加したプロジェクトではお客様扱いでこんなにも自由に参加する事は出来なかった。
まだこんなさわりの状態なのに傷付けるといけないからと言われて断られたりして何にしに参加したんだろう、参加する事に意味があるってうまく誤魔化すなよなんて経験もしたから、圭斗君の欲張る気持ちもよくわかる」
「欲張るなんて……」
そんなこと思った事ないしと言いたかったが
「だけど俺達は今回依頼主の要請によって要望に沿って報酬を貰うちゃんと仕事だと言うのを忘れてはいけない。
その中には決められた休憩時間も含まれている。
大人なら、そしてプロならガキみたいに我が儘言わないで受け入れろ。一番下っ端が人様に迷惑をかけるんじゃねえ」
厳しい声と目だった。
それは一年ちょっとの付き合いの中で初めて聞くような重い声で、今まで親のように世話を焼いてくれた人の強烈な指導に一瞬だが呼吸を忘れた。
殴られたわけでもなく、痛みを伴うわけでもないのに震えるぐらい身のすくむ思いにをして俯いてしまう。目と目の間が熱くなり、鼻の奥がつんとするような、そんな感覚はもう覚えがない。耐えるようにぎゅうっと唇を食いしばるのがせいぜいだった。そんな俺達の中に一つの足音が混ざり
「さて、山川さん。圭斗君はもうちゃんと理解したようだし、飯田君もみんな休みに入ったからいつまでもここで油を売っていたらだめだよ。早くボスの所に戻らないとダメだろ」
浩太さんの何の変哲のない声がやけに明るく感じる中飯田さんは「では戻りますから食事はきちんとしてくださいね」と言って駆け足で去っていってしまった。
今の山川さんの声に何も怯える事のない声だった飯田さんは山川さんの意見を正しく理解し賛同する人なのだろう。
上手く顔を上げられずにいれば浩太さんは背中側から俺の顔を見ないようにして俺の肩に手を置き
「山川さんはね、昔爺さんに今の圭斗君と同じような事をして怒られた事があったんだ。
その時はまだ仕事をしてて、その仕事見たさにやたらとくっついて回っててさ。子供心に何だこいつって思ってたわけよ。
そりゃあ朝仕事に来てから今でいうストーカーのように仕事をせずに勉強と言っては周りをちょろちょろとしててさ、だもんでついに怒られたわけよ。
『下っ端が仕事もせずに人様に迷惑をかけるんじゃねえ』
って親父にな。何か急にあの時の事思い出してな?」
なんて視線が山川さんに向く頃には既に城のテラスへと向かって歩き出していた。その背中は日焼けをしたのかと言うくらい首所か耳まで真っ赤になっているのを見て浩太さんは笑う。
「何だ?ひょっとして俺が覚えてるわけないと思って親父の真似をしたとか?」
答えもせずに少しだけ早足になったのが答えだろう。
一足早くテーブルに着いた山川さんを追いかける様に行こうと背中を押され
「俺達大工は結構早い段階でみんな独立する。だから横の連携がないとやっていけれないし、上下が無い分経験者は若い奴らの面倒をしっかり見てやらないと事故に繋がる。
ああ見えても山川さんは圭斗君の事を気に入ってて師匠気取りだ」
ゆっくりと足を進めながら
「仕事の事から細かな事、そして仕事に対する意識と言った事を教えたいんだよ」
山川さんへのそんなフォロー。
判っていたはずなのに言われないと判らないその単純な優しさにくいしばってた唇をそっと開けて
「だったら浩太さんは何で俺に?」
こんなにも面倒を見てくれるのだろうかと思えば
「そんなの決まってるだろ」
至極当然と言うような声とあかるい顔に
「弟弟子の面倒を見るのは兄弟子の仕事だ。
親父の弟子なんだから、一番弟子の俺がちゃんと世話をするのが俺の仕事なんだ」
ニカリと笑い目の前で椅子にふんぞり返る様に座る山川さんに向かって
「絶対山川さんにはうちの圭斗を渡さないからな!」
そんな宣戦布告。
「ええと、浩太さん?」
何言ってるんだと聞きたかったが
「いやいや、圭斗君はもう俺の仕事も教えも受けた立派な俺の弟子だ。うちの子だよ」
「何バカな事言ってるんです!ボケがもう始まったのですか?!弟子をとる前に病院へ行きましょう!今すぐ行ってください!」
「くう!小さい頃はちょろちょろと切り落とした材木を集めて積み木にして遊んでた可愛い浩太がこんな風に育つなんて!」
それはそれで見てみたい。
「三歩歩けば怒られていた山川さんから説教が聞ける日が来るとは、長い年月は人を成長させますね」
なんて朗らかに笑いながら何やらまた変化した空気に料理を持って来た飯田さんは何も聞かずにいつもの笑顔を見せてくれる。
楽しそうですね、そんな目でさっきまでの事なんて雰囲気も出さず俺達を見守りきっと時間通りこのテーブルに着けばこれから口に入れる以上においしかったはずの料理を用意してくれた事に申し訳なく思いながら
「俺、飯田さんみたいな大人に将来的にはなりたいな」
「「なんで?!」」
それはあんまりじゃないかと言うような二人に飯田さんは料理人の時の姿ではどんな状況でも変わらない人好きのする完璧な嫌味のない笑みを浮かべるも、今は少しだけ優越感を感じるのはきっと……
俺の餌付け完了って言う事だろうと思う事にした。
もとい飯田さん。
鍋と麺棒を持って何しに来たんだと思えばいきなり麺棒で鍋をガンガン叩き出した。
「うわっ?!」
思わず耳を塞いでしまうのは俺が一番側に居たからであったためのダメージ。そして皆さん仕事に夢中になっていた人は驚きの声を上げて至る所で物が落ちたり悲鳴が聞こえた。
『もうとっくに昼飯の時間は過ぎてるぞっ!!!』
フランス語か知らないけど俺には全く意味をなさない言葉に何だ?と、珍しいまでの怖い顔は俺を見てズボンから懐中時計を取り出して時計を見せてくれた。
とっくに過ぎた昼の時間。
時間を知って急激に減り出すおなかの具合。
ああ、腹減った…… なんて思ってたらクルリと体を回し俺に向かって
「今綾人さんから電話を貰ってちゃんと昼ご飯を食べてるか確認されました。
食事を任されていましたがまだ昼食を召し上がってない事を報告したら『俺をブラック会社の社長にするつもりですか?』って盛大な嫌味を言われました」
「いや、フランスまで来させる時点でブラックじゃね?」
現地採用だけじゃ足りなく俺達どころか山川さん達も呼ぶ鬼畜ぶり。もっと他にも声をかけたけどパスポート持ちはこのメンバーだけ。ちなみに岡野夫妻は言葉が分らないのに庭造りのメンバーに飛び込んだ勇者で、子供は飯田さん達が食堂で面倒を見ている。
そもそも日本じゃお盆で親族が集まったり、墓参りをしたりとの年に指折りの大イベントが起きているはずなのに容赦なくフランスに召集。皆さん本当に良く来たと感心するしかない。
我が家だって夏休みに帰って来る気だった香奈に事情を話せば
『綾人さんにならお土産を要求した方が良いわね』
そんな判断。あまりに逞しくて何か泣きたくなった。
私の貴重な夏休みから圭ちゃんと陸を奪った罪は重いと言って容赦なくびっくりする値段の、馬具で有名な老舗ブランドの物を土産で買って来いメッセージを送ったと言う暴挙はそれだけ年に一度の里帰りを楽しみにしてくれてたのかと父としては嬉しくてもっとやれと言う物だ。
綾人の思考がわけわからんのは今に始まった事ではないので
「あいつに付き合ってられるのは俺達ぐらいだと思うけど?」
「否定はしません。
ですが、綾人さんが言いたいのは無茶は承知で頼んでいるんだ。せめて楽しんで来て良かったって言う満足をして帰国してほしいって事です。
仕事が面白くても食事も休憩時の交流も総て楽しんでほしい。そう言う文化の違いの体験をしてほしいと言ってるのです」
言いたい事は判る。判るが……
「時間がないのならどこに何を詰めるか、最後は消去法になる」
例えば風呂。例えば睡眠。例えば…… 食事。
俺がここまで成長する間に身に付いた消去法だった。
こんな勉強のチャンスは二度とない。見るだけならいくらでもあるだろうが、体験すると言う期会なんて次はないだろう。綾人の体面なんて気にしちゃいられない、そんな焦りにも似た気持ちを抱えて飯田さんに訴えれば、ポンと頭の上に手を乗せられた。
「判るよ圭斗君。その気持ちわかるなぁ」
いつの間にか山川さんが俺の後ろに立っていた。
振り向けばいつの間にか人はまばらになっている中、少し困ったように浩太さんまで俺を見守っていた。
「初めて見る文化、初めて見る家造り、初めて見る伝統、初めてづくしで好奇心が止まらないのは俺もよくわかる。
若い頃に国からの依頼で参加したプロジェクトではお客様扱いでこんなにも自由に参加する事は出来なかった。
まだこんなさわりの状態なのに傷付けるといけないからと言われて断られたりして何にしに参加したんだろう、参加する事に意味があるってうまく誤魔化すなよなんて経験もしたから、圭斗君の欲張る気持ちもよくわかる」
「欲張るなんて……」
そんなこと思った事ないしと言いたかったが
「だけど俺達は今回依頼主の要請によって要望に沿って報酬を貰うちゃんと仕事だと言うのを忘れてはいけない。
その中には決められた休憩時間も含まれている。
大人なら、そしてプロならガキみたいに我が儘言わないで受け入れろ。一番下っ端が人様に迷惑をかけるんじゃねえ」
厳しい声と目だった。
それは一年ちょっとの付き合いの中で初めて聞くような重い声で、今まで親のように世話を焼いてくれた人の強烈な指導に一瞬だが呼吸を忘れた。
殴られたわけでもなく、痛みを伴うわけでもないのに震えるぐらい身のすくむ思いにをして俯いてしまう。目と目の間が熱くなり、鼻の奥がつんとするような、そんな感覚はもう覚えがない。耐えるようにぎゅうっと唇を食いしばるのがせいぜいだった。そんな俺達の中に一つの足音が混ざり
「さて、山川さん。圭斗君はもうちゃんと理解したようだし、飯田君もみんな休みに入ったからいつまでもここで油を売っていたらだめだよ。早くボスの所に戻らないとダメだろ」
浩太さんの何の変哲のない声がやけに明るく感じる中飯田さんは「では戻りますから食事はきちんとしてくださいね」と言って駆け足で去っていってしまった。
今の山川さんの声に何も怯える事のない声だった飯田さんは山川さんの意見を正しく理解し賛同する人なのだろう。
上手く顔を上げられずにいれば浩太さんは背中側から俺の顔を見ないようにして俺の肩に手を置き
「山川さんはね、昔爺さんに今の圭斗君と同じような事をして怒られた事があったんだ。
その時はまだ仕事をしてて、その仕事見たさにやたらとくっついて回っててさ。子供心に何だこいつって思ってたわけよ。
そりゃあ朝仕事に来てから今でいうストーカーのように仕事をせずに勉強と言っては周りをちょろちょろとしててさ、だもんでついに怒られたわけよ。
『下っ端が仕事もせずに人様に迷惑をかけるんじゃねえ』
って親父にな。何か急にあの時の事思い出してな?」
なんて視線が山川さんに向く頃には既に城のテラスへと向かって歩き出していた。その背中は日焼けをしたのかと言うくらい首所か耳まで真っ赤になっているのを見て浩太さんは笑う。
「何だ?ひょっとして俺が覚えてるわけないと思って親父の真似をしたとか?」
答えもせずに少しだけ早足になったのが答えだろう。
一足早くテーブルに着いた山川さんを追いかける様に行こうと背中を押され
「俺達大工は結構早い段階でみんな独立する。だから横の連携がないとやっていけれないし、上下が無い分経験者は若い奴らの面倒をしっかり見てやらないと事故に繋がる。
ああ見えても山川さんは圭斗君の事を気に入ってて師匠気取りだ」
ゆっくりと足を進めながら
「仕事の事から細かな事、そして仕事に対する意識と言った事を教えたいんだよ」
山川さんへのそんなフォロー。
判っていたはずなのに言われないと判らないその単純な優しさにくいしばってた唇をそっと開けて
「だったら浩太さんは何で俺に?」
こんなにも面倒を見てくれるのだろうかと思えば
「そんなの決まってるだろ」
至極当然と言うような声とあかるい顔に
「弟弟子の面倒を見るのは兄弟子の仕事だ。
親父の弟子なんだから、一番弟子の俺がちゃんと世話をするのが俺の仕事なんだ」
ニカリと笑い目の前で椅子にふんぞり返る様に座る山川さんに向かって
「絶対山川さんにはうちの圭斗を渡さないからな!」
そんな宣戦布告。
「ええと、浩太さん?」
何言ってるんだと聞きたかったが
「いやいや、圭斗君はもう俺の仕事も教えも受けた立派な俺の弟子だ。うちの子だよ」
「何バカな事言ってるんです!ボケがもう始まったのですか?!弟子をとる前に病院へ行きましょう!今すぐ行ってください!」
「くう!小さい頃はちょろちょろと切り落とした材木を集めて積み木にして遊んでた可愛い浩太がこんな風に育つなんて!」
それはそれで見てみたい。
「三歩歩けば怒られていた山川さんから説教が聞ける日が来るとは、長い年月は人を成長させますね」
なんて朗らかに笑いながら何やらまた変化した空気に料理を持って来た飯田さんは何も聞かずにいつもの笑顔を見せてくれる。
楽しそうですね、そんな目でさっきまでの事なんて雰囲気も出さず俺達を見守りきっと時間通りこのテーブルに着けばこれから口に入れる以上においしかったはずの料理を用意してくれた事に申し訳なく思いながら
「俺、飯田さんみたいな大人に将来的にはなりたいな」
「「なんで?!」」
それはあんまりじゃないかと言うような二人に飯田さんは料理人の時の姿ではどんな状況でも変わらない人好きのする完璧な嫌味のない笑みを浮かべるも、今は少しだけ優越感を感じるのはきっと……
俺の餌付け完了って言う事だろうと思う事にした。
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