上 下
482 / 976

心は広く持ちたいと言う事を願っております 1

しおりを挟む
『先生、短い間だけどお手伝いありがとうございました』
 感謝を表すように深々と頭を下げれば
『ねえ、綾人。綾人が効率主義なのせんせーよーく知ってたけど。
 十二時間飛行機に乗って何一つ観光してないのにさようならって何かひどくない?』
 今日は先生が帰国する日で、飯田さんが空港までお見送りをしてくれる予定となっている。俺はこれからカールと一緒に先日行けなかったドイツに行く事になっている。
『別に遊びに誘ったわけじゃないからいいじゃん。
 それに飯田さんから聞いてるよ?遊ぶ暇ないからって先にお土産を買ったって。先生だってその気なのに今更文句言わないでよ』
『うん。判ってた。先生は綾人の事理解してて綾人も先生の事ちゃんと理解してくれてた。
 嬉しいはずの出来事なのに何でこんな虚しいんだろうって綾人の成長に先生ちょっと涙が出てきちゃった』
『そんな先生の為に植田達が五右衛門風呂準備してくれてるってさ』
 言いながらも先生にご実家と宮下家と植田達に渡す土産を差し出す。
『土産用にこっちだとソーセージが缶詰めになって売ってるの面白がるだろうから帰ったらみんなで食べて。この瓶のはパテだからそのままでもおいしいけどパンに塗って食べて』
『せんせーね、綾人のそんなクールな所好きだけど、ここは感謝とか敬いとかそう言うのが優先だろ?!』
 涙を流してしがみ付きながら先生もっと遊びたい―!と喚くのを無視をして
『飯田さん、悪いけどまた留守頼むね。俺は明日には帰って来る予定だけど、先生を送った足で圭斗達を連れてくる案内お願いします』
『はい、任されました。
 一応俺の車だけじゃ荷物運び切れないからオラスの息子さん達に応援したので任せてください』
『綾人お前圭斗達まで巻きこんで。そりゃあ何かあった時の為にってパスポート取らせたけどお前の手足の代わりにさせるために取らせたんじゃないからな』
『判ってるよ。ちゃんと観光に連れてって遊びに行かせればいいんだろ?』
『綾人さん、その優しさちょっとでいいから先生にも分けてください』
『次回の時にいい場所探しておくね』
 誤魔化すようににっこりといい笑顔をしておく。
 飯田さんは圭斗達の着陸予定時間に応援をお願いしており現地集合としてある。入国手続きの間に合流しようとなっているらしいのでそこはお任せしておく。そして当然の如く綾人から報酬が出るのでオラスの息子さん達は運よく休日なので良い顔で手伝うと言ってくれたと言う。今年の干支のお年玉袋に入れて準備をして飯田さんに預かってもらう。日本らしいアイテムに飯田さんも笑ってくれて、俺が留守の間にしてほしい事を申し送りをしておく。
『でもほんといいいのかな?』
 綾人はオラスの息子さん達とお互い顔を直接知るわけじゃないのにと言うも
『俺も何度もお世話になってますし、それ以上にお世話をしたと自負してますから、その借りを返してもらうと思えば問題ないですよ』
『いや、なんだかすごい問題を聞いた気もするけど……』
 何故かドヤ顔の飯田さんにそこはあえてつっこまずにお願いしますとお任せをする。
『では、先生を送ってきますね』
『お願いします……』
『いやだー!せんせーだって観光したいー!!!』
 なぜか満面の笑みで先生をワイン樽を軽々担ぐその腕力の力押しで先生を引っ張って車の後部座席に放り込んでエンジンをかけて
『では行ってきますので綾人さんも気を付けてくださいね』
 颯爽と車を走らせるのだった。
 あまりに名残所かあっさりではなくあっけに旅立っていく先生を見送っていれば
「あの二人は仲が悪いのか?」
 オリオールのどこか呆れた声に
「同族嫌悪って言うか、キャラがかぶっててマウントの取り合い?
 いざとなったら俺の知らない所で連絡取り合う位には仲はいいよ」
 そう言う物なのか?と言う様にオリヴィエは頭を傾けるもそこでタクシーが到着した。もうほとんどお抱えタクシーと言うようなご近所さんのタクシードライバーさん。
 俺は鞄を持ってタクシーに乗り込み
「オリヴィエ、オリオールの動画戸惑っていたら手伝ってくれよ?」
「もちろん。ご飯が温かいうちに食べれる為なら協力は惜しまないよ」
 リヴェットまで顔を反らして笑い
「あと、昨日も言ったけど明日からバーナード達が工事に入るから。
 向こうのキッチン、こっちのキッチンの使い勝手はオリオールの使いやすさにかかってるから任せるよ」
「ああもちろん。離れが終われば使い心地を兼ねて完成披露をしよう。
 近所の友人のマイヤーが是非お祝いをしたいと言っている。沢山料理を作ってこの城の再生となる様に友人方も招待しても良いだろうか?」
 ああ、これは既に約束を取り付けられているのだな?なんて、多分反論できなかったんだろうなと思うも
「それと今日からお客さんが来るので食事のお世話をお願いします」
「言葉は判らないがカオルもいるから任せてくれ。あとスマホの自動翻訳はほんと便利になった」
「確かに」
 思わず頷いてしまうのは全く知識のないフランス語なのに山奥では高校生達がスマホ片手にオリヴィエとたどたどしくも会話を成立させていたのだ。あまり優秀とは言い難い自動翻訳だったが、それでも大体あってる、それと勢いで何とか目的を達成したのは奇跡だろうか。
 動画には俺が丁寧に訳した言葉の字幕を張ったので大変な内容の会話になっていたがそれでも目的を無事達成したのは目標が全員一致していたからとしか言えない。
 まぁ、そこまでは大事故にならないと信じたいしバーナードが連れてくる大工さん達にも日本から見学したい人が来ていると説明して、良かったら使ってくれとも言ってある。
 体験に勝る経験はない。
 そこは同じ職業の人同士バールで語り合ってもらえればいいと思ってる。
 ヤバい集団が出来上がりそう……
「じゃあ行ってくる。
 オリヴィエも煩かったらマイヤーの家に避難しろよ」
 手を振って走り出したタクシーが麦畑の道から脱出する所で代わりと言う様にバンが何台も連れだってすれ違う。間に合わない事は先に伝えていたが、これならもう少し待っていればよかったと思いながらもやがて辿り着いたパリの駅にはすでにカールとバーナードが待ち構えていた。
「お待たせ」
 二人に手を上げて挨拶をして
「バーナード、来る時大工さん達とすれ違ったよ。随分気を使ってくれたみたいでありがとう」
「なに、息子に頼むと任せてきたからな。打ち合わせ通りなら私もアヤトもいなくて充分。それに今の時代連絡を取るのは容易いから心配はいらない」
「バーナードの息子は本当に優秀だから信頼しても大丈夫だよ。
 だが、我々にはアヤトが国に帰るまでに出来る限りの事を教えてあげたい。
 今日はストラスブール経由でフランクフルトに行こう。ここも見ごたえのある建築物がたくさんある。まだまだたくさん改築しなくてはいけない城ばかりだからな。少しでも参考になればいい。ところでドイツ語は?」
「ちゃんと勉強してきた。発音は怪しいかもしれないけど実戦で学ぶよ」
「それは頑張った」
 あまり期待してないかのような顔でポンと俺の肩を叩いてさて行こうと笑い、俺達は約四時間の電車の旅を楽しむのだった。

 

しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多
大衆娯楽
夜月燈火は亡き祖父の家をカフェに作り直して人生を再出発。 高校時代の友人と再会からの有無を言わさぬ魔王の指示で俺の意志一つなくリフォームは進んでいく。 あれ? 俺が思ったのとなんか違うけどでも俺が想像したよりいいカフェになってるんだけど予算内ならまあいいか? え?あまい? は?コーヒー不味い? インスタントしか飲んだ事ないから分かるわけないじゃん。 はい?!修行いって来い??? しかも棒を銜えて筋トレってどんな修行?! その甲斐あって人通りのない裏路地の古民家カフェは人はいないが穏やかな時間とコーヒーの香りと周囲の優しさに助けられ今日もオープンします。 第6回ライト文芸大賞で奨励賞を頂きました!ありがとうございました!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...