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裏庭に潜む罠には飛び込むのが礼儀 8

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「どうしたその目?」
 オリヴィエが横になるベットの隅に座ってよく見えるように髪をかき上げれば手をはねのけてしまった。
「ふむ、不機嫌の理由はだんまりか?」
 困ったと言う様にはねのけた腕を胸の前で組みながらも一歩も離れようとしない綾人。何であんなにも頭が良いのに気付いてくれないんだよ!察してくれよと怒りが込み上がるが
「どうやら先生が言うには俺が悪いらしい」
 心当たりがないと言う声に困惑の色は十分届いている。そう言った微かな声のトーンの違いで相手のご機嫌をうかがう事ぐらい、小さい頃から気分屋で気難しい大人の世界で育ったオリヴィエには手に取るように優しい事だ。
 びっくりするほどの判断力と行動力、そして実行力を持つ綾人を尊敬して来たのに何で俺の事を理解してくれないんだ!理解できないのならどこかに行ってくれと直接の言葉では訴えられないので猫が毛を逆立てる様にあっち行けと無言で訴えるも、俺ぐらいの年齢の取り扱いは扱い慣れ過ぎていると言う様に俯いている俺の頭をポンポンとリズムを取る様に痛みを加えないように優しく叩きだした。
 身動きせずになされるままにされていればポンポンする手が正確に一秒に一回のビート・パー・ミニットという、悔しくも心地よい規則正しいリズムを刻んでいた。
 心音と大体一緒で、感情的になってる俺からは少し遅いかもしれないけど、逆に言えば綾人はこれだけ困惑していてもなだらかな状態だと言う事だ。
「オリヴィエ、何を拗ねているのかわからないがよかったら教えてくれ」
 拗ねてると言われてまさか俺が?なんて唖然としてしまう。

『子供だからって癇癪を起こせばもう誰もバイオリンを聞かせてくれなんて言ってもらえなくなるわよ』

 俺からバイオリンを取り上げれば何もない事をよく知るあの女に言われ続けられて覚えた感情をコントロールする俺が拗ねてるだなんて……
 ああ、今の状態の綾人を困らせている事を言うのかと認めたくない物の俺はしぶしぶと言う様に認める。
 のそり……
 ゆっくりと体を起こして
「一生懸命マイヤーにしごかれていたのに綾人達が楽しそうだったから拗ねただけ」
 素直に口から出した言葉にそうか、綾人達三人がバスタブで水遊びを楽しそうにしてたのにそこに居なかったのが寂しかったのかと自分で納得すれば酷いやつ当たりだ。観光で来ている綾人の時間の使い方は自由なのにといつの間にか綾人の生活の中に俺が居るのを当たり前だと思ってしまった事に驚きつつ、そう言った付き合い方に戸惑いつつベットから降りるも綾人は困ったように俺を見上げ
「俺にはそれだけには見えないが?」
 さっきの事には気付かなかったのに今は気付くんだと、疑問を抱える声のトーンは本当にわかってないようにようにしか聞こえない。
 何だか妙なちぐはぐとした違和感を覚えながらも綾人の手を取り
「さあ、早く行こう。みんな待ってる」
 引っ張ってうやむやにしてしまえ。
 拗ねていたなんて恥ずかしいし、綾人にはクールでかっこいい俺の姿を覚えて安心して国に帰って行って欲しいと思っている。
「ええ?」
 強引にひっぱられる綾人に振り向かずに
「所であのバスタブどこから見つけてきたの?」
「ああ、せんせーが倉庫見つけてみんなで発掘して来てさ、ドラム缶風呂代わりに出来ないかって挑戦?」
 本来の趣旨はとっくに記憶の彼方に追いやって幾ら沸かしても保温が効かないのでガンガンと先日落した枝を火にくべれば逆に熱くなりすぎての水を足したり、だけど最後は枝がなくなった所で終わりとして水が濁る前に三人で奪い合っていたと言う話しを綾人がすれば
「もうお風呂じゃなくってプールだな。ぬるくて夏じゃなければ風邪をひく」
 着替えたから大丈夫だけどと言う事までは話してくれなかったが
「プール!俺行った事ない!普通のプールもお湯なの?!」
「あー、それは温泉とか?普通はある程度温度はあるけど水だな」
 オリヴィエの言葉には逆に綾人の方が躊躇い、無難に答えてみたがこの年齢でプールを知らないってあるのかと言う声音は少し考えるように黙り

「プールで泳いだことはないのか?水遊び的な事とかは?」
「体を冷やすし仕事もあるからって、怪我をしそうな事は禁止されていた」

 なるほど、ようやく合点がいった。
 つまり禁じられた遊びを目の前で堂々とはしゃぐ俺達を羨ましく思って拗ねたのかと納得が出来た。まぁ、遊びたい年頃の、今一番遊びまくる年頃だ。今まで指をくわえてずっと我慢していた物を目の前に突き付けられればブチ切れるのも当然だ。
 そして、それを理解できなかった俺に先生もご立腹なようで……
 自分を含めて人の感情に鈍い俺を先生は高校時代から危惧し、圭斗と宮下の世話を通して喜怒哀楽を学べと、先生に出会うまで親に愛されたいがために感情を抑制してきた俺に二人を通して学ばされてきたが、欲望には忠実になれた。
「まだまだ、か……」
 相手の性格から顔の筋肉や瞳の視線、瞳孔の開き具合などで集めた感情のパターンから読み取って来たが、大人びていたはずのオリヴィエの中にはまた違うパターンがあるのかと、とりあえず拗ねてた理由も飛び出してしまうパターンも覚えておくことにする。
 俺の周りにはあまりいないとても子供らしい率直な反応だから、一見大人っぽく見えいてもまだまだ子供、そこは勘違いしてはいけないと自分に戒めておく。
 そしてその応えを持って先生の所に答え合わせに行けば

『70点』

 どうやらまだ隠された答えがあるようだ。
 オリヴィエはまだ素直に全部吐きだしてない事だが一体何なんだよとぼやいてしまえば先生は溜息を吐いて
『それよりもパレットばらしておいたから、設計図どうなってる?早く指示を出せ。
 あとオリヴィエ!綾人の家では働かざる者食うべからずだ!
 そっちの爺さんにもテーブル作り手伝えって言え!綾人も訳す!』
「えぇ……」
 世界のマエストロに何をさせるつもりなのと、でもとんかちを俺の鼻先に付きつける先生の迫力に渋々と言うように二人に手伝いを求めればやれやれと言う様に先生から没収したとんかちを渡し……
 オリヴィエは綾人が線を引いて鋸で先生が切った物を器用に組み合わせてマイヤーが釘を打つのを手伝うと様子をすぐ側で見る様に言われ

『これが100点だ』

 ちらりとオリヴィエを見れば部屋からここに来たと聞きに見せた笑顔とは違うキラキラと光り輝く瞳と弾ける笑い声。
 思わずさっきと全く違うオリヴィエの様子を先生は何て事のないように言う。

『一緒に体験、それがオリヴィエの心からの願いだ。覚えておけ』



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