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裏庭に潜む罠には飛び込むのが礼儀 7

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 黙々と立ち昇る煙、水道から遠い為の何度往復したか分からないバケツリレー。
 見かねたオリオール達がどこからかホースを見つけて持って来てくれたと言って渡してくれた物には近くの店の真新しいシール付。気を使っていただいて申し訳ない、そんな悪戦苦闘を続けて三時間ほど。お昼におなかいっぱい食べた満足感はもはやどこにもない。
 汗が流れ、埃と煤にまみれた顔は誰もが酷い顔だった。
 煤と炎で焦げたバスタブの底、ほんのりと上る湯気は四十度に満たない。
 俺達は水着なんてないから上半身裸に短パンを履いて準備オーケー。炎も鉄製のバケツに入れて地面は水をかけて火事にはならないように注意は万全。
 呆れた様に俺達を見守るオリオールとオラス、リヴェットの視線なんて丸っと無視をして企画した先生が一番に入ろうとするのは文句はない。
 とりあえず排水設備のない庭で石鹸で顔を洗うと言うのはないのでそのままドボンと飛び込んでくれるのだった。
「うわ!青空の下の風呂って言うのも良いなぁ!」
 風呂マニアのご満悦な感想に俺はニヤリと笑って足元からよいせとバスタブをまたいでお邪魔する。
「あ、こら綾人、お湯が溢れるだろ!もったいない!」
「ちょっとぬるいけど季節がら温水プールな感じだな」
 なんて暢気な感想を言っていれば俺の背後から強引に飯田さんもバスタブに潜り込んできた。
「ちょ!シェフ?!おまえ強引すぎだろ?!」
「うーん、三人ではやっぱりバスタブは小さいですね。先生もういいでしょ?出てください」
「シェフは面積取りすぎなんだよ!」
「はーい、綾人さんは膝の上に」
「クソッ!子ども扱いかよ!!!」
「ちょっとそこの二人!お湯を零すようなら出てけ!って、綾人さん何恩師を足蹴にするの?!やめてよ!結構痛いぞ?!
 シェフまで、二対一だと先生追い出されちゃうじゃないの!」
 必死に追い出されないようにしがみつく先生にオリオール達は腹を抱えて笑うを体現しながら
「折角だから今夜はここで夕食でもするか?」
 夜だから日当たりが悪いとかそう言うのは一切関係ない。さらに言えばキッチンからも近く
「そうなると机は必要になるな」
 立食形式で椅子はいらないだろオラスの言葉に
「だったら今ある材料で机を作っちゃいましょう!」
 飯田さんに蹴りだされるのを抵抗するかのように俺にしがみつく先生と言う二人に挟まれた俺は辟易と言う様に脱出して提案するも先生の冷静な一言。
「綾人に机が作れるのか?」
 三年の時の美術系実技プラス夏休みの自由課題を総て宮下に押し付けた事を知る先生は何をほざいてると半眼になって優雅にも濁った湯船を満喫していた。ちなみに飯田さんは俺が出た後先生と一緒はごめんですと謎の名言を残してくれた。まぁ、二人が俺の保護者の地位を奪い合っているのはなんとなく理解しているが、二十歳を過ぎた成人に保護者なんてもの必要ない事を知っているのかなんて問いただしたいそんな自称保護者を名乗りたい二人に向かって
「とりあえず設計図作るから飯田さんがバスタブが置いてあった倉庫に在ったデンノコで馬小屋にあるパレットを切って、先生がインパクトドライバーがあったから俺の指定した場所を打ちつけて行く…… 簡単な仕事?」
 圭斗や宮下、内田さんがいなくても作り方は見て覚えた。サイズの計算も簡単だ。
 さっきの倉庫の中にバスタブ以外の工具が揃っているのも記憶している。そして馬小屋の中に呆れるほどの廃材があるのも知っている。
「先生、飯田さん。効率よくやりましょう!」
 なんて振り上げた腕に満面の笑みを浮かべて気合を入れればそこには一組の祖父と孫が立っていた。
 訂正。
 マイヤーとオリヴィエだった。
 その姿を見て
「今日はもうレッスン終わったの?」
 そう声をかけるもオリヴィエはややうつむき加減。どうしたと思うもマイヤーは苦笑して
「今日はこちらに送るついでに晩ご飯を招待されてね」
 それはオリオールの判断だろう。別に俺は名ばかりだけの城主なのでオリオールの判断には俺の範疇内なら自由にさせているから今晩の夕食に一人増えても問題ない。オリオールと約束が取れて居るのなら構わないと言う様に
「いらっしゃい。今日は倉庫から発見した古いバスタブを使っての実験の為に裏庭でバーベキューに決まりました。
 アウトドアシェフの腕にむせび泣いてください」
 そんなわけのわからん挨拶よりもどこまでも落ち込んでいるようなオリヴィエは小さな声で荷物を置いて来ると言って去っていくのだった。
 どうしたんだと言うように見送ってしまうも
「ほら綾人、オリヴィエ担当を一度引き受けたのなら最後まで面倒を見ろ。
 お前はオリヴィエをここに引き込んだ以上話しを聞く義務が発生してるんだ。
 城主と言うより大家としてちゃんと話を聞いてやれ」
 なんて言いながら手を合わせて作った水鉄砲が俺の乾いた肌を濡らし
「俺に繊細なオリヴィエの心を受け止めれると思ってるの?」
 親に無視され続けた俺の心はそう言った人を気遣うと言う言葉から縁遠く育ったのだ。知識的に覚えた気遣うと言う言葉をこれまで幾度と繰り返して覚えようとしたが、結局の所そう言った物は意識してしか使えない不感症なまでの鈍い感情だった。
 だけど先生はバスタブに踏ん反りながらもくいっと顎を上げて
「これはお前とオリヴィエでしか解決しない問題でオリオールとシェフが今晩の晩飯を買いに行く間の時間で十分解決できる問題だ。
 お前と話し合うしか導き出せない答えだから、さっさと話して来るのが一番の近道だ」
 風邪ひくなと言う様にシャツを渡せれてバスタブの水を抜かれれば行くしかないだろう。
「じゃあ、とりあえず行ってくる」
「ゆっくりしてこい。机は、まぁ、先生が何とかするさ」
 言いながらシャツを羽織って、海パン代わりのズボンは水を絞るだけでそのままのようだ。
 俺はとりあえず部屋に戻って服を着替える。ありがたい事に洗濯機が使いたい放題なのでこっちに来て買い足そうと思ってた服はそこまで数は少なくて済みそうだ。
 夏とは言え気過冷却で身体は何処か冷えていたので着替えた服の暖かさにホッとしつつもオリヴィエの部屋の前に立ってノックをする。
「お邪魔するよ……」
 そうして入ればベットに転がるオリヴィエの目は真っ赤だった。
 



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