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裏庭に潜む罠には飛び込むのが礼儀 3

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結局綾人が帰って来たのはイギリスに一泊してきた日の朝だった。ドイツ経由で帰りたかったがそうすると先生と合わずに日本に帰らせる事になるので、さすがに飯田さんからも帰って来いコールが入るのだった。
 そしていつかのデジャブ。
「綾人よ、お前は人のスケジュールを丸々無視してわざわざフランスくんだりまで呼び寄せておいてよく無視してくれたな」
「申し訳ありません。初めての海外が楽しすぎましたので」
 なぜか大理石の床の上で正座をさせられる綾人だがそれは当然かと思いながらもオリヴィエはいつの間にか部屋から出て行き、ちょろちょろと部屋の様子を覗き込んでいた。一応心配してくれているようだが、できればこんな姿を見ないでほしかった。
「あと、お前に会いたくて毎日足を運んでくれていたセシル・デューリーさんに失礼だと思わないのか。オリヴィエの事務所から派遣されたマネージャーだ。所長秘書を務めていたのにお前に振り回されて不憫だな」
「重ね重ね申し訳ない」
 足がしびれてな何度もさすってしまうも先生は用意されたコーヒーを傾けながら俺の方を全く見ようともしない。その隣で何か言いたげにデューリーさんはちらちらと先生を見るも、それすら気付かないと言うように一切無視をしている。さすが教師、視線に対する抵抗力がハンパねぇとどうでもいい事を考えていれば飯田さんがやってきて
「フォレット氏はご一緒ではないのですか?」
 コーヒーのおかわりと焼菓子を持って来てくれた。
 デューリーさんはありがたいと言わんばかりに冷めかけたコーヒーから暖かなコーヒーへとカップを変える。少し甘めの焼菓子に手が伸びるのは焼きたての匂いにつられたからだろうと思う事にして置いた。
「カールは駅で俺と別れて俺が頼んでおいた買い付けをお願いしたよ。
 いろいろ回ってどんなテイストが良いか、仕上がりの雰囲気をどうすればいいか、目指す完成に似た物の共有から後は予算からお任せしてきた。って言っても写真は送ってもらう事にしてあるから」
 そこでキッと凄い視線で飯田さんに睨まれてしまった。予算に対して凄く神経質な気がするが……改装費用と家具の買い付け、ライフラインの補修など城の購入費内に収めると言う縛りが発生したのでそこは皆さんに準じてもらう。もっともそれだけあれば十分だと言ってくれたが、せっかく手に入れたしろ。手抜きはしたくないしその代金の中に庭の管理費は一切含まれていない。それを飯田さんに告白するべきかどうするかは今を持って出来ないでいるのだった。
 最終的には仕方がないですね、そう言ってくれるのを知っているだけに黙っているから怒られるのだろうが……
 どのみち怒られるのなら俺の動きやすいようにしておこうといつものとおり黙っておく事にした。
 さて、と言う様にデューリーさんが口を開くも
「アヤトーお客様だよ。エドガーだ」
「おはようございます。おや?私が一番最後でしたか?」
「おはよう、それでも約束の時間まえだ。俺の事を含めて樹にせずにどうぞ。
 オリヴィエ、オリオールにエドガーの分のコーヒーをお願いして」
「わかった!」
「その後オリヴィエもここに参加だ。お前の話しだからしっかり聞いていろ。
 そして先生はフランス語で話しが進むけど一緒に話を聞く?」
『フランス語で俺に話しかけるな。何を言ってるかさっぱりわからん。
 とりあえずこの話がまとまったら後で話を聞くからせんせーは木でも切ってくる。昼には戻って来るからそれまでに風呂の準備はしておいてくれ』
『そこはぶれないね』
『ネコ足の風呂なんてめったに入れるもんじゃないからな』
 どうやらヨーロッパ風なバスタブをお気に召したよう。広い明るいタイルの部屋にポンと置かれた金のネコ足のバスタブと別の一家にに備え付けられたガラス張りのシャワーブースは前のオーナーの置き土産。最初こそ埃が積って汚かったが風呂に入りたさに磨けば風呂道楽だったのか真新しさが残っていたので今も使用している現状だ。
 シャワーでざっと汗を流しバスタブでゆったりとするのが先生の楽しみ方。何故かいつのまにかテーブルが側に置いてあって、ビールの缶の置忘れを見つけてあの野郎と思ったのは俺だけではないそうだ。って言うかどれだけ風呂に入ってると突っ込まずにはいられない。
 ではごゆっくりと未だに床に座らされている俺を放って草刈りに出掛ける先生を見送った後俺はふらつく椅子に座れば隣に座る飯田さんがそっとコーヒーをどけてくれた。
「綾人大丈夫?」
 オリヴィエの心配そうな声に
「大丈夫。先日の飯田さんのお座りに比べたらまだ平らだから、ましていどで大丈夫」
 レンガの上での正座はきつかったと言えば飯田さんはしれっと「それが教育です」というのだった。フランスに来てから狂犬モードが継続中なので何のストレスがあるのかと思うもオリオールはガキが拗ねているだけだとしか言わない。三十過ぎて難しいお年頃なのねと思う事にして置いた。
 

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