人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
474 / 976

裏庭に潜む罠には飛び込むのが礼儀 1

しおりを挟む
 十二時間のフライト旅行の後に出会ったのは腐った魚のような目をしたシェフだった。
 迎えに来てくれると連絡が入ったから綾人も来たのかと思ったらシェフ一人きりだがしっかりと振り回されたと言わんばかりにやつれた顔をしていて苦労させられてたんだなあと同情はすれど気遣いはしない。
「いらっしゃい。綾人さんにお迎えを頼まれました」
「どーも、せんせーフランス語全く未知の分野だから通訳が来てくれて助かったわー」
 ありがた気もない力のない声でどうでもよさ気に言えば普段のこいつなら神経質に目元をひくつかせるが、今回はそんなこと一切スルーと言わんばかりに
「とりあえず綾人さんの城に案内します」
 と足を運ぼうとするから
「悪い、先に土産買っておく。俺の経験から言えばギリギリまで綾人につき合わされる事になるから帰りに土産を買う時間なんてないはずなんだ」
 言えばシェフは足を止めて「確かに」と呟いた後土産コーナーへと案内してくれた後近くのコーヒーショップを指さし
「じゃあ、俺はあそこで待って……」
「シェフよー、さっきも言っただろ?俺様フランス語は未知の分野だって。
 通訳が居なくてどうする」
 逃げようとする背中を掴んで強引に引っ張っぱるも抵抗しようとするので
「高校生達が土産楽しみにしてるんだ。付き合えよ」
 みんな大好きご飯のお兄さんなシェフはその言葉に渋々と言うように着いて来て、フランス菓子らしいお菓子とアートなポストカードを大量に買った。要らなくなったら捨てればいいし、捨てれなかったら誰かに送ればいいし、フランスらしい芸術のポストカードなららしくていいだろうと言えばかわいそうな子を見る目で俺を見ていた。
 俺お前より年上なんだぞ?
 何が悪いとレジを済ませれば意地でもコーヒーが飲みたいのかコーヒーショップに乗り込んでテイクアウトをしてやっと車へと向かった。
 しばらく無言で車を走らせていたが、都心を抜けた所で無言の居心地の悪さに話しかける事にする。決してシェフの長身の圧迫感が原因ではないと言っておく。
「所であの馬鹿は何を考えて城なんて買ったんだ」
 まっすぐ進む道へと視線を向けたまま聞けば
「街の喧騒が煩くて寝れなかったところにちょうど弁護士さんが話題のネタにってみせてもらったファイルの中に城が売りに出されていたようで、最初は一週間ぐらい借りる予定だったらしいのですがあまりの眠たさに考えるのがめんどくさくなってもう買っちゃえって言う事になったらしいです」
「あいつは……
 体一つしかないのに家三軒もあってどうする」
「何言ってるんです。
 離れも烏骨鶏の小屋も水道が通ってるので家認定ですよ」
 そんなにもあってどうすると思うも器用な事にそれなりにちゃんと活用してるが
「わざわざ外国に、ましてやしょっちゅう遊びに行ける距離にあるわけじゃない所に買ってどうする。俺だってあの山奥から一日がかりで飛行機に乗ったって言うのに、馬鹿じゃないのか?!」
「否定はできませんが、まぁ、城の方もうまく活用するつもりなので良いんじゃないですか?」
 なぜか口元をほころばせて穏やかな顔を隠せずにいるシェフに
「で、その城はどうするつもりだ?」
 聞けば
「俺の師匠が店を閉めましてね、綾人さんのお城で週末にランチの提供位の店を開く事になりました」
「あー、上手く他人を使って城の管理をさせようとしてるな」
 言えばいつの間にか畑も作ってました。まったく人使い荒いですよねとその点ははシェフも相槌を打ってくれた。
「あとオリヴィエ君も住む事になりました」
「はあ?オリヴィエはジョルジュ何とかって言う師の家の養子だから……」
「綾人さんが言うには先は本当に短いそうです。
 入退院を繰り返していたり、俺が知るジョルジュよりも一回り所か二回りも小さくなっている気がして……」
 普通の病気ではないと不安げな声を零す。
「なので、綾人さんはオリヴィエがジョルジュ一家にとってやっかいな存在な事を見ぬいて城に住まわせる事を決めました。オリオール達も住んでいるので大人になるまでは十分に保護下に置くつもりなので俺達が居なくなっても安心していられます。
 本来なら家族に受け継がせていく価値あるバイオリンを養子とは言えオリヴィエに与えたと言うか綾人さんが買い取オリヴィエに持たせた時点であの家族とは仲良くできないでしょうから」
「ああ、オリヴィエの物だったら難癖付けて取り上げる事が出来たが、赤の他人のものになったらそれも難しいからな。賠償金とか考えたらぞっとする」
 なんて言う強引な、喧嘩をしに来たのかと思うも
「で、その当の本人は今どうしている?」
 言えばシェフは黙ってしまうも暫く麦畑を眺める道を走った先にある一軒の立派な石造りの家と言うより城を眺める道に入り、身長よりもはるかに高い柵と門で守られた敷地の中に入っていき車を降りる。
「イギリスで知り合った骨董商のご友人達に連れられてこの城に相応しい家具を求めてヨーロッパ中を飛び回ってます。オーストリアに行くと言って出て行ったはずでしたが先ほどスイスからそろそろ先生が来るはずだから迎えに行ってくださいと連絡がありました」
「なあ、、俺様いらなくね?」
 綾人が居ない上に言葉も判らないのに俺に何をと思うもシェフの奴は大きな石を切りそろ敷き詰められたテラスに置いてあった鋸を持ってきてそんな事ありませんと言う。まぁ、そんな物騒な物を持って来たんだから俺の役割は聞くまでもないのだろうが、あえて無言を貫く。
「綾人さんからの伝言です。
 庭木の手入れをお願いします、って……」
 はいどうぞと差し出されて反射的に受け取ってしまった。
 ちらりと視線を庭木に向ければこの古風な城にはに使わない前衛的な庭木の様子に顔を引きつらずにはいられなく、手にした鋸が何かの呪いのアイテムのようにも見えた。
「これで俺にどうしろと」
 どうやってフォローするつもりだと鋸を持っていなければ頭をかきむしりたい衝動が湧くも
「裏はまだ手を出されてないのでやりたい放題です。改めて計画的にやろうと言ってますが、さすがにこれは木がかわいそうだと言われまして……」
「この木を切った奴連れて来い!」
 思わず喚いてしまうも
「ヨーロッパどころか世界中で人気のあるクラッシックのアーティストの方々にケンカ売るような真似はやめた方が良いですよ」
 芸術家であろうと畑違いとなると大事故が発生する良い例だなとこれ以上の衝動は何とか抑えこめば
「センセー!」
 なぜにこんな所で日本語?なんて振り向けば金の髪と青い瞳のお人形ならぬ輝く瞳のオリヴィエが満開の笑顔で駆け寄ってきて
「ヒサシブリー!マタアエテウレシイヨー!」
 誰が教えたのか片言の日本語でのお迎えに可愛いなと飛びついて来た体の慣性を活かしてそのまま根性で持ち上げてぐるりぐるりと目も少し回してから降ろした所できゅっと抱きしめる。
「オリヴィエ!俺の癒し!!!」
 オリヴィエには難しい日本語のせいか理解は出来なかったが歓迎された事だけは伝わったようで二人して声を立てて笑う様子を飯田は頷かずにはいられない。
「綾人さんが悪魔的なだけにオリヴィエはほんと良い子ですよね。癒しですよね。
 とりあえずオリヴィエ、一度荷物を持って寝る場所へと案内したあと城内の様子を先生に案内してください」
 行ってくださいと送り出すのだった。

 




しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...