上 下
454 / 976

手を入れれば愛着がわくのは判っているのに入れてしまった以上わいた愛着に手放すなんて出来るわけがないだろうと言うのは本当だろうか 13

しおりを挟む
 蚤市でショッピングと言うよりもおなか一杯になってしまい、運動がてらに蚤市の会場を離れて少し歩きながら普通の店も覗きこむ。
 今俺の中に急激に始まったアンティークブームは完全に蚤市のせいだ。
 古い家具を直した物も普通に置いてあり、城に置いてあった家具も一見ぼろぼろでもそれなりに立派な物であった為に直せば昔みたいに立派になるんじゃね?なんて気になってしょうがないと言うのがある。
 まぁ、どれもうちの婆ちゃんのタンスほどじゃないけどねと心の中でドヤ顔。
 美しい装飾や彫刻も綺麗なんだけどね、自然の美にはかなわないのよと樹齢不明の木を思い出してご満悦となる俺を飯田さんは思いっきり不審者を見る目で見ていた。
「家具って見てるだけで楽しいね。買うって言う現実がないだけに純粋に楽しんで見る事が出来る」
「まぁ、今更家具買ってどうするって言うのですから。
 家を建て替える時散々いらない家具をばらした事を思えばとても買えませんね」
 かなりお手伝いしてもらった飯田さんも頷きながらの言葉に少しの恨みを感じてしまう。いや、それ以上のものを用意したのだから後ろめたさを覚えなくていいと自分に言い聞かせながらかなりの年季の入った家具を見て回る。
 チェスト、ライティングテーブル、イス、ランプと年代からもそれぞれ特徴があり
「あ、このベンチテラスに在ったら昼寝しそう」
「だから、買ってどうするのです」
 俺の意見には賛同らしく苦笑紛れに俺でも寝転がれそうですねと実際にゴロンとなっていた。
「これは危険な奴ですね。うっかり本当に寝てしまいそうです」
「本当に寝たら体が痛くなるよ?」
 そこはクッション敷いたりしてとか言いながら
「写真撮って計ったら圭斗作ってくれるかな?」
「きっと作ってくれると思います」
 思わず二人して目を合わせてニヤリと笑う。
「土間のストーブの前に置くのも良いですね」
「確かにいつまでもキャンプの椅子でなくもいいし」
「高さを調節して長火鉢の所でもいいですね」
「いやいや、あそこにこれをもってったらもう動けないじゃないですか」
 二人してニヤニヤしながらベンチを眺めながら家具屋をあとにする。これ以上ベンチの前に居たら何気に持って帰りそうな気がして店員が近づいて来た時点で早足で撤退。そのままいつの間にか膨れた鞄を肩に引っ掛けてメトロに乗り込んで、空いた席に二人して座って
「蚤市ヤバかったー」
「ええ、久しぶりに来たらやっぱり楽しかったですね」
 飯田さんもいつの間にかったのと言う様に鞄を膨らませていた。
 そんなにも何を買ったのと思うも
「昔は給料何てほとんどなかったから。正しく新人扱いでしたので。
 見に来てクロワッサン齧ってるぐらいがせいぜいだったからやっと思いっきり欲しい物を買うって言う野望が達成しました」
「なかなかの壮大な野望で」
 ちらりと鞄の中を見れば何やら箱に入った物がいくつかあって全くよくわからなかったから後で見せてもらおうと思えば
「アンティークのカトラリーですよ。銀食器と言えば分りやすいですね」
「あー、青山さんも好きそう」
「散々自慢されながら育って来たのでいつかは俺もって。
 デパートに行けば買える物ですが、ここの蚤市で買ってやるって言うのが俺の夢でして」
 恥ずかしそうに照れながらの告白はまるで少年が夢を叶えたようなそんな顔。とても数時間前の狂犬と同一人物には見えなく、何気なく少し離れてしまうのは仕方がないだろう。

 なんだかんだ疲れてメトロを下りた所で晩御飯と明日の朝食を飯田さんが買っている間に俺はタクシーを拾ってドライバーさんに行先を伝えていれば直ぐに飯田さんは戻ってきた。メニューは既に決めてあると言った通り本当に早い買い物で車に揺れている間に一瞬の転寝。なのであっという間について飯田さんに起こされると言う失態。だって二人とも徹夜で蚤市ではしゃいで帰って来たと言う同じ条件、先には寝てやらないぞと思っていたのに一人心地よく爆睡。運ちゃんにも良く寝たねぇとお褒めの言葉を頂いて、口元にはしっかりと涎の痕。
「穴があったら入りてぇ……」
「穴に入らずにベットに入ってください。それより先にお風呂に入ります?」
 そんな魅惑的な提案だが今日はホワイトシチューを作ってくれると言うので直ぐには寝ない。本日の飯田さんのホワイトシチューはパイをかぶせるヤツ。
「折角の竈なのでパイで蓋を作っちゃいましょう」
 なんて言われた時は神降臨だと思ったね。
 なので選択はただ一つ。
「飯田さんの料理してる所見てるから気にしないで」
 言えば明るく笑う飯田さんの背中を眺めながらほんとこの人無敵の体力だなぁと感心すると同時にゆっくりとキッチンの様子をみる。
 みんなで草を刈って、こよなく料理を愛する人に磨かれたキッチン。そして今に続く何百年前からある暮しを体験できるこの城に愛着を持ち出しているのは当然で、一週間の仮の住まいだと言うのに今確かに家に帰って来たと言う安心感に包まれている。見知らぬ国の慣れない言葉にやはり緊張しているのだろう。だけどこの城に一歩入ればそんな緊張とは無縁の場所。
 ほっと息を吐けばぐずぐずに緊張が解けて眠りこけてしまいそうになりそうだからと足を踏ん張って立ち上がる。自分が買った荷物を手に、でもベットの側に置いて無理やり体を動かしながらその後は率先してキッチンで買い物をした物を仕分けながらふと手が止まる。 
 何か大切な事を忘れている気がして眉間を狭めながら思い出す俺に
「どうしました?」
 飯田さんが貯蔵庫から籠に野菜を入れて持って来る姿を暫し眺めながら思い出していればようやくこの思い出せそうで思い出せない何かが詰まったのに吐きだせない気持ち悪さが用意された二人分の食器を見て解決した。

「飯田さん!オリヴィエを忘れて来ちゃったよ!!!」
「……は?え、あーっっっ!!!
 帰り道に拾って来る約束でしたっけ?!」

 外を見れば薄暗い夕闇が迫っていて
「すぐ迎えに行きましょう!」
「うん、ちょ、先連ら……」
「車の中でお願いします!」
 慌てて車のキーを持ち出して来て俺の手も掴んで飯田さんの車に乗り込む。
 車の中からすぐ側まで来てるから準備しててと連絡を入れればすぐに行けるよとの返答が秒で来た。
「うわ、ちょ、飯田さん。オリヴィエめっちゃかわいいんだけど!!!」
「良いですか。間違っても忘れてたなんていったらいけませんよ?!」
「言うわけないよ!言えないよ!」
「ほんと近くて助かりました!!!」

 数分の後にマイヤーの邸が見えて来て、俺が降りてチャイムを鳴らしている間に飯田さんは狭い道でも器用に車を反転。
 すぐに飛び出してきたオリヴィエは何処か物凄くホッとしたような安心を無防備に俺達に向けて
「随分遅くまで出かけてたんだ」
 どこか目を赤くしての生意気な声に悶えながらも
「ちょっとトラブルもあったし、いろいろ買い込んで一度家に戻らなくちゃいけなくなったから……」
 なんて家の前を一度通り過ぎた言い訳は言わずにオリヴィエの視線を遮るようにぐりぐりと頭を撫でていれば擽ったそうに笑う様子をマイヤーが見守っていて、顔は笑っていてもその視線は来るのが遅いと語っている。
「さあ、明日一日はオリヴィエの為に空けてあるから、どこか案内してくれてもいいし、一緒に城の掃除をするのもオツだぞ?」
 なんて提案は罰ゲームだなとマイヤーが笑えば
「だったら城の掃除をしよう!探検もしたいし、屋根裏とか地下倉庫とかあるかな?
 そう言うの見て見たいよ!」
「……」
 すっかり失念していた。
 このお子様がバイオリン以外何もさせてもらえなかったと言う虐待された子供だと言う事を。
「いいのか?もっと別の有名な城とかじゃなくて?」
「いいんだよ。有名なのはお金払えばいつでも見に行けるけど、綾人が住んでる城は綾人が居る間だけしか見れないから」
 耳を真っ赤にして甘えるオリヴィエに俺達は三人そろってお前可愛いなとほっこりしてしまう。
「では早々に戻りましょう。マイヤーもおやすみなさい」
 車の中からの飯田さんの挨拶に
「ああ、オリヴィエの事を頼むぞ」
 挨拶が終われば早く行こうと車に乗って
「じゃあ、明日は暗くなる前に帰るよ」
「ああ、待ってる。ちゃんとイイダからお土産をせしめて来るんだぞ」
「もちろん!」
 何だそれはと笑いながらも車を出して歩くには微妙に遠く、でも車では数分の城へと戻る。

 今夜は長い予感がするけど、既に徹夜明けで歩き回り一瞬落ちた転寝が誘い水のようになって案外早々に寝てしまいそうだ。オリヴィエと楽しくご飯を食べた後は足りない寝具に俺と飯田さんのベットを並べて三人で寝ればいいと狭いながらに転がって、飯田さんの狂犬ぶりや初めての蚤市の話しをしている間に寝てしまったのはいつの間にか俺にしがみつく様に寝ていたオリヴィエの温かさと、ほそっこいと思っても成長期の男児の重みに腕がしびれて何とも言えないうめき声で皆様を朝っぱから起こすと言う情けなくとも賑やかな朝を迎えるのだった。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

仮面の恋

BL / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:6

風のささめき

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:390pt お気に入り:0

転生先はもふもふのいる世界です

BL / 連載中 24h.ポイント:1,356pt お気に入り:884

お隣さんは〇〇〇だから

BL / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:11

妻に不倫された俺がなぜか義兄に甘々なお世話されちゃってます

BL / 完結 24h.ポイント:2,520pt お気に入り:1,471

liberation

BL / 完結 24h.ポイント:1,150pt お気に入り:4

婚約破棄されまして(笑)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,812pt お気に入り:16,896

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,775pt お気に入り:17,065

処理中です...