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手を入れれば愛着がわくのは判っているのに入れてしまった以上わいた愛着に手放すなんて出来るわけがないだろうと言うのは本当だろうか 12
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朝食を食べて皆さんは本日の営業に向けてこのまま準備に取り掛かると言う。夜中のうちに準備は既にしていたらしく、交代で休憩を取りながら営業に影響が出ないように細心の注意を払うと何故か飯田さんに報告をするのだった。
皆さん飯田さんがスーシェフだった時が一番怖かったと言った通りの調教完了済みの恐怖は今もちゃんと見に沁みついているようで昨晩話しを始めた時の姿とはまるで違うピシッと背中を伸ばして視線を誤魔化さないように顔を上げていた。
……なんて言う軍隊ですか?
ちらりと隣に立つ飯田さんを見ればどこか満足げな顔をしていていたが、俺が見ている事に気付けばふいっとそっぽを向いてしまった。どうやらまだ忠犬の中に潜む狂犬が表に出かけているのだろう。溜息が出てしまうが、まだ世間一般的には早い時間。飯田さんは食べた食器を洗うのを手伝い終えた所で
「綾人さん、今から蚤市に行くにはちょうどいい時間でしょう」
予定通りのスケジュールにまさか時間を潰す為にここに残ったとか言うんじゃないだろうな、なんて頭の隅で考えながらも
「じゃあ行こうか。ご飯ご馳走様でした。
昨日のディナーより今日の朝ごはんはすごくおいしかったです」
嫌味で言えば皆さんその嫌味には十分理解をしていただき
「また食べにおいで。その時はちゃんと俺達が一流のシェフだっていう事を証明してやるから」
言いながらもちらちらと飯田さんを見る始末。
「よっぽど怖いんだね」
って飯田さんと少し距離が離れた所でジョエルに言えば
「こんなもんじゃない。だからだいぶ丸くなって驚いてたのに、相変わらずだった」
そんな苦笑。
やっぱり忠犬の皮をかぶった狂犬だったかと俺の中の優しい兄貴な設定は綺麗に消え去っていた。
だってねぇ
「冷蔵庫とか扉ボコってたけど大丈夫?」
「ああ……」
それだけ言って目が死んでしまった。
「悪い、思い出さないでくれ」
慌ててストップをかけるも思い当たるのは昨日の真夜中に聞こえた鈍い音に身体の方が大丈夫か心配になる。辛うじて復活したジョエルがいや、と断って
「あの傷を見ればカオルの事を思いだすからね。もう自分を甘やかさないよ。
それにカオルは食材や調理器具に関してはとても丁寧に扱う。
大丈夫。ちゃんと問題なく使える程度には手加減しているから心配ない」
虚ろな瞳で感情なく言葉を吐くジョエルに
「むしろ心配しかないです」
何その分け判らない気配り。顔が引きつってしまう中皆さんに見送られる形で通りを歩きながら蚤市が開催されている方面に向かうメトロに乗り込む。
さすが十年近く生活していただけあって地の利があるのねと感心しながら
「飯田さん」
「はい」
メトロの雑音の中で俺の少し低い声に飯田さんもどこか強張る返事。
少し無言の時間を過ごしながら
「物に当るのは立派なパワハラ行為です。今後こう言う事がないようにお願いします」
「はい。二度といたしません」
本当かどうかはまだわからないが、とりあえず山の家の物を壊さないでくれと願うのは飯田さんなら土壁位平気で壊してしまう気がしてしまったからだろうか。
どんな感じか想像している間に目的地へと着けば既にメトロに乗っていた時点で気付いたように賑わいと活気にあふれていて
「すげぇ!知識として知っていたけど本当にいろんなものがある」
もうさっきまでの反省会タイムは終了だ。となれば
「ここは比較的治安も良いので観光客も多いんですよ。
書籍もアンティークなジュエリーなどは勿論絵画なども販売されてます」
案内通り山積みの本や絵をかいてる人、そしてストリートオルガンを弾いている人もいれば軽食まで販売されていた。
「なんかお祭りみたいだ」
「まぁ、一種のお祭りですね。
値段交渉もしてくれる人もいるのでもしお買い物をする場合は聞いてみると良いですよ」
「なるほど、それも醍醐味か。
ああ、でも見てるだけでお腹いっぱいになりそう」
「毎週やっているのでそのうち見慣れると言う罠が待ち構えてますよ」
「そこまでの常連さんになるつもりはない。だけどだ」
タイルアートだろうか、モザイク画の美しい鍋敷きがそれなりのリーズナブルなお値段で売っていたので
「これは貴方が作った物ですか?」
店番をしている野暮ったい眼鏡をかけてる人に声をかければ
「ああ、うちは陶器を焼いていてね、ダメになった物を割った時に出た物を再利用した物だ」
まさかの職人の副職の背後では別の人も他のお客さんの相手をしている。
「同じ職場の人?」
「ああ、うちのボスがやりたかったら仕事に差し支えない程度でやっていいぞってことになってね。みんなで協力して廃材のリサイクルに取り組んでいる」
「うん。考え方がエコだ」
そう聞かされれば十個ほど鍋式を選ぶ。
同じタイルを使っているものの作っている人は別々だろう。
素人目に同じ人が作ったと思う図案を二つずつ選べば
「誰かへのプレゼントかい?」
「ああ、俺の国じゃなかなかこう言ったのは見ないからな」
最初に手を取った幾何学模様の物もあれば何やら花をモチーフにした物、ひょっと職人ですかと言った風景画から日々の暮らしを描いたモザイクが。うん、細かい図案にプロの本気の遊びだと言う事を理解する。
ほら、俺の周りそう言った謎の技術持つ人多いから俺簡単にはビビらないよ。
単純に気に入った絵柄だが、チョイスの仕方に統一性が無くて
「ずいぶん趣味の幅は広いんだな」
「まぁ、この身は千差万別ってね」
俺が使うわけでもないからと言う言葉は出さずに袋に入れてもらっても破れそうなので、すぐ隣で鞄を売っていたのでトートバックを買ってそれに入れてもらう。
お隣のお店のおばさんも苦笑しながらも買ってもらえてラッキーだわと機嫌を損なう事なく笑ってくれるので俺達もこんなに素敵なタイミングで出会えるなんてラッキーだと笑ってその場を離脱した。
バックを肩にかけながらポツリと一言。
「ヤバい、思ったより衝動買いしそうで怖い」
「まぁ、向こうからしたら思いっきり観光客に見えたでしょうから売りつけてきますよね?」
「その時はワタシフランスゴワカラナーイで通すよ」
来たばかりでこの荷物じゃ土産だらけで鞄が爆発しそうだ。そして圭斗に『また買い物しすぎ』と怒られるのだろう。嬉しい気持ちを押し隠して俺が増長しないように叱ってくれる貴重な友人には沢山のお土産を買ってくると宣言したが、それでも買い過ぎだと叱られるのだろう。
旅行などあまりした事ないけど、就職で一度地元を離れている間はあちこち見て歩いたと言う通り今までの旅行ではないがそう言った思いは解消したと言っていた。まぁ、それも思いの半分以上を飲み込んでの言葉だろうが。だからか圭斗は俺が山に固執するのをよく思ってないようだし、今回の旅行を一番に喜んでくれた。何をしでかすのかも心配してくれていたが常に背中を押してくれる親友に沢山の形で恩に報いたいと思うのは俺の心の問題なので、たとえ圭斗でも文句を言わせない。
なんて考える合間に飯田さんがパンを売ってる店を発見してクロワッサンを買っていた。勿論俺の分も買ってくれていて
「昔よく買った物です。まだ来てたとは思わなかったけど、こうやって荷物にならない物なら構わないでしょう」
聞けば蚤市の日には深夜に起きて沢山のパンを焼いて持ってくると言う。仕込みを逆算すればこれだけの量じゃ大変だと驚いてしまうも、こねたり整形したりするのは主にご主人と息子さんの仕事で、奥さんは二人が寝ている間にこうやって販売に来ると言うパターンらしい。ちなみに普段は農家をしていると言う。
こう言った店を持たずに蚤市の販売を生業にしている人も結構いるらしくってクロワッサンを食べ歩きしながらいろんな店を覗いて行く。
バターたっぷりのクロワッサンの油分が指にしっかりと着いてしまいあまり商品に障る事が出来なくなると言う飯田トラップに嵌ってしまった俺はそこからあまり買い物が出来なくなってしまい、それでもめげずに色々な店を覗き込んでは去っていくと言う冷やかしを繰り返しながら通りを抜け出る事が出来た。
皆さん飯田さんがスーシェフだった時が一番怖かったと言った通りの調教完了済みの恐怖は今もちゃんと見に沁みついているようで昨晩話しを始めた時の姿とはまるで違うピシッと背中を伸ばして視線を誤魔化さないように顔を上げていた。
……なんて言う軍隊ですか?
ちらりと隣に立つ飯田さんを見ればどこか満足げな顔をしていていたが、俺が見ている事に気付けばふいっとそっぽを向いてしまった。どうやらまだ忠犬の中に潜む狂犬が表に出かけているのだろう。溜息が出てしまうが、まだ世間一般的には早い時間。飯田さんは食べた食器を洗うのを手伝い終えた所で
「綾人さん、今から蚤市に行くにはちょうどいい時間でしょう」
予定通りのスケジュールにまさか時間を潰す為にここに残ったとか言うんじゃないだろうな、なんて頭の隅で考えながらも
「じゃあ行こうか。ご飯ご馳走様でした。
昨日のディナーより今日の朝ごはんはすごくおいしかったです」
嫌味で言えば皆さんその嫌味には十分理解をしていただき
「また食べにおいで。その時はちゃんと俺達が一流のシェフだっていう事を証明してやるから」
言いながらもちらちらと飯田さんを見る始末。
「よっぽど怖いんだね」
って飯田さんと少し距離が離れた所でジョエルに言えば
「こんなもんじゃない。だからだいぶ丸くなって驚いてたのに、相変わらずだった」
そんな苦笑。
やっぱり忠犬の皮をかぶった狂犬だったかと俺の中の優しい兄貴な設定は綺麗に消え去っていた。
だってねぇ
「冷蔵庫とか扉ボコってたけど大丈夫?」
「ああ……」
それだけ言って目が死んでしまった。
「悪い、思い出さないでくれ」
慌ててストップをかけるも思い当たるのは昨日の真夜中に聞こえた鈍い音に身体の方が大丈夫か心配になる。辛うじて復活したジョエルがいや、と断って
「あの傷を見ればカオルの事を思いだすからね。もう自分を甘やかさないよ。
それにカオルは食材や調理器具に関してはとても丁寧に扱う。
大丈夫。ちゃんと問題なく使える程度には手加減しているから心配ない」
虚ろな瞳で感情なく言葉を吐くジョエルに
「むしろ心配しかないです」
何その分け判らない気配り。顔が引きつってしまう中皆さんに見送られる形で通りを歩きながら蚤市が開催されている方面に向かうメトロに乗り込む。
さすが十年近く生活していただけあって地の利があるのねと感心しながら
「飯田さん」
「はい」
メトロの雑音の中で俺の少し低い声に飯田さんもどこか強張る返事。
少し無言の時間を過ごしながら
「物に当るのは立派なパワハラ行為です。今後こう言う事がないようにお願いします」
「はい。二度といたしません」
本当かどうかはまだわからないが、とりあえず山の家の物を壊さないでくれと願うのは飯田さんなら土壁位平気で壊してしまう気がしてしまったからだろうか。
どんな感じか想像している間に目的地へと着けば既にメトロに乗っていた時点で気付いたように賑わいと活気にあふれていて
「すげぇ!知識として知っていたけど本当にいろんなものがある」
もうさっきまでの反省会タイムは終了だ。となれば
「ここは比較的治安も良いので観光客も多いんですよ。
書籍もアンティークなジュエリーなどは勿論絵画なども販売されてます」
案内通り山積みの本や絵をかいてる人、そしてストリートオルガンを弾いている人もいれば軽食まで販売されていた。
「なんかお祭りみたいだ」
「まぁ、一種のお祭りですね。
値段交渉もしてくれる人もいるのでもしお買い物をする場合は聞いてみると良いですよ」
「なるほど、それも醍醐味か。
ああ、でも見てるだけでお腹いっぱいになりそう」
「毎週やっているのでそのうち見慣れると言う罠が待ち構えてますよ」
「そこまでの常連さんになるつもりはない。だけどだ」
タイルアートだろうか、モザイク画の美しい鍋敷きがそれなりのリーズナブルなお値段で売っていたので
「これは貴方が作った物ですか?」
店番をしている野暮ったい眼鏡をかけてる人に声をかければ
「ああ、うちは陶器を焼いていてね、ダメになった物を割った時に出た物を再利用した物だ」
まさかの職人の副職の背後では別の人も他のお客さんの相手をしている。
「同じ職場の人?」
「ああ、うちのボスがやりたかったら仕事に差し支えない程度でやっていいぞってことになってね。みんなで協力して廃材のリサイクルに取り組んでいる」
「うん。考え方がエコだ」
そう聞かされれば十個ほど鍋式を選ぶ。
同じタイルを使っているものの作っている人は別々だろう。
素人目に同じ人が作ったと思う図案を二つずつ選べば
「誰かへのプレゼントかい?」
「ああ、俺の国じゃなかなかこう言ったのは見ないからな」
最初に手を取った幾何学模様の物もあれば何やら花をモチーフにした物、ひょっと職人ですかと言った風景画から日々の暮らしを描いたモザイクが。うん、細かい図案にプロの本気の遊びだと言う事を理解する。
ほら、俺の周りそう言った謎の技術持つ人多いから俺簡単にはビビらないよ。
単純に気に入った絵柄だが、チョイスの仕方に統一性が無くて
「ずいぶん趣味の幅は広いんだな」
「まぁ、この身は千差万別ってね」
俺が使うわけでもないからと言う言葉は出さずに袋に入れてもらっても破れそうなので、すぐ隣で鞄を売っていたのでトートバックを買ってそれに入れてもらう。
お隣のお店のおばさんも苦笑しながらも買ってもらえてラッキーだわと機嫌を損なう事なく笑ってくれるので俺達もこんなに素敵なタイミングで出会えるなんてラッキーだと笑ってその場を離脱した。
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「ヤバい、思ったより衝動買いしそうで怖い」
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旅行などあまりした事ないけど、就職で一度地元を離れている間はあちこち見て歩いたと言う通り今までの旅行ではないがそう言った思いは解消したと言っていた。まぁ、それも思いの半分以上を飲み込んでの言葉だろうが。だからか圭斗は俺が山に固執するのをよく思ってないようだし、今回の旅行を一番に喜んでくれた。何をしでかすのかも心配してくれていたが常に背中を押してくれる親友に沢山の形で恩に報いたいと思うのは俺の心の問題なので、たとえ圭斗でも文句を言わせない。
なんて考える合間に飯田さんがパンを売ってる店を発見してクロワッサンを買っていた。勿論俺の分も買ってくれていて
「昔よく買った物です。まだ来てたとは思わなかったけど、こうやって荷物にならない物なら構わないでしょう」
聞けば蚤市の日には深夜に起きて沢山のパンを焼いて持ってくると言う。仕込みを逆算すればこれだけの量じゃ大変だと驚いてしまうも、こねたり整形したりするのは主にご主人と息子さんの仕事で、奥さんは二人が寝ている間にこうやって販売に来ると言うパターンらしい。ちなみに普段は農家をしていると言う。
こう言った店を持たずに蚤市の販売を生業にしている人も結構いるらしくってクロワッサンを食べ歩きしながらいろんな店を覗いて行く。
バターたっぷりのクロワッサンの油分が指にしっかりと着いてしまいあまり商品に障る事が出来なくなると言う飯田トラップに嵌ってしまった俺はそこからあまり買い物が出来なくなってしまい、それでもめげずに色々な店を覗き込んでは去っていくと言う冷やかしを繰り返しながら通りを抜け出る事が出来た。
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