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手を入れれば愛着がわくのは判っているのに入れてしまった以上わいた愛着に手放すなんて出来るわけがないだろうと言うのは本当だろうか 5

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 キッチンの大きなテーブルに色とりどりの料理が並んでいた。
 昨日の夜から煮ている骨付きチキンのスープをメインとしてラザニア、ファルシ、お豆がいっぱいサラダ、パンは生ハムや生野菜などをたくさん詰め込んだサンドイッチ、デザートには表面がこんがりと焼けたチーズケーキと焼きリンゴが用意されていた。
「飯田さんサイコーです!お昼にこんなにも用意してもらえるなんて!」
「ふっふっふっ、綾人さんが食費を用意して下さったので作りたい放題でした」
 満足と言ういい顔をした飯田さん。
 美味しい料理に俺も満足なので渡した財布の軽さなんて気にならない。というかカードだけど。ほら、うちに来る時いろいろ買って来てくれる奴の為に渡しているアレ。一応警戒して使えばすぐに連絡来るし俺もまめにチェックしているけど飯田さんは一度も不正をした事がなく信頼は十分だ。勿論時々青山さんからお土産頂いたり、飯田さんからのプレゼントでスーパーでは手に入らない食材を自ら足を伸ばして入手してくれる。ビックリするようなお高い奴を。渡したカードも使うけど自分の身もちゃんと切るのでいい関係が出来ていると俺は思っている。なのでこう言う時ぐらい好きな買い物をしてもらい楽しんでもらえればと思う。
 結果、美味しい料理を食べれるからね。
 現金だと笑えばいい。
 食費は渡せるけど料理を作る飯田さんの手はそこら辺に売ってないのだ。お金で買えないのだ。その価値を思えば食費の消費位問題ではない。
 毎回青山さんのレストランで食べる事を考えたらとてもリーズナブルだ。
 感動に浸りながらも容赦なく誰ものカトラリーが止まる事はない、お昼は平和的に取り分けられていたのでオリヴィエが泣く事も俺がはしたないと言われる事もなくワイワイと話が弾む。
「へえ、皆さんあちらのお屋敷で一週間ほど滞在してたのですか」
 今更ながらに知った事実。
「今スタジオを借りて録音をしていたからね。ホテルでゆっくり過ごすのも悪くはないが、年寄には乾燥しすぎてな。少し遠くなるがこちらに来る時はあの別宅で過ごしている」
 何か今セレブな発言を聞いた気がする。
「ご自宅なのではないのですね?」
「南フランスに本宅があるさ。妻が北より南が良いと言うのでな。
 温かい方が良いと今頃向こうは向こうで知り合いの音楽家たちを集めている魔女の集会だよ」
 マイヤーはよほど怖いと見えてか首をすくめて身を震わせる姿に誰もが笑う。
「今回はジョルジュの見舞いも兼ねて集まって、もう大半が去って行った後だが、オリヴィエを様子を見たくて残った奴らもいるからな」
 誰もがニヤニヤとベルナールを見て
「自称ライバル様がバイオリン辞めるって言ったらどうしようって、一人パニックになってて面白かったなぁ」
 料理の具材の切り方をよく見ながらクロードが笑う。
「しかもオリヴィエが急に上手くなって大騒ぎでPCのモニターにかじりついてたし?」
 食が細いようだがしっかりと食べながらジャンも笑う。
「絶対ベル一人で百回は再生してるよな?」
 口にいっぱい頬張りながら幸せそうに笑うのは料理に対してのノアに
「さらに作曲までして、今のこいつの一人遊びは作曲なのが笑えるし」
 実は既婚者で子供まで居るニコラは食べきれなかった料理があったら奥さんに食べさせてあげたいなあとぼやく始末。残念ながら残る予定はない。と言うか残るわけがない。
「みんな煩いよ!!!」
 顔を真っ赤にしてベルナールは怒るもマイヤーまで
「ほら、席に座って食べる。もともとお前とオリヴィエじゃ絶対的練習量が違うんだから。オリヴィエはただの天才じゃない。他の総てを持つ事なくバイオリンに人生を捧げたのだから。お前みたいに女の尻を追いかけてる時間も練習しているオリヴィエに追いつけるわけないだろう」
 呆れ果てるもベルナールは至極真面目な顔をして
「オリヴィエよ、お前の人生それだけでいいのか?」
 バイオリンしかない人生で本当に良いのかと、誰も聞き慣れている言葉のように、そして問われ続けているように表情が変わる事無く幸せそのものに飯田さんのご飯を食べるオリヴィエは
「今はバイオリンだけじゃない。作曲もまだ全然だけど面白いよ。中々音楽にならないのに、何かのきっかけで音が溢れだして来るんだ。それを繋ぎ合わせてメロディを作る。上手くまだ形にできないけど、向かい合って行くと気が付けば音楽になってるんだ。まだバイオリンだけのメロディしか作れないけど」
「なになに、そこまでできたら私が幾らでも編曲してやろう。編曲の仕方も教えてやる。あの未完成曲をまずは完成させよう。
 そしてベルナールよ、お前もいい加減オリヴィエのような言葉を一度ぐらい言って見よ」
「俺はまだまだアレンジが精いっぱいですねー」
 何だか流れが悪いぞと言いながら口に骨から外したチキンを頬張る姿を皆が笑う。
「どっちにしてもオリヴィエは長い休みを得て沢山の成果を残したと言う所だ。そしてこれからも忙しくなるな」
 そうか?と言う当のオリヴィエは骨にしゃぶりついているあたりまだまだお子様だ。










 

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