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眠れぬ夜に戦う為に 5

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「綾人さんは目を離すとすぐこれだ」 
「はい、いろいろご心配おかけしまして申し訳ありません」
 飯田さんと約束した時間から遅れて会った瞬間からの開口一番の言葉がこれだった。


 山の家を出てホテル暮らしになってから聞き慣れない物音のせいでまともに眠れなく寝不足に陥っていた所に寝不足で正常な判断が出来なくなった頭で仮契約で住みついた廃墟とも言っても良い一応は城での宿泊は恐ろしいまでの深い眠りを与えてくれた。飯田さんとの約束があるので目覚ましをかけていたから目が覚めたけど移動時間をすっかり失念していた上に、その前に飯田さんがもし起きているのなら一緒にカフェ巡りしませんかとのお誘いはホテルの下のカフェで待っているとの連絡からのあまりに返答がないのでロビーで問い合わせれば宿泊をキャンセルして出て行ったとの言葉。どこに行ったのか、何かトラブルに巻き込まれたのかと俺を知る数少ない人達と何か連絡がないかと大騒ぎした所でやっと通じた俺からの連絡。
「寝坊したので少し遅れて行きます」
 うん。怒っても仕方がない懸案だった。
 タクシーに迎えに来てもらう様に連絡をして急いで顔を洗い身支度をして意外とすぐにタクシーが来た理由はこれから出勤と言うこの近所の人が迎えに来てくれたから。とりあえずスマホで待ち合わせの店の地図を見せればここのクロワッサン美味しいと教えてもらい、色々なカフェ情報を貰うのだった。
 そんなこんなで待ち合わせのカフェに向えば店の入り口すぐ横で腕を組んだ仏頂面の飯田さんが待ち構えていた。
 おおう、想像以上のご立腹状態。そして飯田さんに巻きこまれた皆様も勢揃いしていた。
 そして開口一番からの説教。
 うん。お父様方に向けるような容赦なさにレベルアップしてきた気がする。
 「大体ホテルを出てどこで寝てたんです」
 とりあえず移動して店の奥でクロワッサンとコーヒーを頼む。
「うん、なんか家を出てから眠りが悪くてさぁ」
「そう言えば昔みたいに目つき悪くなってましたね。じゃあ何ですか?あれ、睡眠不足でギザギザハートの遅れてやって来た反抗的な?」
「言ってる事判りませーん」
 ジェネレーションギャップだねと言いながらコーヒーを啜れば地味に飯田さんがダメージを受けていてザマアと心の中で笑っておく。
「とは言え、どこかに移動するのなら知り合いに連絡をするのが大人としてのマナーじゃないのかな?」
 同じようにコーヒーを傾ける朝っぱらから飯田さんに呼び出された心労が隠せない顔のオリオールの忠告にまあねと頷くも
「昨日は買い物をするに当たり弁護士さんエドガー・ベクレルって言うんだけど……そう言うあオリオールさんと同じ名前ですね。よくある名前なのですか?」
「ああ、割とよくある名前だ。それよりその弁護士は信用あるのか?」
 今も借金の支払いに顧問弁護士さんと話し合いが続いているオリオールさんの返済計画は破産手続きに踏み切ったと言う。信頼を取り戻すには時間がかかり、家族に見放された物の友人達には恵まれており、今は就職活動中だと言う。元三ツ星シェフとは言え今は何所も雇ってもらえないのは年齢が一番の問題だからだろう。
「一応俺がお世話になってる人からの紹介だから信じる事にしている」
 でなかったら何を信じればいいのか判らないし、一応フランスの法律も勉強しておいた。
 法律と言うのはその国の国民性がギュッと詰まっていてそれを見ればどんな国かがよくわかる。とは言え微妙なニュアンスまでは判らない。言葉通りの表面的な額面をそのまま見る程度しか時間がなかったので弁護士の言葉とすり合わせて理解するしか出来ないが、折角高いお金を出して雇ったのだ。誠実な人ならこれからもつき合えばいいだけだし、そうでなければ他の人を雇えば良いだけ。それぐらいの事が出来る程度には警戒はしているつもりだったんだけどまともな判断が出来なかった昨日でもうなーなーになってしまった。
「で、どこに行ってたんです?」
「カオル、まるで嫉妬する女のようだぞ」
 男の嫉妬はみっともないとオラスが呆れたように溜息を零していい加減彼女の一人ぐらお作れと言うが、彼女は一人ではいいのではないのかと思う辺りフランス人との考え方の差だと思う事にして置いたが
「皆は綾人さんの事を知らないからそんなこと言えるんだ。
 綾人さんを放っておいたらぜったい何かしでかすに決まっているのですから!」
 力強く言い切った飯田さんにみんなは呆れた顔をしていたけど改めて飯田さんは言う。
「で、昨日はどこに?」
「ええと、お城でお泊り?」
 ちょっとかわいく首を傾げてみればこれ以上とないくらい飯田さんの顔は何を言ってると言うような凶悪さを増していた。見慣れているとは言ってもちょっと肝が冷えた。
「で、どちらのお城に?」
「ええと、知り合った弁護士さんが紹介してくれた廃墟?
 あ、でも、電気も水道もトイレも使えるよ。トイレはちょっとリフォーム入れたいけど?」
 こめかみに浮かんだ血管に隣に座るオリオールさんにしがみついてしまう。守ってくださいって。
「ひょっとしてですが、まさかとは言いませんよね?買ったなんて言いませんよね?」
 俺が何を言おうともまったく信じない視線で睨みつけるも俺はそっと視線を反らせながら
「一週間のお試し的な?」
 まさか書類をそろえてもらってるなんてとてもじゃないけど言えないけどそこは気づかれないように全力でスルー。
「お試しと信じていいのですね?」
 どう転ぶか判らないけど
「とりあえずは静かでいい所です」
「とりあえず?とは……」
 しまった。要らない事を言った……
 そっと視線を反らせながら
「だって、ホテル暮らししてて思ったんだけどうるさいって言うか人の気配、あれ無理って言うか……
 寝れなくて飛びつきました」
 しばらく言葉を吟味するかのように身動きしなかった飯田さんが手を目に当てて呻きだした。
「まさか東京生まれの東京育ちの癖にあの田舎暮らしの弊害があるなんて……」
 都会の喧騒から逃れてきた飯田さんには言われたくないと思うけど
「だったらその城を一度見学に行けば良いだろう。カオルの心配症は今に始まった事じゃないからな」
 リヴェットのもっともな言葉に頷くように椅子に座り直し、クロワッサンとコーヒーを飲んで綾人が仮住まいとしている城を見てやっと俺の反応が正常だとオリオールは理解してくれた。

「カオル、アヤトはこの城をどうするつもりだろうか?」
「さあ?ただ言えるのはこの城の敷地は綾人さんに取ったらとても見慣れた物なので……
 最悪な考えしか浮かびませんが、全力で阻止したいです。多分もう遅い気がしますが……」
 付き合いも長くなると俺をよく理解してくれると心の中で褒め称えるのを気づかれないように室内に案内してコーヒーをお出しして誤魔化す綾人だった。


 
 

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