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行動力ある引きこもり程面倒でしょうがない 9

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 こんどは明るい小路を逃げる様に少し急ぎ足でバラ園へと向かう。
 俺の思い込みだけどやっぱりイギリスはバラへの愛着が素晴らしく品種改良を重ねた種類はうっかり手を出せばコレクターになってしまいそうで恐ろしいと俺の中では手を出してはいけない植物になっている。気候的にもあの山の家でも育てられそうだし、土地だけはいくらでもある。育てられる場所もあるしバラの棘に山の動物たちは齧りに来ないだろうけど花芽は食べられるだろうなと想像以上に意地汚い鹿の奴らを思い出す。バラ園何て作っても誰が管理するんだと思うも一人ノリノリで面倒見てくれそうな人は心当たりある。彼女の花畑の側に作ったら面倒見てくれるだろうかと車庫の周りに作るべきか悩みながら宮下のおふくろさんならやってくれるはずと妄想の中のおばさんは腰に手を当て
「綾人君!新しく趣味を持つのはいいけど一体誰が管理すると思ってるの?!」
 お願いもしてないのに自ら剪定をして家からバラの匂いが溢れるのは想像に容易すぎると長谷川さんの所の園芸部にもちょっと話しを漏らしておけば完璧だとニヤニヤしながら計画をしてしまう。
 いや、バラには手を出さないよきっと?
 ちょっと危きそんな思いの中でバラを見ればちゃんとタグを付けてくれているので気になる品種はちゃんと写真に記録を残しながら近くのベンチに座ってスマホでバラの育て方を学ぶのだった。
 そうすれば案の定庭師の方がお見えになった。
 これだけの規模の庭を維持するには営業中だからと言って手入れをしないと言う選択はない。むしろ居てくれる方がちょうどよく
「こんにちは。素敵なお庭ですね」
 複数付けた蕾の摘花をしているお爺さんに声をかければ
「いらっしゃいませ。お邪魔して悪いね」
 言いながら仕事道具を片付けようとしたので
「いえ、良い物を見せてもらってますのでそのまま仕事を続けてください」
 言えば嬉しそうに目尻に皺を寄せる。
「こちらにはお食事で?」
「お世話になってる人が随分昔に来た事があって、その話を思い出して宿泊を兼ねて遊びに来ました」
「おお!それは何と言うめぐりあわせ」
 目を見開いておでこに皺を寄せて喜ぶ庭師のお爺さんに
「それにしても見事なバラ園ですね。数百種類はありますか?」
「年寄りの道楽だ。種類ごとに皆個性が違う。手のかかる子供がたくさんいるような物だ」
「だけどその個性を総て熟知してらっしゃる。さすがです」
 苗を見ればすべてが咲き乱れているわけではなく、剪定する事によってその苗の一番のシーズンが隣の株と重ならないように調整をしている。
 きっと四季咲きのバラで調整しているのだろうが多分一年中バラが咲くこの庭はこの庭師の仕事に寄る物だろう。
 目の前でパチンパチンと蕾を落したり、花が終わった苗は気持ちいいほどばっさりと切り戻して行く。背丈ほど伸びたのにそこまで切り戻すのかと腰ほどの高さになった苗に驚いていれば驚かせれた事に満足してちょっと機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら仕事に励む様子をコッツウォルズストーンの花壇の縁に移って飽きもせずに見続け、小一時間ほどそこで過ごしてから
「では裏の花壇の方も見に行きたいので失礼します」
「退屈で済まなかったな」
「いえ、あまりに見事なバラに触発されて国に帰ったら育ててみる為の勉強はさせてもらいましたので」
 十分すぎるほどの充実した時間。運よく苗を抜いて土の管理まで見る事が出来たのだ。やり方やその土地の土壌問題もあるが、ふかふかな地面の様子には俺にも心当たりある。うちの畑も負けないぞとニヤつきながらも食べ物を作る畑とバラ専用の土とでは同一に考えてはいけない。ましてやこの花壇は石灰岩が使われている。粉にすれば運動場でおなじみの白いラインの素材だ。雨に溶けだした石灰の効果もあるだろうからその部分が未知数で、とりあえず土づくりには石灰を混ぜないとなと思うのはもう長年放置している土地故の根本的な問題だろう。
 庭師のお爺さんと別れてから迷路にもなってる通路を通ったりしながら食事をしたテラスに戻ってアフタヌーンティを頂いたり優雅な時間を過ごす。スコーンには自家製のもっちりとしたクロテッドクリームとこの庭で採れたバラとラズベリーとブルーベリーで作ったジャムだった。こうやって食用にするのならあれだけの手入れが必要になるわけだと感心しながらもあつあつのスコーンにたっぷりと乗せてナイフとフォークを使って綺麗に食べれるのはマナーを教えてくれた飯田さんのおかげで恥をかかなくて済みましたと感謝をするついでに写真を撮って
『本日宿泊予定のコッツウォルズの荘園でアフタヌーンティーしてます』
 なんてメッセージを送っておいた。
 ふふふ、これで負けず嫌いの飯田さんは対抗してあつあつのスコーンを作ってくれるとニマニマしながらあつあつのスコーンを食べる為に順番を変えたサンドイッチが何故か家からこんな遠く離れた場所なのにキュウリのサンドイッチで、なんとなく飯田さんの呪いを覚えるのだった。
 優雅に紅茶を傾けながらひっきりなしに訪れる訪問客を眺めている。
 そしてその人達が眺める庭を俺も席から眺める。
 穏やかだ。
 そんな緩やかな時間の流れを体感してからこの荘園の主だった方の部屋の探索をする。展示されていて触れはしないけど見学ができる、その程度の体験。
 古く経年劣化した本が並ぶ書斎や使用人の部屋は勿論、ガラス越しのキッチンや今は使えないかつてのバスルームなども見る事が出来る。この荘園を受け継いだ方はその思いをよく受け着いてらっしゃると感心する間に図書館にも辿り着いた。
 ……何と言うトラップ。
 一応閉館時間も設定してあるので踏み入れてはいけないと言うのに俺は足を運んで行ってしまって……
「サー、申し訳ありません。閉館の時間です。レストランのお食事のお時間になりましたのでどうぞ料理が冷める前にお向かい下さい」
 事前に司書ではないけど管理人の人に事前にこうなるからとお願いしておいたので未練がましく本にかじりつく俺をお願いした通り椅子を引きずりながら図書館から放り出して入れないように強制的に鍵を閉めてくれたのだった。
 しょぼんとする俺の頭を撫でながら
「シェフが腕によりをかけた料理が駄目になってしまいますよ」
 ぼそっと耳に語られたその魔法の言葉に俺は意識を取り戻し、俺はパタンと本を閉じ、司書に渡す。
「ご迷惑おかけしました」
「いえ、教えられたとおりにしただけです。以降代々受け継ぎさせていただきます」
 それはやめてと思うも心はすでに本に未練はないと言うように軽い挨拶をして今晩のディナーが待ち遠しくてうきうきしながらダイニングへと向かう俺は誰に言われようとも単純だと思った。





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