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夏休みの始まり 9

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「あので件で気まずくなってたけど、いつの間にまた仲良くなったんだか」
「青山さんがまめに小山さんの店に足を運んだからじゃないですか?」
 そんな話だったと思い出せば一人悶えていた青山さんは両手で顔を隠してさらに椅子の上で小さくなって悶えている。それ以上言わないでと言う様子だったがこれでしばらく静かになってくれるだろうとパンもおかわりをする傍らで従業員の皆さんは微笑ましく見守りなぜか和んでいる。青山さん癒し系だったのかと妙な納得をしていれば
「吉野さんもフランスに行くのですか?」
 隣に座る沢村さんも一生懸命話をもどそうとするので青山さん弄りはもう終わりにしてあげよう。
「俺は、まぁ、飯田さんの師匠さんのお店の料理を最後に食べたいと思いまして」
 言えば食卓は何を言っていると言う様に静かになり俺と沢村さんの会話に注視していた。
「飯田さんにも言ったけど次のボジョレーどころかハロウィンも迎える事が出来ないだろうって、この夏の間に食べに行くのが俺が出したリミットだから。
 それに別件で買い物もしないといけないし、きっと話し合いに時間もかかるから観光も兼ねて一ヶ月留守をするつもりです」
「そうか……」
「なのでもし知人にフランスの税金とか詳しい人がいたら紹介して下さい」
「……」
 沢村は素直に返事が出来なかったのは何故だろうかと、謎の行動力を持つ綾人のわけわからない思考は父から紹介されて少し話をしただけでも理解できた。
 弁護士の資格も取れて独立できて部下ももつ俺ってすごいじゃん?なんて自分に酔っぱらっていたのがばかばかしく思うほどの話しを親子ほどの年齢差のある綾人は平然とする。
 大体六法全書何て一度読んだだけじゃ覚えきれない。それをやって見せた綾人はなおわけわからない事を平然とする。
 実の父親をを確実に実刑にする為に法律を勉強したとか、親父もそれを聞いてそんな事をする為に法律があるのではないと諭したものの、この手の人間は絶対その程度で諭される人間ではない事を俺も親父も知っている。その時はしおらしいそぶりをするので目を光らせて監視しておかないとと良好な関係を確立して何かしでかさないように見守って来たが、そんな綾人を紹介しても良いだろうかと悩みつつも
「いる事はいるが、ちなみに何を買う予定か聞いても?」
「あー、バイオリン。ほら、よくネタになる有名な何とかって言う奴」
 何とかじゃないだろう、わざとぼかしてもそれだけのワードが揃えばストラディバリウスしかないだろうと半眼をしてしまう。
「ストラドなら確かにいろいろ手続きが必要だが、それぐらいは綾人君でも判るだろ?」
 聞くも彼はあっさりと
「先日知り合った、そのバイオリンを借りている子をちゃんとした所有者にしたいんだ。有名だからそのあたりいろいろあるだろうから詳しい人を探してるんだけど、さすがに都合よく行かないか」
 なんて言いながらパンを千切ってチーズを乗せて食べる綾人の今回は真面目な買い物な事にホッとして
「いや、何件かその手の仕事をしてるはずだ。
 後で紹介をしよう」
「まじ?!凄く助かります!」
「ただし、彼は俺と違って高いよ?」
「オリヴィエに確実にバイオリンの所有権が渡る為なら問題ないっす!」
 訂正。
 そう言う所が二十そこそこのガキから出せる言葉なのがおかしいだろうと心の中で何度も叫びながらも
「まぁ、コレクターとかになるわけじゃないから俺は安心だけどな」
「調べたら有名なバイオリンもあるそうだからいくつか揃えたい気持ちはあるけど?オリヴィエに弾き比べさせたいしな。俺はよくわからんけど」
 ……。
 一般常識として知る程度だけど億単位の楽器をいくつかそろえるのかと俺は思考を手放し
「あとはそいつと話をしてくれ」
 なんとなく虚しくなり、俺は詳しくないからと断るも折角の料理の味が分らなくなってしまうのだった……
 もそもそとパンを齧りだせば
「他にフランスのどこに行くのかな?」
 青山さんもかつてヨーロッパ放浪してた頃フランスに滞在していたので懐かしいなと、新婚旅行もヨーロッパだった人は還暦位になったらまた行きたいと目を細めて遠いかの地に思いをはせているのを見守りながら
「一応美術館めぐりはしたいと思ってます。あと豪華列車で近隣国をめぐったり、ドイツのノイシュヴァンシュタイン城は見ておきたいですね」
「うん。ドイツは美しい城がたくさんあるから。でも古くてツアーじゃないと見れない城もあるくらいだからネットで調べてから見に行くと良いよ」
「らしいですね。石造りの建築物ってどうなってるのか興味があるのでブルクの方も見て回りたいです。離れの竈オーブンを作った時レンガを組み立てて土をこねて焼いたりとかした折りにいろいろ調べたらヨーロッパの古民家なんかは石造りが多いでしょ?竈オーブンだけでも凄い大騒ぎで作ったのにそれを家丸ごととなると、実際見て見たいと言うか。昔ジイちゃんがが石垣作ってたのを見てたけどそう言うのでもないしと思うと気になって」
 構造的には判ってるが実物を見て石垣の概念と家と言う建築物は同等と考えて良いのかも気になる前に
「イギリスのコッツウォルズストーンを積んだ石の建築物も気になります。類似した物で水路とか整備できたらいいなとかは思ってます」
「家じゃないのか」
 なぜか高遠さんに残念な顔をされた。
 多分飯田さんのリクエストの竈オーブンみたいに遊ぶ場所が増えればと思っているのだろう。早々飯田さんのリクエストばかり聞く気にならないけどと笑って誤魔化すも
「水路もだけど庭の通路に使えたらぬかるみも減っていいのかななんて楽な事を考えてますけどね」
 せっかく綺麗な靴を買ってもなかなか乾ききらない地面に靴が汚れるのは一瞬で、活火山のお膝下なので直ぐに真っ黒に汚れる為にここ数年白い靴何て履いた事もない。それをよく知る青山さんも力強くうんうん頷けばもうさっきまでの飯田さんの修行先の店の話しはみんな忘れた様に笑ってくれていた。
 そうやって話のメインはぜひあの店のあの料理を食べてみろとか、あの店のケーキは芸術的だから見るだけでも価値はあるとかさすが料理人の皆様、食に関する情熱は俺も引くぐらいの知識を披露してくれて、今から少し楽しみになってしまう。




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