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夏休みの始まり 6

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 そうなのです。
 うちの烏骨鶏に関しては総て飯田さんが命を握っているので俺は可愛い可愛いと育て、美味しい美味しいと召し上がるだけのしがないブリーダー。食べてこその烏骨鶏なのだが
「さすがにあの数を誰かに預けるのも出来ないしな」
 一瞬大和さんにお願いするかどうかと思うも既に鳥小屋は潰した後。圭斗の所に押し付けても街中で飼うには難しいし、圭斗の家ではエサ代が重すぎる。鳥小屋の中しか知らない人生ならぬ鳥生ならともかく遊び放題自由放題に育ったやんちゃ盛りのうちの烏骨鶏達はその肉質が示すように野生その物。今更鳥小屋生活なんて出来ないだろうから預ける事も難しい。思わず真剣に悩んでしまえば
「……悪かった。烏骨鶏は俺が世話をするから、少しからかってみただけだ」
 言いながら食べていたさっぱり煮の骨をガラ入れに置く。こんもりとした山を見て単に食べたかっただけかと思ってホッとする物の
「だけど前々から考えてたけど少し増えすぎたからな。少し減らさないといけないのは判ってたんだけどね」
 なぜか時折烏骨鶏の奴らはひよこを連れ歩いているのだ。オスは全部〆たはずなのに有精卵があるとはこれいかに。時折鳥の鳴き声がオスっぽいのが居たと思ったが小屋にはメスしかいない。
「不思議な事に気が付くと増えてるんだよ」
 何か混ざったのかと思うも
「え?馬小屋の方に時々オスの姿を見かけるから増やしてる物だと思ってましたが?」
 ん?
 飯田さんが言ってる事が理解できなくて圭斗を見るも
「俺は気づかなかったが……」
 おもむろに三人同時に立ちあがって馬小屋へと向かう。
 きょろきょろと探すもその存在は見えなかったが
「あ、ほらいました。あいつ忍者みたいですよね。密かに烏骨丸って呼んでます」
 微妙なネーミングセンスだなではなく、薄暗い梁の上に烏骨鶏のオスが陰に隠れるようにこちらを見下ろすように鎮座していた。
「うそだろ……」
 唖然とする圭斗に
「冬を外で乗り切ったのかよ……」
 マジかと驚くよりも
「よく他の動物に食われなかったなぁ」
 感心してしまう。
「ここは肥料の発酵している熱で上の方は温かいし、食べる物には困りませんからね。時々メスの中に混ざってミルワーム食べてましたし、廃棄したゴミの中で虫もわくけどそれを一生懸命食べてたので栄養的には問題ないのではないかと思います」
 逞しすぎて汚れで黒くなってしまった烏骨鶏に手を伸ばすも逃げられるだけ。水遊びはさせても風呂になんて入れた事のない我が家の烏骨鶏達はそれでも砂遊びさせたりおがくず遊びさせたりそれなりに綺麗な身なりをしているが……
「こっそり混ざってたのに何でここまで黒くなった?」
「そりゃ、馬小屋の梁の上が綺麗だから、単純にモップ代わりになって掃除してたんじゃね?」
「おふっ……」
 目も当てられん。
「とりあえずだ。鳥小屋に来れば女の子いっぱい待ってるから遊びにおいでよ兄さん」
「綾人、言い方があれだ。昭和臭漂ってる」
「いいんだよ。田舎の烏骨鶏にはこっちの方が通じる」
「それより減らすって言ってませんでした?それに近親は良くありませんよ」
「それ~。
 うちの子元々宮下の所でまれてたからね。大和さんにも限界だから増やさないでねって言われたし。真っ先にオスを抜いたけどさ。
 ほら、もともと草刈り要因だから増やすつもりもなかったしね」
 なんてミルワームを飯田さんにパラパラさせる間に俺は着ていたシャツを脱ぐ。
 何をしていると言う目で圭斗に見られたものの、餌につられてやって来たオス烏骨鶏の死角からシャツを投げて視界を塞ぐ。
 ふっ、だてに鳥目ではない。
 突然襲い掛かる影にパニックになった物の視界を遮られて身動き取れなくたった所で
「捕獲完了」
 そう言って烏骨鶏を飯田さんに渡す。
「大将、悪いけど向こうに行く前にひと仕事お願いしやっす。うちの娘に許可なく手を掛ける奴の末路は決まっているので」
「何だその茶番は」
 視界を塞いだままだけど抵抗する烏骨鶏の頭を飯田さんはくりっと以下省略。
 半眼の圭斗はじっと飯田さんの腕の中で次第に動きが悪くなっていく様子を見つめていたが
「頼むから、そう言うの陸斗の前で見せるなよ」
「「……」」
 既に散々見せた挙句に手伝ってもらってたなんて言えなくて飯田さんと一瞬視線を交わして無言で頷くも、何故だか圭斗にはばれていて盛大に顔を引き攣らせて俺達をゴミを見るような目でみるのだった。
 ともあれ、夜には先生を始め皆にもこの夏はちょっと留守にするから合宿無理になったと言えば盛大なブーイングを貰いながらも理解はさせて、宿題を更新しておいたから頑張れよと与えた餌は泣いて喜ばれる結果。そんなにも嬉しくて泣くなよとこれがどうすればうれし泣きに見えるんだと言い返される始末。あれ~?なんて急激にレベルの上がった問題内容は塾よりも難しいとのお褒めの言葉を貰えて俺としては満足をしてニヤニヤと笑うのだった。
「けど綾っち珍しいじゃん。東京行っても一日か二日で帰って来るのに一ヶ月ぐらい滞在するなんて」
 なぜか一緒になって混ざっている植田の余計な言葉に
「えー、綾人さん東京に行ったのに一泊か二泊なんてもったいないですよー」
 この県民の子供はそう言うが
「東京都内生まれの都内育ちの俺に目新しく映るもんなんてないしな」
 考えればたかだか地銀のオヤジが東京でマンション買えるかなんて言うのも不思議な話だし、ローンを支払えなかった辺りで察する事は出来たがジイちゃんがと言う奥の手もあったから納得していたけどね、子供の頃は。
 実態を知ればそれこそ不思議が膨らみ、他人の通帳を内部操作でパクって返済と言う鬼畜技に納得してしまったが、それでもマンションは売れて東京の弁護士さん経由であの母子に返済は出来ている。
 東京何て飯田さんの勤めるレストラン以外何があると思うも今もたまに連絡を取る幼馴染が済んでるくらいにしか価値を見いだせない。もっとも引っ越してから直接会った事はないけど。
「東京生まれの東京育ちだったんだ」
「だから綾っちはクールなんだぜ」
 へぇと素直に驚く三人組に何故か植田がドヤ顔でかっこいいだろうと言う。意味不明だけどこいつのおかげで俺のコンプレックスはばかばかしく思う様になっていく。と言うかどうでもよくなっていく不思議。良い奴だよお前は、なんて見直していれば
「じゃあ、綾っち、後でお土産リスト作っておくからよろしく~」
「安心しろ。お前の土産は免税店で売ってるマカダミアナッツのチョコに今決定した」
「それフランス関係ないじゃん!ハワイ土産みたいなのじゃなくもっとフランスっぽいのが良い!」
「ん?フランス語の教材が良いか?そんなにフランスが良いのなら辞書の一冊や二冊あっても良いだろうな」
「やーだー!美味しい物とかおしゃれな物とか、そう言うのが良い!」
 うえーんと鳴き真似する植田に飯田さんが俺のスマホの端から顔をのぞかせて
「フランスらしいお土産は俺が用意するから安心してください」
「飯田神!ほんと邪神綾っちと比べてなんて神々しいのだろうか……」
 植田のバカさに慣れた三人組はスマホ越しに笑っていたが
「まぁ、飯田さんと手土産の数位は間違えるだろうから、その時はお前年長者として年下と目上の人を優先しろよ」
「ごふっ、これが中間の苦しみと言う奴……」
 パタンと言う音と共に画面から消えたけどすぐにガチャリと言う音が聞こえたと思えば水野がやってきて
「ちーっす、綾っち今度フランスに行くんだって?LIME貰って驚いたよ。
 って言うか綾っちほんとアクティブな引きこもりだな」
 あははと笑う水野にも俺は下す。
「お前ら二人土産なしで決定だ」
 さすがに二人からディスられれば飯田さんもかばいきれなく無言のままフェードアウト。空気の悪さを察した子供達が強引に話しを変える様に勉強の話しに切り替えれば植田と水野はじゃあがんばれよと画面から消えて……
「時差が発生するけど勉強会はするつもりだから。テストの結果は問題内容だけど、何かわからない事があれば聞いてくれ」
 その言葉と共にいつものように勉強会が始まるのだった。
 


 

 
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