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山の音楽家が奏でる山の景色 3

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  バイオリンを通してでしか思い出せない父さんの思い出を辿りながら音を確かめる。ああ、そう言えばあの時住んでいた家が薄汚れた白い壁の家だった。アパートの外の景色もアパートで、空が見えなかった。そう言う意味ではここも空が見えないなと明るい足元にほんわりと明るく光が反射する部屋の真ん中に立ち、反射する音に耳を澄ませていた。あまり音の跳ね返りのない部屋に何でこんな良い部屋を作ったのか首をかしげたくなる物の。大切にしているには変わりないからそういう部屋なのだろうと思う事にしておいた。寧ろ俺が使ってもよい物かと思った物の綾人がここを使えと言ったのだからありがたく使わせてもらう。
 調律の終わったバイオリンを改めて正しいポジションでかまえてゆっくりと息を吸い込んで……
『オリヴィエー、水とお茶な。
 あとおやつも置いておくから、あまり根を詰めるなよー』
 ガクリ。
 綾人、お前って奴は……
 弦を下ろして息を吐きだす。
『いろいろ準備ありがとう。後は大丈夫だからお昼になった頃また呼びに来て?』
『おう!俺も畑に行ってるからお互い集中しような!』
 そう言ってととと……と軽い足音を立てて外へと出てって行った。ドアもちゃんとしまったのを見届けて今度こそバイオリンを構えて……
 旋律が奏でる美しい世界と一つになるのだった。


「チョリさーん、俺チョット麓の家の様子見て来るわ。
 あと長谷川さん達柵作りに来るからよろしくー」
「うん、いってらっしゃい」
 そう言いながらもチョリさんの視線も意識も総て電子ピアノに向かっていた。
 バイオリニストだと言うのにピアノも弾けるのかと感心しながら離れの二階の住人となったチョリさんを置いて俺はさっさとオリヴィエにさらっと嘘をついて出かける事にした。
 深い意味はない。
 多分気付かないだろうから。
 あの部屋は熊でも早々に侵入できないようになっているこの家一番の防衛するにふさわしい場所なのだ。
 何せ、一回のコンクリを敷いた無機質な部屋は捕まえた獣を解体する場所なのだから、衛生面を考えて野良ハクビシンの侵入からの防衛の為とかジイちゃんが言っていた。野生動物との戦いは今に始まった事じゃないと言う事を嫌でも理解できた結果、ドアをあけっぱなしにしない限り衛生的で熊も簡単に入って来れない頑丈さを作ったという。なんて要塞だよ……
 そんな所に放り込んでおけば問題なしと意外と繊細なオリヴィエを閉じ込めておけば何も気づかずに過ごすのだろう。
 チョリさんもそうだけどオリヴィエも音楽の世界に入るとこっちが息が詰まるくらいの独特な空気が漂う。物音ひとつ立てる事も出来ないような……
 クラッシックのコンサートが開催されていると言う場解りやすいだろう。それぐらい生活音が禁忌の音のような緊張感に追い込まれるのだ。
 俺はクラッシックなんて聞かないから良く判らないけど。
 つまり、息が詰まるから逃げる!この一択なのだ。
 車でさっさと麓に降りれば……
「おぅ綾人、雨なのにやって来たのか?」
「山は晴れてたよ。だけど居場所がなくって逃げてきた」
 なんだなんだと内田さん親子もやってこれば
「珍しいな、綾人が敵前逃亡だなんて」
「ふっ、俺は勝てない戦いはしない主義、だから最強!」
「まぁ、頭脳全振りのお前が脳筋に勝てるわけないからな」
「夏樹は自分の事よくわかっててよろしい」
 あいつにしては珍しくナイスなチョイスをしたなと言うか、どうせ目の前に自衛官募集のポスターがあって何も考えずに就職活動を終えたさに募集したのは目に見えている。脳筋で単純だからな。昔から俺が行ったことは大体素直に言われたとおりにする危うさを持っていたが、それは親からの命令にも素直だったと言う、ちっとは自分で考えろと蹴り飛ばしたかったけど、それで陽菜の居場所を作る事が出来たのだ。使える物は使いやすい脳筋だよなとしみじみと思ってしまえば
「そういやあいつら元気か?」
 圭斗の突然の質問に
「まぁ、元気らしい」
 スマホを開いてポンと投げて渡す。
 受け取った圭斗は不安げにスマホを見れば俺が見せた陽菜のメッセージの一覧。ほぼ返事はしてない物の、だから余計に陽菜のメッセージがよくわかる。
 無事編入が出来た事。新しい引っ越し先の皆さんにも良くされてる事。そして……

『お魚美味しい!
 この間夏樹のお休みの日に港の市場に行ってお魚買って捌いてみたんだ!』

 なんて出来上がった写真を送って来た。
「う、羨ましいなんて言わないからね!!!」
「飯田さんにお願いして美味しい海の魚食べさせてくださいって……
 連絡しておいたから楽しみにしような?」
「けいちゃーん!!!」
 俺の気持ちをよく理解できる友人を持てて幸せだと泣きつけば、鉄治さんはほかっておいても大丈夫だなと浩太さんを連れて廊下の仕上げをすると言って去っていくのだった。
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