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雨のち嵐 4

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 昼を過ぎて夕方近くになってやっと麓の町まで帰って来た。
 街に入る手前で遅い昼ご飯を済ませてから圭斗が居る麓の家の様子を見に顔を出せば先生の家の中庭の見える部屋を山川さんが壁を塗りに来ていた。
「綾人君お邪魔してます」
「こんにちは。ついにここも完成ですね」
「皆さんの協力があったからねぇ。俺も腕がなるってもんよ」
 山川さんの気合に俺も笑ってしまう。
 ゴールデンウィークで一気に破壊と再生の人海戦術が繰り広げられまさかの内装に突入していただなんて早すぎるだろ……
 とは言えがらんとした室内なのは間違いがなくどうやって家を作り上げて行くかだなと思っていれば
「ずいぶんいい部屋になっただろう」
「ええ、あのゴミダメだった部屋とは思えません」
 時々泊まる事になっては掃除をして、その後綺麗になった部屋を満喫する先生がゴミ部屋を復活させる繰り返しの戦いの話しに山川さんは大笑いして
「やっぱりそうか!やたらと湿気の跡が多い部屋だと思ったがやっぱりそうか!
 先生あの顔してやるなあ!」
「二度とやって欲しくねぇ……」
 顔は関係あるのかと思うも植田達が稼いで行った金額は本来なら一日分だけで十分だったはずなのにと予定外の出費が痛いとかそう言う分けではなく本来必要のなかった金額と言うのが腹立たしくて今も怒れてくる。かといって業者に頼めばもっと早く終わったのだろうが、二軒分の片づけとなれば七ケタは取られると思えば全然問題ないと言う所だろうか。
 全部自分でやらなければならないと考えたら全然ましだけどな!
 結局俺の妥協点はそこに尽きて、貴重な下っ端……ではなく人材の流出を勿体ないと思うのだった。例え俺が放牧したとしてもだ。
 ほんの二月もしない時間しかたってないのに懐かしいなと思いながら隣の家の方も見てくると言ってその場を離れれば宮下の作業場(予定)の土間の壁板を圭斗が張っていた。総杉板張りの杉の木の匂いのする明るい部屋で声をかければ、一緒に板を張っていた浩太さんが少し休憩しようかと言って二軒の家の間の廊下の床を張っていた鉄治さんに声をかけるのだった。
「気を遣わせて悪いなぁ」
「それだけお前が酷い顔をしてるって事だ。
 また何かあったのか?」
 外に行こうかと風呂場の先の庭へと向かえばここもすっかり雑草が育ち始めて草刈りしないとなと思いながらも山水を溜めた水槽の隅に座り
「この間の子供覚えてる?」
「安心しろ、この辺じゃ滅多に見ない子供の外人さんだ。さすがに覚えてる。
 って言うか大林さんがどうしても人さらいにしか見えなくってそっちの方が気になった!」
「それな!」
 二人で腹を抱えて嵌りすぎる役に声を立てて笑う!
 もっさもっさの頭で髭も剃ってない恰幅の良いチョリさんは何故かサングラスをしていたし、手を引かれて俯いて歩く成長期か栄養不足か判らないけどヒョロヒョロな子供はこの辺にはいない健康色が分らない色白なフランス人。二人ともバイオリンを持っている共通点はある物のどう見てもまともな関係には見えなくて圭斗に家まで連れて来てもらって初めて二人の姿を見た時は良く捕まらなかったなと言うのが本音だった。
 旅行者と言うのは一目見て判ったし、二人が話すフランス語に関りたいと思う通りすがりの人なんてまずいないだろうと言う事を吟味すれば二人を止める人は誰もいないと言う……治安国家とはよく言ったもんだ。
「で、あの子供がどうした」
 何か悪さでもしたのかと言う様な硬質な声に俺はオリヴィエの身の上を圭斗に総て話した。勿論それは俺が勝手に調べただけの事で実際は判らないがと付け加えて。
 長い話になったと思うが圭斗はじっと俺の言葉に耳を傾けていたかと思えば
「俺はお前がおせっかいなのは知っている。
 おかげで家を出てもなんとかやってけれてるし、何とか陸斗と生活も出来る。沢山の仕事仲間が出来て、俺一人だったらこんなにもうまくなんてやっていけれなかった」
 そうか?なんて言いたかったけど俯き加減でどこか悔しそうに吐露する様に本音を語る圭斗に俺は何も言えないでいた。
 俺から見たら圭斗の方がクラスの奴らとも仲良くなやっていたし、今も大工仲間とまめな連絡の交換をして繋がりを持っている。俺にはできない当たり前の努力を続ける圭斗の方が俺は尊敬していて、だけど何となくそれは言わせてもらえなくて口を閉ざしてしまえば
「もしお前があの子供を助けたいのならフランスにでも殴り込みに行って来いよ。
 留守の間ぐらい何とか畑と烏骨鶏の世話位してやる」
 ふいにあげた視線は遠くの山を眺めていて
「助けてやりたいんだろ?だったら手を差し伸べてやればいい。
 お前にしか出来ない戦い方だってあるだろうし……」
 そう言ってから少し悩む様に唇をかみしめて
「お前はあの山にこだわりすぎだから。外に飛び出して行きたいのを我慢する義理はもう十分なはずだ。
 二度と帰って来るなって言ってるわけじゃない。
 外を見るのも悪くないと俺は思ってるんだ。あの家に固執するよりよっぽど正常だから、もし助けになりたいと思ったら迷わず行けよ。これ以上後悔する生き方をするな」
 オリヴィエの為にではなく自分の為に行けと圭斗は言う。
 ああ……
 くそっ!何でおまえは今も昔も俺の欲しい言葉を何時もくれるいい奴っ!!!
「お前イケメンすぎ!」
「はっ!当たり前のことを言っても喜ばれないぞ?」
「フランス土産は期待してろよ!」
 言えば圭斗はそれで十分と笑いながら俺の頭を陸斗にするようにくしゃくしゃとかき混ぜて
「ただ後は本当の事が判るまで、あのお客がどうなるかそれまで様子見だ。
 先回りしすぎて勘違いでもしていたら痛すぎて大事故だからな」
 そんな事になったら
「目も当てられない」
 俺も圭斗も俺が調べた事なら本当なのだろうと言う事は判っていても少しの希望に縋る様にまだ仮定の話でしかないと歯止めをかける。



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