373 / 976
雨のち嵐 3
しおりを挟む
朝方は雲が降りてくるように雨の中車に乗りこめば飯田さんが見送りに来てくれた。オリヴィエは一人で広い離れで寝る事に不安なのか夜中なのにヴァイオリンの練習をするから聞いてくれとかなんだかんだ理由をつけて飯田さんの隣で寝ると言う可愛い姿を見せてくれた。
そんなオリヴィエはまだ夢の中なのが微笑ましいと寝かせたまま俺は車を走らせるのだった。
昨日はあれから飯田さんの虹鱒の捌く様を飽きもせずずっと見ていたと言う。
最初こそ頭を落して腹を開いて内臓を取り出す様にショックを受けていたらしいが、飯田さんの手際の良さと狂い無き機械的なまでの繰り返す作業にいつしかそう言う物だと受け入れ魚とはこうやって調理する物だと納得するくらい見続けたそうだ。さすがに自分でやりたいとは言わなかったが、簡単な料理位作れるようになりたいと言ったらしく、その夜はオリヴィエの作るパスタが食卓に上がるのだった。勿論味付けは飯田さん監修なので間違いはなく、初めて野菜を切ったと、包丁ではなくフランスで主流なナイフを使って野菜を洗って切ると言う簡単な動作から教えたのだった。
オリヴィエはフランスに帰ればきっと一人暮らしになるのだろう。最初こそ師匠のジョルジュさんの家で厄介になるかもしれないが、それは多分長く続く事はないだろうそんな未来を予測して、俺は山を下り、そして別の山を越えた場所へと向かうのだった。
今回の目的は旅券の取得、つまりパスポートの発行だった。
受付を済まして俺は何に首を突っ込むつもりだろうと何回も自問を繰り返す。
別に俺が首を突っ込まなくても守ってくれる人は山ほどいる。その人達にあの神童は大切にされて愛されている。たまたま知り合い一ヶ月ほど世話をする程度の俺がその輪の中にはいる隙なんてないだろうが……これから起きるだろうことを予想すればあの寂しそうな欲しい愛情を得る事の出来ない事を知る瞳の子供と同じ目をした子供を思い出して少しでも早く、周囲の行動なんて待ちきれないと何かしたいと言う衝動的にこのわけのわからない行動に出て今に至っていた。
オリヴィエの師匠、ジョルジュ・エヴラール。
オリヴィエと祖父と孫ほどの年の離れた師匠の人物がどのようか好奇心で調べた所で、彼の余命が幾ばくも無いことを知った。
世間的には疲労からの療養としてひた隠しされている事だが、金に汚い大人を知る綾人はオリヴィエがこれ以上食い物にならないようにと調べた所からオリヴィエがこっちに来た辺りから通院歴が派手になり、それに合わせてかなりの出費が計上されていた。そこからさらに人様には言えないような手で病院のカルテを覗き見て、医学なんてさっぱりだけど今時ググればそれがどのような症状かなんてすぐわかった。
一つ理解できたのは彼は今年のクリスマスを迎える事はないだろうと言う事だった。
尊敬する師匠を父と呼べる事を誇らしげに思っている事はチョリさんから聞いた話し。だとしたら何て残酷なのだろうかと、バアちゃんが入院する事になった時を思い出してあの時の俺より小さい子供が、音楽しかない子供がまた一人になるなんてそれだけはダメだと、これがこのわけのわからない行動の原因だ。
他にも想像から色々な事が続いている。
治療はどうも高額となる為か出入金の記録に随分と大きな金額が動いているのが分った。今は良いかもしれないが、いずれ底はつくだろうし、彼にはオリヴィエ以外にも二人の実子と五人の孫がいる。
財産分与があったとしよう。
オリヴィエが縋る様に抱えるバイオリンはきっとオリヴィエの手に残らない。
父親がバイオリニストなら子供も孫もバイオリニストで……
オリヴィエが愛用するストラディバリウスは決して彼らが手放さないのは目に見えている。バイオリニストや収集家の羨望の的と言われるだけあって一挺ウン億と言う高額もさることながら、オークションにもなかなか出てこない代物で、持ち主達が直接的な取引をする為に入手すら困難な物でもある。
このまま治療が続けられればそれを治療費として売り払うとしかなく……
どのみち、どうやってもオリヴィエの手もとには残らない事だけは決定的だ。
パスポートの発行の為の長い待ち時間を利用してどうすれば何て何度も繰り返して考えた結論は直接交渉に行くと言う結果ぐらいしか思い浮かばなく、その為には持ち主のジョルジュ・エヴラールと話が出来ればと考えて、昔の俺とよく似た瞳のオリヴィエに何とかして心の拠り所をと足掻いてみようと決意した。
そんなオリヴィエはまだ夢の中なのが微笑ましいと寝かせたまま俺は車を走らせるのだった。
昨日はあれから飯田さんの虹鱒の捌く様を飽きもせずずっと見ていたと言う。
最初こそ頭を落して腹を開いて内臓を取り出す様にショックを受けていたらしいが、飯田さんの手際の良さと狂い無き機械的なまでの繰り返す作業にいつしかそう言う物だと受け入れ魚とはこうやって調理する物だと納得するくらい見続けたそうだ。さすがに自分でやりたいとは言わなかったが、簡単な料理位作れるようになりたいと言ったらしく、その夜はオリヴィエの作るパスタが食卓に上がるのだった。勿論味付けは飯田さん監修なので間違いはなく、初めて野菜を切ったと、包丁ではなくフランスで主流なナイフを使って野菜を洗って切ると言う簡単な動作から教えたのだった。
オリヴィエはフランスに帰ればきっと一人暮らしになるのだろう。最初こそ師匠のジョルジュさんの家で厄介になるかもしれないが、それは多分長く続く事はないだろうそんな未来を予測して、俺は山を下り、そして別の山を越えた場所へと向かうのだった。
今回の目的は旅券の取得、つまりパスポートの発行だった。
受付を済まして俺は何に首を突っ込むつもりだろうと何回も自問を繰り返す。
別に俺が首を突っ込まなくても守ってくれる人は山ほどいる。その人達にあの神童は大切にされて愛されている。たまたま知り合い一ヶ月ほど世話をする程度の俺がその輪の中にはいる隙なんてないだろうが……これから起きるだろうことを予想すればあの寂しそうな欲しい愛情を得る事の出来ない事を知る瞳の子供と同じ目をした子供を思い出して少しでも早く、周囲の行動なんて待ちきれないと何かしたいと言う衝動的にこのわけのわからない行動に出て今に至っていた。
オリヴィエの師匠、ジョルジュ・エヴラール。
オリヴィエと祖父と孫ほどの年の離れた師匠の人物がどのようか好奇心で調べた所で、彼の余命が幾ばくも無いことを知った。
世間的には疲労からの療養としてひた隠しされている事だが、金に汚い大人を知る綾人はオリヴィエがこれ以上食い物にならないようにと調べた所からオリヴィエがこっちに来た辺りから通院歴が派手になり、それに合わせてかなりの出費が計上されていた。そこからさらに人様には言えないような手で病院のカルテを覗き見て、医学なんてさっぱりだけど今時ググればそれがどのような症状かなんてすぐわかった。
一つ理解できたのは彼は今年のクリスマスを迎える事はないだろうと言う事だった。
尊敬する師匠を父と呼べる事を誇らしげに思っている事はチョリさんから聞いた話し。だとしたら何て残酷なのだろうかと、バアちゃんが入院する事になった時を思い出してあの時の俺より小さい子供が、音楽しかない子供がまた一人になるなんてそれだけはダメだと、これがこのわけのわからない行動の原因だ。
他にも想像から色々な事が続いている。
治療はどうも高額となる為か出入金の記録に随分と大きな金額が動いているのが分った。今は良いかもしれないが、いずれ底はつくだろうし、彼にはオリヴィエ以外にも二人の実子と五人の孫がいる。
財産分与があったとしよう。
オリヴィエが縋る様に抱えるバイオリンはきっとオリヴィエの手に残らない。
父親がバイオリニストなら子供も孫もバイオリニストで……
オリヴィエが愛用するストラディバリウスは決して彼らが手放さないのは目に見えている。バイオリニストや収集家の羨望の的と言われるだけあって一挺ウン億と言う高額もさることながら、オークションにもなかなか出てこない代物で、持ち主達が直接的な取引をする為に入手すら困難な物でもある。
このまま治療が続けられればそれを治療費として売り払うとしかなく……
どのみち、どうやってもオリヴィエの手もとには残らない事だけは決定的だ。
パスポートの発行の為の長い待ち時間を利用してどうすれば何て何度も繰り返して考えた結論は直接交渉に行くと言う結果ぐらいしか思い浮かばなく、その為には持ち主のジョルジュ・エヴラールと話が出来ればと考えて、昔の俺とよく似た瞳のオリヴィエに何とかして心の拠り所をと足掻いてみようと決意した。
126
お気に入りに追加
2,655
あなたにおすすめの小説
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
FRIENDS
緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。
書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して)
初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。
スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、
ぜひお気に入り登録をして読んでください。
90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。
よろしくお願いします。
※この物語はフィクションです。
実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。
坊主の決意:ちひろの変身物語
S.H.L
青春
### 坊主のちひろと仲間たち:変化と絆の物語
ちひろは高校時代、友達も少なく、スポーツにも無縁な日々を過ごしていた。しかし、担任の佐藤先生の勧めでソフトボール部に入部し、新しい仲間たちと共に高校生活を楽しむことができた。高校卒業後、柔道整復師を目指して専門学校に進学し、厳しい勉強に励む一方で、成人式に向けて髪を伸ばし始める。
専門学校卒業後、大手の整骨院に就職したちひろは、忙しい日々を送る中で、高校時代の恩師、佐藤先生から再び連絡を受ける。佐藤先生の奥さんが美容院でカットモデルを募集しており、ちひろに依頼が来る。高額な謝礼金に心を動かされ、ちひろはカットモデルを引き受けることに。
美容院での撮影中、ちひろは長い髪をセミロング、ボブ、ツーブロック、そして最終的にスキンヘッドにカットされる。新しい自分と向き合いながら、ちひろは自分の内面の強さと柔軟性を再発見する。仕事や日常生活でも、スキンヘッドのちひろは周囲に驚きと感動を与え、友人たちや同僚からも応援を受ける。
さらに、ちひろは同級生たちにもカットモデルを提案し、多くの仲間が参加することで、新たな絆が生まれる。成人式では、ロングヘアの同級生たちとスキンヘッドの仲間たちで特別な集合写真を撮影し、その絆を再確認する。
カットモデルの経験を通じて得た収益を元に、ちひろは自分の治療院を開くことを決意。結婚式では、再び髪をカットするサプライズ演出で会場を盛り上げ、夫となった拓也と共に新しい未来を誓う。
ちひろの物語は、外見の変化を通じて内面の成長を描き、友情と挑戦を通じて新たな自分を見つける旅路である。彼女の強さと勇気は、周囲の人々にも影響を与え、未来へと続く新しい一歩を踏み出す力となる。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
Color
尾崎 龍夏津
青春
魔王と呼ばれ、誰からも見向きもされず、自分の存在意義すら見失い、これからの未来に何の期待もしていない少女が、自分の命、友達、家族と向き合い、自分が生きている意味を考え、人のために何かをしようとする事の大切さを実感し、前向きに生きていこうとするお話です。
拙い文章ですが、お付き合いいただけたらありがたいです。
稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜
撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。
そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!?
どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか?
それは生後半年の頃に遡る。
『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。
おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。
なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。
しかも若い。え? どうなってんだ?
体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!?
神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。
何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。
何故ならそこで、俺は殺されたからだ。
ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。
でも、それなら魔族の問題はどうするんだ?
それも解決してやろうではないか!
小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。
今回は初めての0歳児スタートです。
小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。
今度こそ、殺されずに生き残れるのか!?
とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。
今回も癒しをお届けできればと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる