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雨のち嵐 1

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 ふわふわのしゅわしゅわのパンケーキ。
 たっぷりの生クリームのホイップにカットしたフルーツを添えて紅茶と共に頂く。
「絶対店で食べれない奴だな」
「はい。うちのお店ではお出ししてないので」
 違う。
 俺は女の子達ばかりの店に突撃してまで食べたいと思わないと言った所なのだが、飯田さんは一時の流行に乗ってメニューに加えるつもりがないと言った所だろうが、それ以前にいつも食べ過ぎてしまう最後にパンケーキとかありえないと言いたいが
「パンケーキではなくスフレならランチでお出ししてますので」
 きりっとした顔で言うあたり俺には分からない拘りがあるのだろうか。
 あまりない経験だがこう言う時は藪蛇を突かないようにそれ以上は黙るのがベターだ。俺が黙って食べだしたのを飯田さんは何かもっと討論したいと言いたそうに俺を見るがそこは飯田さんシェフ。食事の邪魔だけはしないので悪いけど防御に入らせてもらう。
 フォークで軽く押さえながらナイフを入れる。抵抗なく切れ目が入り、一口大に切り分けたパンケーキにこれまた一口大にカットしたフルーツを乗せて、最後に生クリームを添える。選ばれたカットフルーツのイチゴと純白の生クリームのコントラストも最高!で……
「正義だ!」
 イチゴのショートケーキがそうであるようにと拳を突き上げる!
 しゅわっと口の中で溶けるパンケーキとイチゴの酸味を丸く包み込む生クリーム、そして最後に紅茶でさっと流せばさっぱりとしてまたパンケーキへとフォークを向けてしまう無限ループがここから始まる。
「う、美味いよぉ飯田さん!
 女の子ってこんな美味しいのを何時も食べてるんだねぇ!」
 密かに作っては失敗してるのはホットケーキミックスを使っているからなのではと思うも、ネットでは皆さんミックス粉を使ってるのだから何か俺が見落としてるのだろう。愛情とかほざいたら俺には一生辿り着けない極地だとせわしなく手を動かして口へと運べばヒントは飯田さんが教えてくれた。
「うーん、少しメレンゲしすぎましたか?」
 神はご不満があるようだがコツは総てここにあると理解した。
「全然問題ありません。むしろオリヴィエの分を食べないと損をするような気がいたします」
「あはは、綾人さんにパンケーキを気に入っていただけて何よりです」
「これは何枚も食べれます!」
 ぺろりと厚さ五センチほどになったパンケーキを二枚食べた後に向ける視線はオリヴィエの三センチほどにしぼんでしまったパンケーキ。
 じゅるりと涎が絶えてしまった所で
『俺のパンケーキ!』
 子供でもフランス育ち。
 なんて偏見はないがちゃんと服をきて靴もきちんと履いて土間を走ってやって来た子供は目をキラキラとさせて自分のパンケーキを確保し、俺は使わなかったメープルシロップをたっぷりと垂らして無抵抗にナイフを受け入れるパンケーキは一口に納まらないくらいに大きく切り分けてかぶりつく。
 何て可愛らしい。
 幼い子供が好物を待ちきれないというような景色に目を細めてほほ笑むのは俺だけではない。
 料理をおいしく食べる様子を見守る事が飯田さんの料理に対する信念でもあり、単純ながらもその何でもない景色こそ料理人の生きがいだと言う。
『美味しい?』
 シンプルな質問。だけどオリヴィエは口いっぱいにパンケーキを頬張りもごもごと言うのみ。
 サイコーの返事だと言葉より雄弁な姿に飯田さんも満足げに紅茶を傾けるのを見計らって
『飯田さん、悪いけど明日朝からちょっと出かけても良い?』
『ええ、構わないですよ。と言うか珍しいですね?』
 ゆっくりと紅茶のカップ、ではなく紅茶なのにどこから出して来たのか茶器に紅茶を淹れると言う斬新さに疑問を持ちながらも当人も疑問を覚えてたようで茶器を見ながら首をかしげていたのを無視をして
『ちょっとね。ひょっとしたら遅くなるからご飯の時間に間に合わないかも。だけどチョリさん戻ってくるから二人の分をお願いしていいかな?』
『問題ありませんが……』
 何か言いたそうな飯田さんはそこで質問を止めるのを見て
『明日は晴れそうなので長谷川さん達が工事に来るかもしれません。
 雨のせいでぬかるんでいるので来ないかもしれませんが、来たのなら賑やかになるかもしれませんので天気が崩れるまでお付き合いお願いします』
『天気が崩れるまでですか?』
 面白い表現ですねと言う言い回しに
『何せ、山の天気は崩れやすいと言う位ですからテレビの天気予報何て役に立ちませんよ』
 食べ終わった食器を流しに持って行けば飯田さんが丁寧に洗ってくれるのを俺が布巾で拭い
『だけど綾人さんの天気予報当たりますよね?』
 瞬く間に綺麗に洗い上げた後手を拭いながらの飯田さんは首を傾げるも俺は笑って
『そんなのは先人の知恵って奴ですよ』
 胸を張って言えば飯田さんも笑う。
『さすがお爺様とおばあ様と言う所でしょう』
 青山さんを見習って俺のジイちゃんとバアちゃんを崇拝する物の本当は気象予報士の資格の為の本を買った程度の知識とアプリでの俗にいう雨雲レーダーの情報をもとに叩きだしている俺の予報は大体あってると言う確率を叩きだしていて、そこは説明をする方がめんどくさいので黙っている事にしている。
 ほら、宮下に理解させる方が難しいから……
 そんな本音は間違っても言わないし言えないこれが友情のと言う物で、宮下の怒る顔を見る事の出来る秘訣だ。
 それを言うと圭斗が煩いから黙っているけど友の生き生きとした顔を見るのが俺の幸せなので、圭斗も判ってそうなのに黙っている所を見ると同類と俺はみなし……

 ただその恥ずかしげに抗議する顔を見る為に俺は悪者になる、酷い友達だと笑顔で謝る所までがお約束だ。



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