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恵みの雨が来る前に 1

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 ゴールデンウィークも終わった所で早速と言う様に長谷川工務店の人達がやって来た。
 社長の与市さんと健太郎さん、そして工務店の人達を連れてどこから手を付けようかと、資材の置き場の確保という様に沢山の車がのぼって来たのだった。
「おはようございます。では今日から工事に入らせていただきますね」
「長谷川さんいらっしゃい、お世話になります」
 そんな簡単な挨拶をする中で工務店の人の紹介を受けるのだった。
 息子さんの健太郎さんは相変わらずどこか無愛想で、でも連れてきた五人の職人さんは何処かフレンドリー感臭が漂っていた。何か森下さんが連れて来た若手の人を思い出すなと感慨ぶけていれば
「これはうちの若い衆の野田、遠藤、石原、水田、伊藤だ」
 お願いしますと言えた辺りそれなりの教育はされてきたのだろうと俺もお願いしますと頭を下げる。
「さて、今日からの仕事はまずは古い柵を撤去して新しい柵の為の柱を立てる基礎を作る事になるんだが……」
「あ、その辺はお任せします。ただこの季節なので……」
「おぅ、長谷川。吉野の若様が万が一があるといけねえからって俺達が護衛に付くぜ?」
「水野よ……
 そりゃあ熊が出る季節だからって、暇だな?」
「若様から給金もらえるからな。小遣い稼ぎに来てるってわけよ」
 ニヤリと笑う水野のじいさんに
「若様はやめてください。普通に名前で呼んでください」
 爺孫揃って調子いいと護衛の猟師チーム、水野、幸田、大矢、下川は猟銃を抱えて笑う姿に改めて人の住む場所じゃないと思うが
「所で吉野の、お前さんの横にあるのは猟銃か?」
「いわゆる散弾銃ですよ。たまには使わないとカビが生えそうなので?」
 虫干しではないが無造作に横に置いておけば長谷川さんは一歩後退りをして
「吉野のも猟をされるとか?」
「ん―、もっぱなくくり罠猟だけどね。しかも捕まらない。
 猟銃なんて当たりもしない。
 なんて言うの?持ってると様になるからって言うアクセサリー?」
「そんな物騒なアクセサリーがあってたまるかっ!!!」
 焦ったように声を上げる与市さんに俺ははははと笑い
「弾は詰めてないですよ。打ったってどうせ当たらないので普通に殴打用の武器です」 
「そんな危険な使い方するな!」
「はい。さすがにしません」
 言いながらも猟銃を鍵付きのケースに片づけ、部屋に置いて来ると断って少しだけ失礼させてもらい戻った所で
「早くから待っててくれたんだな」
 感心された声に
「いえ、早朝に猪が畑の電気でしびれて動けなくなってまして。
 一応仕留めて幸田さんに連絡したら皆さん直ぐ来てくれたので」
「まぁ、畑で猪が捕れるのはよくある事だ!」
 なんてキャベツや大根じゃあるまいしとつっこまれて幸田さんは笑うけど、早朝から猪の悲鳴を聞いて寝ぼけた体で猟銃を閉まっている鍵付き扉を開けて、更に鍵付きケースを開けて取り出した猟銃に弾を詰めるまでに何分要した事か。
 その間何度も響く猪の悲鳴を聞きながら恐る恐ると玄関から様子を覗けば感電して動けなくなっている様子。運悪く設置した縄で作った簡単なトラップに引っかかり、パニックになって逃げようとした所で罠の紐のせいで逃げれなくて更にパニックになり何度も電気柵にぶつかってショック状態に陥ると言う、猟師としてラッキーと言う所だが、あまりにもえげつない結果に申し訳なくこれ以上苦しむ前にと散弾銃で仕留めさせてもらった。猟の期間じゃないけど安全に仕留める為に銃の使用は認められているからね。
 動かない相手に俺でも仕留められる、なるべく安全な距離で美味しく頂けるように一発で仕留めた。
 その命、美味しく血肉とさせてもらいますと手を合わせてから幸田さんに連絡をして猪をロープでしっかりと結んで柵がされてない場所からすぐ横を流れる沢に降りて首の太い血管を切り、近くの木にロープをしっかりと巻き付けてから川へと落した。これでみんなが来るころには血抜き完了。冷たい川の中にナイフを持つ手を付けながらはらわたを抜き取り、用意したバケツに入れて沢から上がれば烏骨鶏達が待ち構えていた。
 バケツを取りに行った時に烏骨鶏の小屋を開けたのが間違いだったか……
バケツからただよう臭いに興奮する烏骨鶏達は俺の周りをうろうろとするのを全然かわいくないと心の中で何度もつっこみながらもバアちゃんのコレクションの木製の盥に投げ入れた瞬間、真っ白な綿毛の天使達が血染めの悪魔に変身した。
「かわいくねぇ……」
 烏骨鶏達は大喜びだが、飼い主としては後で水遊びさせようと五右衛門風呂に水を足して温める様に薪もくべて置く。
 とりあえず腸だけは中身があるので与えなかったけど、ハサミで切り開いて台所横の水道でじゃぶじゃぶと洗い、塩でもみ洗いをして綺麗に塩を洗い流してチャック付きのビニール袋に入れて日付を書き、冷凍庫へと投げ込んでおいた。
 鮮血の悪魔達は気に入った所を盥から運び出して争奪戦をすると言う何とも言えないスプラッタな光景が広がるが、俺は竹ぼうきを取り出して血の付いた地面の証拠隠滅と言う様に地面を削る様に掃き掃除をして……川へと廃棄した。
 一応沈めた所から下流の所だけど、みんなこうやって浄化されていくんだよ。俺も浄化されそうだったけどこうやって無事命は続いている。水底に沈んだ猪を眺めながら俺の糧となって生きるが良いと、次の日には自然の摂理として押し出される短い付き合いに何して食べようかなーなんて思う俺はこの山奥の生活を絶対楽しんでいると自負している。



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