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斬 7
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圭斗も不憫だが正当な報酬を支払ってると自己の主張の正しさを言いながら昨日の人海戦術で貫通させ作り上げた渡り廊下を潜り抜けば……
広がる広い土間。
吹き抜けにした南側から陽光が降り注ぐ。
古民家特有の暗さなんてか難じる事無く。
部屋の奥まで春の柔らかな陽が射しこんでいる。
実際こんなにも明るくなるとは俺も思わなく、そのまま床も貼られてない下板を張っただけの床に上がって暖かな室内から街を見下ろす庭を覗く。
「意外にいい感じだな」
「夏は熱そうだけど」
そうぼやいた所で井上さんがやって来た。と言うか残ってたんだとこんにちはと挨拶をした所で
「住まいは先生の家の方だからって聞いたけど随分と思い切った事をやったね」
吹き抜けにした縁側を見上げ
「耐震が心配だけどその時はその時だと思う事にしたので」
築百年まではいかないけどそれなりに何が起きてもおかしくない年数に
「この家は意外に頑丈だぞ?
壁がないから不安かも知れないが柱は丈夫だし、梁がまた頑丈な良い木を使ってる。むしろここで手を入れて不安な場所も直したし、吉野の本気を見せてもらった」
良い家を見せてもらったとにこにこと台所の床に視線を落として
「うちもいつかあんないい床に直したいな」
ぼやくも
「お値段とご相談ください」
曾祖父の嫌がらせのような用意した木材の話しを聞いたのか苦笑を隠せないでいる井上さんはそうだなと呟き
「あと見たか?
こっちの檜風呂。昨日森下が完成させたぞ展望風呂を」
展望風呂?
「展望風呂とは何ぞや?」
首を傾げた所で三人そろって顔を見合わせて考えるより見た方が早いと風呂場へと向かえば
「なにこれ……」
大きな檜風呂と壁も檜に統一した所までは希望した物。
庭に面した窓もだが、何故か町の方の壁にまで窓が嵌っていた。
曇りガラスのはずだったが透明なスケスケの窓。
しかも檜風呂と同じ幅の大きな窓。
もろ外から丸見えのプライバシーゼロの窓。
「内田さん呼んでくれる?」
空気から想定外の物だと察した井上さんと宮下が二人そろって逃げ出すように浩太さんを呼びに行けば、恐る恐ると言う様に浩太さんはスマホを渡してくれた。
画面にはなぜか先生の名前。
総て察した……
だけど借りたスマホに向かって叫ばずにはいられない。
「クソ教師!!!
なんでこんな勝手な事しやがっつたあああぁぁぁっっっ!!!」
「むしろ屋根も要らないけど虫嫌いな綾人に合わせて妥協したのおおおぉぉぉっっっ!!!」
「せんせーうっせーっっっ!!!」
なぜか水野の悲鳴まで聞こえた。
なぜに草刈りしてるはずの水野は家の中に居る、何が起きてると思うも今は無視して
「せめて何かやるなら一言言えって言うだろ?!今まで散々妥協して来ただろ?!それが教師って言うもんだろ?!
てめぇが教えた報連相はどうした!」
「せんせーと綾人の仲じゃない。
シャイな綾人の代わりに本来の夢のお風呂を代わりに作ってあげただけでしょ?」
「俺の夢を返せ!
って言うかどうせ内田さんをだまして無理やり作らせたんだろ!
せんせーにはドラム缶で十分だ!沸騰するまで盛大に薪くべてやるから安心しろ!」
「ドラム缶風呂、それもまたおつだよな~」
ムフフと笑う鼻息のキモさにスマホを遠ざけてしまう。
「それにここまで作って元に戻せって言う綾人じゃないだろ?」
なんだその確信犯は。
せんせーの言うとおりだけどさ。
だけどさ……
「俺にだって夢はあるんだよっっっ!!!」
ガチャ切り。
ふーっ、ふーっとスマホに向かって威嚇をすればどうどうと宮下が慰めてくれた。慰めなのかと思いながらも
「先生がクソなんだーっ!!!」
思わず宮下に泣きついてしまえば俺から浩太さんのスマホを取り上げて
「そんなの今更だろ?
それよりもおいしい物いっぱい買って食べて先生の事は忘れようね?いつもの事なんだからさ?」
それでいいのかと思うも涙と鼻水を拭ってうんと頷いた所で
「ところで、お隣の家の土間の作り、どこかで見た覚えがある間取りなんだけどどういう事か説明できるよね?」
綾人を慰めるような柔らかい口調で突っ込むのかいと井上と浩太が声もなく叫ぶもそこは宮下を誰よりも知る圭斗が二人の手を取って引っ張っていく。
これからは見てはいけないあなたの知らない世界。
知らない事も幸せなのだと言う様に長沢さんがいる先生の元家の所まで連れて来て玄関周りの修理に励む。
何やら綾人の泣き声が聞こえてきたような気もしたが
「あの二人は何をやってる」
長沢さんの呆れた声に
「まぁ、綾人が宮下に怒られるのはいつもの事だから」
そう言えば自分の家の作業場を模したような作りの隣の家を思い出して
「ああ、怒られるのは仕方がない。全く若い物は気が早いと言うか何と言うか。
じっと構えてられないのも若い証拠。浩太、根気強く付き合う事を教えてあげなさい」
「いや、綾人君随分根気強いよ?
普通なら俺に非難を向ける所をいろいろ飲み込んでまず最初に原因の先生に向けたぐらい冷静だよ?」
先に一言俺から言わないといけない話だし、黙って先生の言いなりになる時点でこっちに非があるのが当然なのに、元々総てを許すつもりなのだろう原因に苦情を向ける辺り……
「金があるって懐が深くなって羨ましいな」
「圭斗君、そこは思っても口にしたらいけない事だよ。俺達は綾人君のような稼ぎ方が出来ないんだからない物ねだりをしてはいけない。身の丈って言うのはそういうものだから。
それにこの後俺もちゃんと怒られるつもりだから」
標準的な家庭だと思っていたのに崩壊させてしまった一家の主はお金があっても幸せにはなれない事を知るだけに注意した事で長沢が静かに頷くのを……
碌でもない親だったとはいえ陸斗を親から切り離して親になろうとする覚悟ある若者に注意を促すのはまるで父親だなと浩太の背中を眺めてた井上は静かに笑うのだった。
広がる広い土間。
吹き抜けにした南側から陽光が降り注ぐ。
古民家特有の暗さなんてか難じる事無く。
部屋の奥まで春の柔らかな陽が射しこんでいる。
実際こんなにも明るくなるとは俺も思わなく、そのまま床も貼られてない下板を張っただけの床に上がって暖かな室内から街を見下ろす庭を覗く。
「意外にいい感じだな」
「夏は熱そうだけど」
そうぼやいた所で井上さんがやって来た。と言うか残ってたんだとこんにちはと挨拶をした所で
「住まいは先生の家の方だからって聞いたけど随分と思い切った事をやったね」
吹き抜けにした縁側を見上げ
「耐震が心配だけどその時はその時だと思う事にしたので」
築百年まではいかないけどそれなりに何が起きてもおかしくない年数に
「この家は意外に頑丈だぞ?
壁がないから不安かも知れないが柱は丈夫だし、梁がまた頑丈な良い木を使ってる。むしろここで手を入れて不安な場所も直したし、吉野の本気を見せてもらった」
良い家を見せてもらったとにこにこと台所の床に視線を落として
「うちもいつかあんないい床に直したいな」
ぼやくも
「お値段とご相談ください」
曾祖父の嫌がらせのような用意した木材の話しを聞いたのか苦笑を隠せないでいる井上さんはそうだなと呟き
「あと見たか?
こっちの檜風呂。昨日森下が完成させたぞ展望風呂を」
展望風呂?
「展望風呂とは何ぞや?」
首を傾げた所で三人そろって顔を見合わせて考えるより見た方が早いと風呂場へと向かえば
「なにこれ……」
大きな檜風呂と壁も檜に統一した所までは希望した物。
庭に面した窓もだが、何故か町の方の壁にまで窓が嵌っていた。
曇りガラスのはずだったが透明なスケスケの窓。
しかも檜風呂と同じ幅の大きな窓。
もろ外から丸見えのプライバシーゼロの窓。
「内田さん呼んでくれる?」
空気から想定外の物だと察した井上さんと宮下が二人そろって逃げ出すように浩太さんを呼びに行けば、恐る恐ると言う様に浩太さんはスマホを渡してくれた。
画面にはなぜか先生の名前。
総て察した……
だけど借りたスマホに向かって叫ばずにはいられない。
「クソ教師!!!
なんでこんな勝手な事しやがっつたあああぁぁぁっっっ!!!」
「むしろ屋根も要らないけど虫嫌いな綾人に合わせて妥協したのおおおぉぉぉっっっ!!!」
「せんせーうっせーっっっ!!!」
なぜか水野の悲鳴まで聞こえた。
なぜに草刈りしてるはずの水野は家の中に居る、何が起きてると思うも今は無視して
「せめて何かやるなら一言言えって言うだろ?!今まで散々妥協して来ただろ?!それが教師って言うもんだろ?!
てめぇが教えた報連相はどうした!」
「せんせーと綾人の仲じゃない。
シャイな綾人の代わりに本来の夢のお風呂を代わりに作ってあげただけでしょ?」
「俺の夢を返せ!
って言うかどうせ内田さんをだまして無理やり作らせたんだろ!
せんせーにはドラム缶で十分だ!沸騰するまで盛大に薪くべてやるから安心しろ!」
「ドラム缶風呂、それもまたおつだよな~」
ムフフと笑う鼻息のキモさにスマホを遠ざけてしまう。
「それにここまで作って元に戻せって言う綾人じゃないだろ?」
なんだその確信犯は。
せんせーの言うとおりだけどさ。
だけどさ……
「俺にだって夢はあるんだよっっっ!!!」
ガチャ切り。
ふーっ、ふーっとスマホに向かって威嚇をすればどうどうと宮下が慰めてくれた。慰めなのかと思いながらも
「先生がクソなんだーっ!!!」
思わず宮下に泣きついてしまえば俺から浩太さんのスマホを取り上げて
「そんなの今更だろ?
それよりもおいしい物いっぱい買って食べて先生の事は忘れようね?いつもの事なんだからさ?」
それでいいのかと思うも涙と鼻水を拭ってうんと頷いた所で
「ところで、お隣の家の土間の作り、どこかで見た覚えがある間取りなんだけどどういう事か説明できるよね?」
綾人を慰めるような柔らかい口調で突っ込むのかいと井上と浩太が声もなく叫ぶもそこは宮下を誰よりも知る圭斗が二人の手を取って引っ張っていく。
これからは見てはいけないあなたの知らない世界。
知らない事も幸せなのだと言う様に長沢さんがいる先生の元家の所まで連れて来て玄関周りの修理に励む。
何やら綾人の泣き声が聞こえてきたような気もしたが
「あの二人は何をやってる」
長沢さんの呆れた声に
「まぁ、綾人が宮下に怒られるのはいつもの事だから」
そう言えば自分の家の作業場を模したような作りの隣の家を思い出して
「ああ、怒られるのは仕方がない。全く若い物は気が早いと言うか何と言うか。
じっと構えてられないのも若い証拠。浩太、根気強く付き合う事を教えてあげなさい」
「いや、綾人君随分根気強いよ?
普通なら俺に非難を向ける所をいろいろ飲み込んでまず最初に原因の先生に向けたぐらい冷静だよ?」
先に一言俺から言わないといけない話だし、黙って先生の言いなりになる時点でこっちに非があるのが当然なのに、元々総てを許すつもりなのだろう原因に苦情を向ける辺り……
「金があるって懐が深くなって羨ましいな」
「圭斗君、そこは思っても口にしたらいけない事だよ。俺達は綾人君のような稼ぎ方が出来ないんだからない物ねだりをしてはいけない。身の丈って言うのはそういうものだから。
それにこの後俺もちゃんと怒られるつもりだから」
標準的な家庭だと思っていたのに崩壊させてしまった一家の主はお金があっても幸せにはなれない事を知るだけに注意した事で長沢が静かに頷くのを……
碌でもない親だったとはいえ陸斗を親から切り離して親になろうとする覚悟ある若者に注意を促すのはまるで父親だなと浩太の背中を眺めてた井上は静かに笑うのだった。
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