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桜が咲く季節に 4

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 慣れた様に圭斗の家の駐車場に入ればそこには見慣れた飯田さんの車もあって
「あれ?」
 首を傾げている間にエンジン音に気づいてか家の中から
「綾人さん街には圭斗さんの家にご用事でしたか?」
 なぜか飯田さんが対応に出て来てくれた。
 その後をわらわらと見知った顔が雛鳥の如く付いてきた。
「綾っちだー」
「タイミング悪ー」
 園田、山田、川上は勿論葉山と下田まで居て
「旧理科部同窓会か?」
「陸斗から今なら神・飯田氏のケーキがあると聞いて全員集合!」
「ちなみに今全部食べ終えてしまった所です」
 申し訳ないと言う様に陸斗が言うも
「俺の分は家で待ってるから気にしなくていいぞー」
 気にするなと陸斗の頭を撫でていれば妙に背が伸びた事を実感した。そういや圭斗も今頃急成長したとか言ってたなと何れ俺よりも高い背になるのかと陸斗の頭を撫でながら心の中で涙を零していれば
「よし!皆綾っちの家に行くぞ!ケーキが待っている!」
 とんでもない事を言いやがった奴が居たが
「草刈り要因歓迎します」
 寧ろ大歓迎と言いながら言い出しっぺの川上の肩を掴んで当然やってくれるよな?という様に睨みつければ苦笑いされてしまった。
「それよりお前ら庭で騒ぐなら家の中に入れ」
 ラスボス圭斗が呆れた様にやってきて家に入ろうとするもそばにいた葉山を捕まえ
「これ台所まで運べー」
 車の中から食材をいろいろ運ばせるのだった。
 トランクの中身を見て慌てて下田も手伝いに戻ってきて、陸斗はとりあえずお茶の準備に家に入っていった。
「またいろいろ買ってきましたね?」
「そりゃあ、この間予定外の来客を押し付けたからそれなりの出費が出たはずだからな。うちのお客さんの世話をお願いしたんだから、代わりに補充はするさ。ただお金を渡すと借金返済に回すだろうからこうやって物資の支給。油断するとベジタリアンな生活に突入するからな。成長期の陸斗の為にも強制タンパク質の刑だ」
 袋いっぱいのソーセージやベーコン、チーズなどの詰まった袋と米袋を担いだ園田に炭酸水のケースを運ぶ山田、トイレットペーパーとティッシュペーパーを運ぶ川上。
 合宿で慣れているとは言え
「ずいぶん買い込みましたね。買い物大変じゃありませんでした?」
「ムカつく従弟がこんな時期なのに転勤になるからと挨拶に来たから。ついでに買い物手伝わせたから大した事じゃないし」
 最後に俺と飯田さんが優雅に手ぶらで家の中に入る。
 飯田さんは夏樹が来た事に険しい顔をしたけど
「こうやって移動し続ければあいつらからの足取りも判らなくなるだろうから反対はしない。ただ陽菜が今の高校辞める事になるからどうするかの相談で、定時制から全日制に変更は出来るけど単位とか課程が異なるから単位認定が行えないとかあって。一応行先の市内にはないけど隣の市にあるみたいだからどうにかならないか相談はするつもりらしいが、まあ毎日真面目に学校行って遅刻もないから向こうが受け入れてくれるのなら普通なら問題はないがな」
 まだ詳しく調べてもないし、夏樹の言葉だけじゃ納得もできないが
「夏樹自身もよくわからないのに相談する相手が居ないから不安って言った所なのかな」
 もう他に頼れる親戚はない。帰る家もない。
 それは俺も同じだと言いたいが、いずれ二人とも家庭を持った時ぶち当たるこの避けては通れない問題に正面から既に取り組んでいて、俺にみたいに親戚はいない、帰る家はここだけと割り切るにはまだ時間が足りないようだった。
 どうするんだかと頭を悩ませるも隣に立つ飯田さんはくすくすと笑みを浮かべ
「ずいぶん仲良くなりましたね?」
「誰と?!」
 まさか夏樹と?!やめてくれ!!!だらだらと嫌な汗を吹き出せばぷっと噴出してまで笑う飯田さん。
「冗談やめろよ」
「いいえ?冗談じゃありませんよ」
 じっと俺を見て手を俺のおでこに伸ばし
「まだ熱が出てない。調子よさそうじゃないですか」
「耐性が少しできただけだよ」
 再会して三度目の遭遇。対面時間は一時間と短いとしてもだ
「凄い成長です」
 そして今度は俺が頭を撫でられた。
 クソッ、俺が身長の伸びの悪さを気にしてるのを知ってるくせに
「身長だってまだまだ成長してやる!」
「なら俺はそれを止める魔法をかけて置く」
 言いながらもう伸びるなーと頭をなでなでとする腕から逃げる様に家の中へと飛び込めば飯田さんの笑い声を避ける様に圭斗の背中にはりつけばうざそうな視線をしていたけど、今の俺は大量の貢物と引き換えに拒否られる事はない事を知っているので背中に張り付き放題だ。
「圭斗さん憑りつかれてますね」
「下田、憑りつかれてるとか言うな」
 俺が違うと言うも
「まぁ、装備品としてはご飯を運んできてくれるから幸運上昇のアイテムと思えば多少のうざさも問題ない」
「何気に酷いっすよ圭斗さん」
 川上がドン引きする横で飯田さんは大笑いしておなかを抱えていた。
「いいんだよ飯代ぐらい。また何かあれば絶対圭斗に面倒かける事になるから。先行投資だと思えば安い物だ」
「そしてこの菓子がお前達のおやつにならなければ問題ない」
 クッキーの缶とかせんべいの缶とか台所の一角に積まれているが既に開けようとする猛者がこの空気の悪さにせんべいの缶を抱えて逃走した。
「山田の野郎……」
 居間の方では強奪成功で賑やかになったけどまあいいかと思うも、陸斗がクッキーの缶をじーっと見ているのを見て
「陸、今のうちに部屋に隠しておけ」
 言えば嬉しそうな顔をして
「じゃあ一つ頂きます」
 足取り軽く階段を駆け上がって部屋のドアを開ける音を聞くのだった。
「悪いな、あいつらに取られてもいいように余分に買ってもらって」
「俺の陸斗を健康的に太らせる計画におやつは必須だろう」
 インスタント麺や素麺とか麺類最強と大量に買い込んだので当面小腹すいた時対策は万全だと思う。
「だがな、さすがに買い過ぎというか貰い過ぎじゃないかと思うんだが……」
「圭斗君気にしないでください。今回の買い物は食べ物を買うのがメインではなく夏樹君をこき使うのがメインなので綾人君に付き合ってください」
 申し訳ない位に有り難いと言う顔が一気に歪んで
「うえ、従兄の奴来てたのかよ。そう言う時はすぐに俺を呼べ」
「まぁ、今日はいきなりだったからね。それにこんな季節なのに移動が出たとかで今週中には引っ越しを済ませないといけないとか。こんな所に来てないで引っ越しさっさと済ませろよって奴だ。これで当分来る事もないだろう」
 そう思うとすっきりとした気分に自然に笑顔になるのをそれはいい事だと圭斗も飯田も頷くのだった。
 どれだけ嫌われてるんだと夏樹との事を知らない葉山達は見ないふうにして急須などを運びながら居間へと移動してやっと座る。圭斗はまだ俺が買い込んできた食材を片付けるのに手いっぱいで、二階から降りてきた陸斗がお茶をふるまってくれるのだった。玄米茶うめー。
「だけど五月に移動何て大変ですねー。俺だって新学期始まってクラスが変わって馴染んだ所でさようならーなんてゴールデンウィークから引きこもり決定だね」
 川上のボヤキに確かにと思う。
「まぁ、高卒の学歴しかない俺が出来るアドバイス何て大した事言えないから。
 学校も向こうの定時制の学校と話をしてくれていると言っているから。そのうち勝手にやってくれる連絡を待ってればいいだけだ」
 やれる事は外にない他所の家の話しだと言いながら海苔の付いたせんべいを齧り、うまーとお茶を貰うのだった。

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