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山を歩くも柵はどこだ 11
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車は道路のすみに止める。駐車場は内田さんと圭斗君の車で一杯だった。
そして入口のすぐ側にももう一台止まっていて、俺もその後ろにつけるのだった。
賑やかな物音を探すようにこんにちはと声をかけながらお邪魔をすれば
「飯田さんいらっしゃい」
圭斗君がすぐに見つけてくれて挨拶をすれば浩太さんも手を止めて
「飯田さんいらっしゃい。何かいい匂いをさせてますね」
「判ります?」
言いながらコンテナを見せれば
「おやつの時間には少し遅いので、良ければお持ち帰りください」
三時過ぎたばかり。時間は丁度だが目的はこの場での食事ではない。だけど気づかれなくていい事なのでデモンストレーション代わりにコンテナの蓋を開けようとした所で
「車が止まったから見に来れば飯田君だったか」
「お邪魔してます。おやつを作ってきましたが時間が少し遅いので……」
甘いものは少し苦手な内田さんと見たことのない人がいた。向こうは向こうで警戒されてしまったがこっちはサービスのプロ。にっこりと綾人さんでさえ一年近くかけて警戒を解いた笑顔で
「初めまして、おじゃましてます」
ニコニコと挨拶をすれば浩太さんが
「長谷川さん、彼は吉野の家に休日に東京から遊びに来てくれる飯田さんです。綾人君にちゃんとしたご飯食べさせてくれて東京で料理人してるんですよ。
飯田さん、彼は長谷川さんで綾人君の家の柵の工事の事話を聞いてると思うけど、請け負ってくれた長谷川工務店の社長さんです。
去年の秋の熊の時みたいな怖い思いを少しでも回避できるように頑張ってくれるそうです」
ニコニコと紹介をしてくれる浩太さんの笑顔は少し固いが、それなりに上下関係があるのだろうと同じく上下関係の厳しい世界を見てきただけにご苦労様ですと心の中でねぎらい
「それでは安心できますね」
言えば長谷川さんはムッとした顔をして
「柵を張ったからといって絶対の安心は約束できんぞ」
難しい顔に俺はそうですと頷いて
「それでも綾人さんが一人で熊と対峙する機会が少しでも減れば安心ですので。
さすがに庭に熊がうろついているのはゾッとしますね」
あの時は参ったと言うようにボヤけばふむと探る目に
「で、その時はどうしたんだ?」
「電気の柵に囲まれた畑に侵入しようとしたのですが諦めて山に帰るのを見送ろうとした時運悪く来客がありまして。
熊に気付かずにやってくるから綾人君が囮になるから仕留めてくれと。
鉈やチェーンソー持って無茶をしてくれました」
「鉈とチェーンソー?!
で、大将は?!」
綾人さんと言うか吉野のことをそう呼ぶのかと聞きながら
「綾人さんの指示通り俺が猟銃で仕留めました。綾人さんも怪我をせず、お客様もご無事です」
綾人さんとあってるなら分かるだろうと呆れてしまうもそれは顔は勿論言葉の端端からも感じ取らせない。これは青山から学んだ技術だ。
「そうか。そうか……」
ほっとしたように深呼吸を繰り返して
「大将を助けてくれてありがとう」
「いいえ、こちらもいつもお世話になっている身なのでこれぐらいはお役に立たなくては」
普段は鉈とチェーンソーでバトってるなんて話したら卒倒するだろう。言えばすぐにここに住みなさいと言いそうなのでそこまでは話はしないが
「それで肝心の綾人君は?」
浩太さんが車から降りてこないことで一緒じゃない事に首を傾げ
「今日はこの春第一回目の山周りに出られて、柵の様子を見てきてました。
西側のおばあさんの花畑の下の柵が倒木に巻き込まれて柵も根こそぎやられていたようで。足場がしっかりしてからお願いしないととぼやいてました。その後は柵の周りをぐるりと草刈りしながら戻ってきたようで疲れて今頃お昼寝から起きられた所でしょう」
おやつは置いてきた。食べていいですよとメモも置いてきたから寝ぼけながら手掴みでパイを食べている光景を思い出せば自然と笑みが浮かぶ。
だけど工事を任せられた長谷川さんは難しい顔をして
「そうなると倒木も取り除かないといけねえな」
「三本ほど倒れていたと」
「となると他にも倒れそうな木があるな」
さらに難しい顔。
「すぐにでも見に行きたいが……」
「まだ雪が残ってるのでゴールデンウィーク明けがいいだろうと言ってました」
「かあっ!!!
こっちはしっかり雪解けもしたのにまだ残雪が残るか」
「長谷川よ、山はまだ雪が降る。焦ると怪我人が増えるのはお前も知ってるだろ」
呆れたような内田さんの言葉にわかってはいるがとうめく。
「どの道少し間引かないといけないだろう。
綾人君が去年の秋から幸田達から木の切り方を学んでいる。とは言えまだどの木がいいとか見極めが甘いが綾人君ならすぐに分かるようになるだろう。今回には間に合わないだろうが」
柵ができる前に切れたら色々楽だろうになとぼやけば長谷川さんがニヤリと笑う。
「一度見てから俺から声をかけに行く」
「長谷川よ、綾人君にまず聞いてからにしろ。お前はそう言った突っ走るのがたまにキズだ」
「はんっ!お前と言い長沢と言いじっくり待ち構えるのはこっちの性にあわないだけだ」
顎をあげて言い切るも
「長谷川、お前はこの歳になってガキみたいなことまだ言ってるのか」
噂をすれば何とやら。
「おう長沢、確かお前も吉野の大将とつるんでたな」
「ああ、今回の御仁も人使い荒いぞ?
吉野の離れの修復で引退する気だったのに今度はこの家の修復ときた。まだまだ休ませてくれねえらしい」
言うもその顔はどこか嬉しそうだが
「そうだ内田、お前んとこの孫一人でぶらついてたぞ」
だから連れてきたと影から俯き加減に出てきた小さな姿に誰もが口を閉し、誰もの顔が歪んだ。
そして入口のすぐ側にももう一台止まっていて、俺もその後ろにつけるのだった。
賑やかな物音を探すようにこんにちはと声をかけながらお邪魔をすれば
「飯田さんいらっしゃい」
圭斗君がすぐに見つけてくれて挨拶をすれば浩太さんも手を止めて
「飯田さんいらっしゃい。何かいい匂いをさせてますね」
「判ります?」
言いながらコンテナを見せれば
「おやつの時間には少し遅いので、良ければお持ち帰りください」
三時過ぎたばかり。時間は丁度だが目的はこの場での食事ではない。だけど気づかれなくていい事なのでデモンストレーション代わりにコンテナの蓋を開けようとした所で
「車が止まったから見に来れば飯田君だったか」
「お邪魔してます。おやつを作ってきましたが時間が少し遅いので……」
甘いものは少し苦手な内田さんと見たことのない人がいた。向こうは向こうで警戒されてしまったがこっちはサービスのプロ。にっこりと綾人さんでさえ一年近くかけて警戒を解いた笑顔で
「初めまして、おじゃましてます」
ニコニコと挨拶をすれば浩太さんが
「長谷川さん、彼は吉野の家に休日に東京から遊びに来てくれる飯田さんです。綾人君にちゃんとしたご飯食べさせてくれて東京で料理人してるんですよ。
飯田さん、彼は長谷川さんで綾人君の家の柵の工事の事話を聞いてると思うけど、請け負ってくれた長谷川工務店の社長さんです。
去年の秋の熊の時みたいな怖い思いを少しでも回避できるように頑張ってくれるそうです」
ニコニコと紹介をしてくれる浩太さんの笑顔は少し固いが、それなりに上下関係があるのだろうと同じく上下関係の厳しい世界を見てきただけにご苦労様ですと心の中でねぎらい
「それでは安心できますね」
言えば長谷川さんはムッとした顔をして
「柵を張ったからといって絶対の安心は約束できんぞ」
難しい顔に俺はそうですと頷いて
「それでも綾人さんが一人で熊と対峙する機会が少しでも減れば安心ですので。
さすがに庭に熊がうろついているのはゾッとしますね」
あの時は参ったと言うようにボヤけばふむと探る目に
「で、その時はどうしたんだ?」
「電気の柵に囲まれた畑に侵入しようとしたのですが諦めて山に帰るのを見送ろうとした時運悪く来客がありまして。
熊に気付かずにやってくるから綾人君が囮になるから仕留めてくれと。
鉈やチェーンソー持って無茶をしてくれました」
「鉈とチェーンソー?!
で、大将は?!」
綾人さんと言うか吉野のことをそう呼ぶのかと聞きながら
「綾人さんの指示通り俺が猟銃で仕留めました。綾人さんも怪我をせず、お客様もご無事です」
綾人さんとあってるなら分かるだろうと呆れてしまうもそれは顔は勿論言葉の端端からも感じ取らせない。これは青山から学んだ技術だ。
「そうか。そうか……」
ほっとしたように深呼吸を繰り返して
「大将を助けてくれてありがとう」
「いいえ、こちらもいつもお世話になっている身なのでこれぐらいはお役に立たなくては」
普段は鉈とチェーンソーでバトってるなんて話したら卒倒するだろう。言えばすぐにここに住みなさいと言いそうなのでそこまでは話はしないが
「それで肝心の綾人君は?」
浩太さんが車から降りてこないことで一緒じゃない事に首を傾げ
「今日はこの春第一回目の山周りに出られて、柵の様子を見てきてました。
西側のおばあさんの花畑の下の柵が倒木に巻き込まれて柵も根こそぎやられていたようで。足場がしっかりしてからお願いしないととぼやいてました。その後は柵の周りをぐるりと草刈りしながら戻ってきたようで疲れて今頃お昼寝から起きられた所でしょう」
おやつは置いてきた。食べていいですよとメモも置いてきたから寝ぼけながら手掴みでパイを食べている光景を思い出せば自然と笑みが浮かぶ。
だけど工事を任せられた長谷川さんは難しい顔をして
「そうなると倒木も取り除かないといけねえな」
「三本ほど倒れていたと」
「となると他にも倒れそうな木があるな」
さらに難しい顔。
「すぐにでも見に行きたいが……」
「まだ雪が残ってるのでゴールデンウィーク明けがいいだろうと言ってました」
「かあっ!!!
こっちはしっかり雪解けもしたのにまだ残雪が残るか」
「長谷川よ、山はまだ雪が降る。焦ると怪我人が増えるのはお前も知ってるだろ」
呆れたような内田さんの言葉にわかってはいるがとうめく。
「どの道少し間引かないといけないだろう。
綾人君が去年の秋から幸田達から木の切り方を学んでいる。とは言えまだどの木がいいとか見極めが甘いが綾人君ならすぐに分かるようになるだろう。今回には間に合わないだろうが」
柵ができる前に切れたら色々楽だろうになとぼやけば長谷川さんがニヤリと笑う。
「一度見てから俺から声をかけに行く」
「長谷川よ、綾人君にまず聞いてからにしろ。お前はそう言った突っ走るのがたまにキズだ」
「はんっ!お前と言い長沢と言いじっくり待ち構えるのはこっちの性にあわないだけだ」
顎をあげて言い切るも
「長谷川、お前はこの歳になってガキみたいなことまだ言ってるのか」
噂をすれば何とやら。
「おう長沢、確かお前も吉野の大将とつるんでたな」
「ああ、今回の御仁も人使い荒いぞ?
吉野の離れの修復で引退する気だったのに今度はこの家の修復ときた。まだまだ休ませてくれねえらしい」
言うもその顔はどこか嬉しそうだが
「そうだ内田、お前んとこの孫一人でぶらついてたぞ」
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