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山を歩くも柵はどこだ 2
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古めかしく変色した山の地図を広げる。見事メモ書きのような家と川と道路、畑の位置と目印の木の名前が地図に書かれた簡易的な地図だった。まぁ、山の細かい地図描かれても判る物かという所だが、先生の協力があれば最近の山の様子が分るだろう。一冬越えて別世界になっただろうが先生の感覚的な物は信じれる物かと考えていれば
「一度山の様子を見たい。健太郎!」
家の中に向かって声をかければ重い足取りの人が来て
「呼んだか?」
「おう、お前暇だろうからこれから吉野の家の方を見に行くぞ」
暇?と思えばその左手はがっちりと包帯が巻かれていて
「どうしたのですかそれ……」
聞かずにはいられない痛々しい姿だった。
健太郎と呼ばれて、浩太さんと同年代ぐらいの人は
「少しばかりミスってな」
「ミス何て生易しい事じゃないでしょ!
もう、機材に巻きこまれてもう少しで腕が引きちぎられるんじゃないか心配したわよ!」
ぺしりと長谷川さんの奥さんが健太郎さんの頭を叩く。息子には容赦なしのようだ。
腕が引きちぎれると聞いてうわぁ、重症じゃんなんて思うも
「利き手じゃなかっただけましだ。これに懲りて仕事中はちゃんと集中しろ」
「仕事中はちゃんと集中してる!今までだって指切り落としたりした事なかっただろ!」
反論した瞬間思わず痛いっ!と目を瞑ってしまった所でゴツンと派手な音がきこえ、ゆっくりとそーっと目を開ければ頭を抱えてしゃがみこんでいる健太郎さんが居た。
「っ!!!」
叫び声は堪えたものの目尻には涙が浮かんでいて容赦ないなあと黙って見守っていた。
「当たり前のことを自慢してどうする。当たり前な事なら当然とするものだろう」
厳しい声だがその視線は心配そうな色が浮かんでいて、事故当時大変だった事を伺いしれた。
何だか話が長くなる気がしてお菓子を食べながら待つ事にすれば奥さんが新しくお茶を持って来てくれた。ああ、やっぱり長くなるんだなと諦めようとすれば
ばこっ!ばこっ!
アルミニウムのお盆で殴られるような音が響いたかと思えばいつの間にか蹲るお二人様に顔が引きつるのは当然だと思う。
「お客様がお見えになっているのにお前達は何お客様をしかも吉野の坊ちゃまを無視して何遊んでいるんだい!」
長谷川家の奥方は肝っ玉母ちゃんタイプのようだ。思わず両手でお湯のみを包むようにしてヘラヘラと笑いながらごゆっくりと言ってしまうのはこんな場合の対応の仕方がわからないから。わかるわけないだろうと心の中でツッコむ横で沢村さんは慣れたものだと言うように存在感を消してお茶をゆっくりと飲んで時間を潰していた。
「所で吉野の、柵はどんな状態かわかるか?」
正面のソファに健太郎さんと与一さんが並んで座ってメモ用紙を取り出して聞く体制を整えているのを見て
「昔、ジイちゃんに連れられて見に行った時にはもうガタガタで、大分雪の重みで崩れてました。
去年の秋には熊が庭先まで来たので在ってないようなものの状態かと。裏の山も狐が入ってこれるぐらいだし、家の周りを柵が囲んでいるっていうおまじない程度の認識でしょうか」
「よくそんなんであの山で一人暮らしできたな」
「バアちゃんが言うから間違いなしっていう所でしょうか」
キリッとした顔でバアちゃんの言葉だからと言うように言い切れば奥さんが両手でてをかくして
「弥生ちゃんあんたは昔から適当なんだから!」
何て泣き叫んでいたけど、その手の抜きかたを見て来たからこそ俺でもあんな僻地で生きてこれたと言うもの。ゴミ捨ての分別の如くきっちりと仕分けられた生活を山の上でなんてまず無理だ。
「とりあえずだ。一度どんな状態か見てみたい。山に詳しいのはいるか?」
「まだ雪が積もってるので冬の前から入ってないです。上に上がった所の整理ぐらいで、下は畑ぐらいまでです」
「あら、本当に家の周りだけなのね」
お菓子の次はリンゴを皮を剥いて持って来てくれた。おやつ責めはまだまだ続きそうだ。
「毎年ゴールデンウィークを目安に動き始めるんで」
「そうね。山の上は五月になっても雪が降るから。足場がぐちゃぐちゃになっちゃうものね」
「はい。そのまま崖から落ちたら痛いので歩ける程度まで待ちます」
「落ちたのかい?」
「落ちたので。新しいズボンだったのに穴が開きました」
言えば皆さん小さく吹き出す。
「気をつけないと。あの近辺は一応落ちても大丈夫な高さで段を作ってるけど、少し外れたらズボンだけじゃ済まないからな」
「はい。バアちゃんに見られたくないのには谷に捨てろって言われてます」
「弥生ちゃんあんたって人はっっっ!!!」
空に向かって吠える奥さんに
「バアちゃん相手にその程度の説教、効いたらんなアホな事孫に教えるわけないだろ」
「弥生ちゃーん!」
尚も空に向かって吠える様子に今度こそ全員が笑う。
バアちゃんの友達にこんな明るい人がいてくれてよかったと思えば
「猟友会の皆さんが一番詳しいかと思います」
先生を抜けばと言えば
「それで十分だ。
取りあえず今日は下の畑から見てまわろうか」
「っすね」
そう言ってやっと奥さんのおやつ責めから解放されるのだった。
因みに工務店を出ようとした所でおやつにとチョコレートを押し付けられて、断れなかったのでありがたくいただいた。沢村さんが。
「一度山の様子を見たい。健太郎!」
家の中に向かって声をかければ重い足取りの人が来て
「呼んだか?」
「おう、お前暇だろうからこれから吉野の家の方を見に行くぞ」
暇?と思えばその左手はがっちりと包帯が巻かれていて
「どうしたのですかそれ……」
聞かずにはいられない痛々しい姿だった。
健太郎と呼ばれて、浩太さんと同年代ぐらいの人は
「少しばかりミスってな」
「ミス何て生易しい事じゃないでしょ!
もう、機材に巻きこまれてもう少しで腕が引きちぎられるんじゃないか心配したわよ!」
ぺしりと長谷川さんの奥さんが健太郎さんの頭を叩く。息子には容赦なしのようだ。
腕が引きちぎれると聞いてうわぁ、重症じゃんなんて思うも
「利き手じゃなかっただけましだ。これに懲りて仕事中はちゃんと集中しろ」
「仕事中はちゃんと集中してる!今までだって指切り落としたりした事なかっただろ!」
反論した瞬間思わず痛いっ!と目を瞑ってしまった所でゴツンと派手な音がきこえ、ゆっくりとそーっと目を開ければ頭を抱えてしゃがみこんでいる健太郎さんが居た。
「っ!!!」
叫び声は堪えたものの目尻には涙が浮かんでいて容赦ないなあと黙って見守っていた。
「当たり前のことを自慢してどうする。当たり前な事なら当然とするものだろう」
厳しい声だがその視線は心配そうな色が浮かんでいて、事故当時大変だった事を伺いしれた。
何だか話が長くなる気がしてお菓子を食べながら待つ事にすれば奥さんが新しくお茶を持って来てくれた。ああ、やっぱり長くなるんだなと諦めようとすれば
ばこっ!ばこっ!
アルミニウムのお盆で殴られるような音が響いたかと思えばいつの間にか蹲るお二人様に顔が引きつるのは当然だと思う。
「お客様がお見えになっているのにお前達は何お客様をしかも吉野の坊ちゃまを無視して何遊んでいるんだい!」
長谷川家の奥方は肝っ玉母ちゃんタイプのようだ。思わず両手でお湯のみを包むようにしてヘラヘラと笑いながらごゆっくりと言ってしまうのはこんな場合の対応の仕方がわからないから。わかるわけないだろうと心の中でツッコむ横で沢村さんは慣れたものだと言うように存在感を消してお茶をゆっくりと飲んで時間を潰していた。
「所で吉野の、柵はどんな状態かわかるか?」
正面のソファに健太郎さんと与一さんが並んで座ってメモ用紙を取り出して聞く体制を整えているのを見て
「昔、ジイちゃんに連れられて見に行った時にはもうガタガタで、大分雪の重みで崩れてました。
去年の秋には熊が庭先まで来たので在ってないようなものの状態かと。裏の山も狐が入ってこれるぐらいだし、家の周りを柵が囲んでいるっていうおまじない程度の認識でしょうか」
「よくそんなんであの山で一人暮らしできたな」
「バアちゃんが言うから間違いなしっていう所でしょうか」
キリッとした顔でバアちゃんの言葉だからと言うように言い切れば奥さんが両手でてをかくして
「弥生ちゃんあんたは昔から適当なんだから!」
何て泣き叫んでいたけど、その手の抜きかたを見て来たからこそ俺でもあんな僻地で生きてこれたと言うもの。ゴミ捨ての分別の如くきっちりと仕分けられた生活を山の上でなんてまず無理だ。
「とりあえずだ。一度どんな状態か見てみたい。山に詳しいのはいるか?」
「まだ雪が積もってるので冬の前から入ってないです。上に上がった所の整理ぐらいで、下は畑ぐらいまでです」
「あら、本当に家の周りだけなのね」
お菓子の次はリンゴを皮を剥いて持って来てくれた。おやつ責めはまだまだ続きそうだ。
「毎年ゴールデンウィークを目安に動き始めるんで」
「そうね。山の上は五月になっても雪が降るから。足場がぐちゃぐちゃになっちゃうものね」
「はい。そのまま崖から落ちたら痛いので歩ける程度まで待ちます」
「落ちたのかい?」
「落ちたので。新しいズボンだったのに穴が開きました」
言えば皆さん小さく吹き出す。
「気をつけないと。あの近辺は一応落ちても大丈夫な高さで段を作ってるけど、少し外れたらズボンだけじゃ済まないからな」
「はい。バアちゃんに見られたくないのには谷に捨てろって言われてます」
「弥生ちゃんあんたって人はっっっ!!!」
空に向かって吠える奥さんに
「バアちゃん相手にその程度の説教、効いたらんなアホな事孫に教えるわけないだろ」
「弥生ちゃーん!」
尚も空に向かって吠える様子に今度こそ全員が笑う。
バアちゃんの友達にこんな明るい人がいてくれてよかったと思えば
「猟友会の皆さんが一番詳しいかと思います」
先生を抜けばと言えば
「それで十分だ。
取りあえず今日は下の畑から見てまわろうか」
「っすね」
そう言ってやっと奥さんのおやつ責めから解放されるのだった。
因みに工務店を出ようとした所でおやつにとチョコレートを押し付けられて、断れなかったのでありがたくいただいた。沢村さんが。
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